George in Australia 19822022/01/04 20:18

 以前の記事で、今年2022年はジョージの [Gone Troppo] の発売から40周年だということに言及した。
 本当に名作アルバムなので、多少なりとも注目してもらいたいと思う。
 このアルバムは、とにかく「売れなかった」と言われすぎである。ほかに言うべきことは山のようにあるのに、元ビートルズともなると、売れなかったこと自体が事件なのだろう。
 ジョージはまったくプロモーションをする気が無かったし、レコード会社もそのジョージの態度に合わせたと、私は解釈している。ワーナー・ブラザーズ・レコードのトップにいた、モ・オースティンはジョージの理解者だったのだろう。1982年はジョージの好きなようにさせて(要は積極的に売らなかった)、5年後にはもの凄い商業的な成功をするのだから、悪い判断ではなかったと思う。

 この時期 ―― 1982年のジョージというのは、アルバムを出した以外はメディアへの露出が極端に少なく、その後の「引退説」へとつながる。
 当人は別にガツガツ稼ぐ必要も無し、好きに過ごしていただけで、家族とオーストラリアのハミルトン・アイランドでの休日を楽しんでいる。
 オーストラリアの朝の情報番組、Good Morning Australia が、ジョージの単独インタビューに成功しており、その動画が動画サイトに上がっている。
 かなり画像が悪く、途中で音声が切れるが、貴重な41歳のジョージの姿だ。



 若いし、髪が短いから、まじめにデイモン・ヒルかと思った。Damon Hill と字幕をつけられたら、信じてしまう。ジョージ曰く今の自分は、「元ポップ・スター、平和主義者(peace-seeker)、庭師(笑)」
 インタビューした女性キャスターによれば、ジョージは「静かなビートル」というより、ジェントルマンで、誠実で、ユーモアがあったとのこと。最近はあまり使われる言葉ではないが、この頃はまだ、ジョージというのは「静かなビートル」とカテゴライズされていたようだ。

 やはりジョンが亡くなってから1年と少ししか経っていないので、その話題になる。自分の身の安全的にも、精神的にも大きな影響があり、どんな人も殺されて良い理由などない。
 ジュリアン・レノンについてのコメントを求められているのも興味深かった。ジュリアンのデビューは1984年だが、その前から既にミュージシャンになる(らしい)ことは、知られていたようだ。ジョージ曰く、見た目こそジョンに似ているが、ジュリアンはジョンよりずっと優しくて穏やかだとのこと。ジョンにはちょっとタフできついところがあったが、ジュリアンはお母さんに似たらしい。だから、ジョンとジュリアンを比べることは出来ない ―― 
 確かに、[Get Back] と見ていても、ジョンって時折、ややきつい感じがする。そういう所も含めて格好良かったのだろう。

 後半では、ジョージの宗教観、死生観が語られるが、ちょっと内容に(英語に?)ついていけない。
 超常現象を信じる?という話になると雨が降ってきて、話がまとまらなくなった。

 ジュリアンの話になったので、ついでに "Saltwater" を貼り付けておく。凄く良い曲だし、ジョージのスライド・ギターも完璧に調和している。

Tom Petty & the Heartbreakers Up on the Roof2022/01/08 21:11

 ビルの屋上でライブをするロック・バンドのことが、去年から話題に上っているが、あきらかなコピーをした人も多い。1985年のトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズもその一つである。
 場所はフロリダ州中部、セント・ピーターズバーグのリゾート・ホテル,ホテル・セザールの屋上である。



 元祖ビートルズのルーフ・トップとは対照的すぎて面白い。
 本家が真冬のロンドンの曇天のもと、寒さに震えてコートを着込み、鼻を赤くし、こわばった表情で演奏していたのに対して、こっちは常夏のフロリダ!青い空と海、輝く太陽、ピンク色の軽薄なホテルで、短パンにサングラス!夏だぜ、Yeah!
 最後に登場する警官(?)も明らかに緊張感がなく、本家ロンドン・スコットランドヤードの青年警官とは正反対の、おなかがまん丸く突き出したおじさんではないか。

 曲目は、まずデビューアルバムからの "Strangered in the Night"。故郷フロリダを案内する画像を挟んで、最新アルバム [Southern Accents] の "Dogs on the Run"――
 1985年なので、女性ファンの間で史上最悪と評判のもみ上げスタイルだが、幸いにもトップハットを被ってサイドが抑えられているので、美人な「女優」トムさんである。
 ハウイがヘフナーのベースを使っているのは、比較的珍しいのではないだろうか。少し変わったカラーリングで面白い。やっぱりルーフ・トップなので、選ばれたベースなのかも知れない。

 こっちなんて、カナダ,オンタリオの「ロンドン」での、本家ルーフ・トップ40周年演奏なので、雪である。見ているだけもぞっとする!(そう、私はあの程度の雪で混乱する首都圏在住。雪かきで背中が筋肉痛)
 しかし、根性は見上げた物で、TP&HBの南国ルーフ・トップなんて、軟弱この上ないのではないだろうか。

I Fought the Law2022/01/12 12:25

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ,1978年のライブで、"I Fought the Law" が、動画サイトにあがっている。これが凄まじく格好良い。



 こういうのを聞くと、心底スタン・リンチがドラマーだった時代が懐かしい。もっとも、私は現役ファンとしてスタンの時代を知っているわけではないのだが。あのドタバタした疾走感、上手さより熱さと無邪気さが輝く感じで、これぞロックの青春!という醍醐味があって高なのだ。
 1978年だから、コーラスもスタンだろう。ベンモントやロンの声とは思えない。遠慮の無い大爆発的な演奏で、ギターとオルガンの容赦ない響きも、イカしてるとしか言い様がない。

 私はてっきり、この曲はザ・クラッシュがオリジナルの曲だと思い込んでいた。テレビ・コマーシャルの影響が強いのだろう。しかし、クラッシュがカバーしたのは、1979年だそうだ。だから、ハートブレイカーズのこの演奏より後、ということになる。クラッシュがハートブレイカーズの演奏に影響を受けた可能性は、排除できない。



 そもそものオリジナルは、バディ・ホリー亡き後のクリケッツで、ヒットさせたのは、1965年のボビー・フラー・フォーだそうだ。トムさんたちが聞いたのは、こちらの方だろう。



 他にも、ロイ・オービスンや、ストレイ・キャッツなどのカバーがある。
 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの、カバー曲集というアルバムがあるといいと思う。ストーンズやキンクス、ビートルズのカバーなどは、まだ公式になっていないが、ブートではけっこう出回っている。それこそ、ハートブレイカーズ、デビュー当時などのカバー・ソング集なんて、すごく聴き応えがあると思う。2,3枚組にしても喜んで買う。

You've Really Got A Hold On Me2022/01/16 20:30

 ウクレレは、いつも私と先生が一緒に曲を選び、先生がコードやメロディの弾き方を教え、私が楽譜に起こして練習するという流れになっている。既存のウクレレ楽譜はまったく用いない。
 曲は私の好みなので、ジャンル的にロック的なものが多く、当然ギターの使用が前提になっている。そうするとウクレレでの再現は色々制約がある。しかも先生と私は、"No Low G" 派なので(Low G を張るのは、ウクレレの特性を無視しているから)、その制約がさらに大きく、先生にとっても、けっこうチャレンジングである。
 一方で、私はウクレレとして望める最高品質であるコリングス使用者なので、普通のウクレレだったら不可能な音域までカバーできたりもする。

 今回の選曲は、"You've Really Got a Hold on Me" ―― もちろん、ビートルズのバージョンである。
 1962年にスモーキー・ロビンソンが作った曲なので、正統的な味わいのする曲だが、いざ自分で演奏し、譜面を書こうとすると、意外とトリッキーなので驚いた。
 まず、イントロがちょっとおかしい。一拍一拍は三拍子で刻んでいるくせに、出だしが7音なのだ。計算が合わない。厳密に言えばイントロ2拍だけは16分音符刻みで、冒頭が1休符+7と、とらえるか、もしくは大きな1拍に、7連符と考えてもいい。
 Aメロに入ると一見、4小節が二回の繰り返しのようだが、実はAメロの冒頭3小節だけが、後ろにくっついてから、本当のAメロに戻る、もしくはコーラスに進む ―― つまりは、Aメロが11小節あるという、クラシック人間的にはかなり妙な構成になっているのだ。モーツァルトには「冗談の音楽」といって、故意に小節数を狂わせている曲があるくらいだから、私は Aメロ11小節を理解するまで、ちょっと時間が掛かった。
 そのため、まだサビには進んではいないが、こちらも変拍子を使っているので、すんなりとは行かないだろう。

 オリジナルはスモーキー・ロビンソンの美声、ビートルズはジョンとジョージのツイン・ヴォーカルがイカした、シンプルな曲かと思いきや、実は様々なフレーズ、リズム上の工夫のある、興味深い曲なのだ。
 改めて聞いてみると本当に名曲で、ビートルズのカバー曲の中では、"Twist and Shout" に次ぐか、肩を並べるくらい好きだ。



 アルバム "with the beatles" のジャケットの素晴らしさも、象徴的だ。アストリッド・キルヒアの手法をビートルズのリクエストで再現したものだが、あまりの格好良さに、似たようなジャケットが雨後の竹の子のように出現した。
 しかしそういうコピーのいずれも、ビートルズには遠く及ばなかった。それは、ビートルズの四人の容姿の良さが群を抜いているからである。
 特に、ジョージの美形加減ときたら!若いし、モノクロだし、影があるしで、もう言うことないほどの素晴らしい造形。ギリシャ彫刻のような美しさとは、コレのことを言うのだろう。

さよならチャイコフスキー2022/01/20 19:52

 Work from Home なので、音楽を聞く時間はたくさんある。それを利用して、持っている CD を端から聞いていって、不要だと思ったら処分していくキャンペーン。ロック部門は終わり、いまクラシックを聞いている。
 そんなに持っていないだろうと思ったら、これが意外と持っている。バッハの鍵盤曲(ピアノ)や、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ,コンチェルトがやたらとあるのは分かるが、どうしてこんなものがと思う物もある。サン=サーンスの「オルガン」など、なぜか二枚ある。もちろん一枚は処分。カラヤンとベルリン・フィルなのでもったいなかったが、もう一枚が「死の舞踏」,「動物の謝肉祭」も一緒に収録していたので、「お得さ」が勝った。

 チャイコフスキーは意外にもピアノ・コンチェルトとヴァイオリン・コンチェルトを持っていないくせに、「交響曲5番」と、「序曲1812」を持っていた。
 前者のきっかけは覚えている。音大に入ったばかりの頃、何かの機会で生オーケストラの演奏を聴き、感銘を受けたのだ。特にあの輝かしい金管の響きにはやられた。私は高校生の頃ホルンを吹いていたので、そういう思い入れもあった。
 だが、しかし。いま聞いてみると…いまいち。なんというか、大袈裟なというか、何というか、中二病…?
 いったんそう聞こえてきたら、もう戻れない。どう聞いてもディズニー映画のサントラみたいな感じで(実際はディズニー映画がチャイコフスキーを模倣したのだろうが)、中二病感がどうしても拭えなくて、居心地が悪く、笑ってしまう。我ながらおかしい。ブラームスとか聞いても、そうは感じないのに。

 「1812」に至っては、本当に笑ってしまう展開になった。よく耳にする曲だし、ビートルズの映画 [Help!] の戦闘シーン(名シーンだ!)でも使われた。
 しかし真面目に冒頭から聞いていると、ああ…ごめん、無理だわ。―― という感じ。しまいには、サクト・ペテルブルグの本物の大砲だの、鐘だのが、とにかくうるさい。これを映像無し、音だけ聞いて、冗談抜きに感動することは、今の私には無理だった。演奏する側だったら違ったかも知れない。

 とにかくそのような訳で、たったの2枚しかなかったチャイコフスキーは、さっさと処分されてしまった。代わりにピアノ・コンチェルトとヴァイオリン・コンチェルトでも買った方が良さそうだ。
 なんだかチャイコフスキーがかわいそうなので、動画サイトから「1812」のフィナーレで、大砲をぶっ放しまくる動画をはりつけておく(ボストン・ポップス・オーケストラ)。これはこれで、馬鹿みたいで好きだ。検索すると、各国の正規軍がドカンドカン撃ちまくっており、日本もその例外ではない。そういう器機がお好きな人は色々楽しめるのではないだろうか

German Metal2022/01/24 20:17

 NHKラジオのドイツ語講座で初級編を去年の春から始めて、もうすぐ1年になる。もちろん、ドイツ語が話せるようにはなっていない。
 講師は、高橋亮介先生。毎回、ドイツ留学時代のエピソードを披露してくれるのだが、これがすごく面白い。ドイツということで、オペラやバレエの話もあるのだが、音楽的には圧倒的にメタルの話が多い。先生自身が「メタラー」で、メタル・フェスティバルに遠征して出会う、ドイツ語圏人たちの面白エピソードがあれこれ出てくる。
 中でも面白かったのは、「メタル・トレイン」。
 先生の留学先からはちょっと遠いし、宿泊もどうすれば良いのだろう、でも行きたい…という、あるメタル・フェス。なんと、アクセスの良い駅からフェス会場まで連れて行ってくれる、寝台列車があるという。その名も、「メタル・トレイン」!おお、これは素晴らしい!車中で寝れば、宿泊代が浮く上にフェスに参加できて、そのまま帰れる!…と、思ったら甘かった。列車は至る所で停車しては、待ちわびたメタラーを乗せ、そのたんびに車内は盛り上がる。盛り上がるもいいけど、ゆっくり寝ていられない。そしてフェス本番を堪能したら、またその列車に乗って、ゆっくりゆっくり各町でメタラーを降ろしてゆく…という、長く辛い旅だった!
 なんだか、わかるなぁ…好きな音楽のためなら山越え、谷越え、海越えて…一泊三日で LA にTP&HBを見に行った身としては、分かりすぎる。
 それにしても、「メタル・トレイン」?なんか凄そう…



 ドイツ語レッスンの会話の中には、将来の夢を語る少年が登場する。
 "Ja, ich werde später Gitarrist, so wie Kai Hansen!"
「うん、カイ・ハンセンのようなギタリストになりたいんだ!」

 高橋先生曰く、カイ・ハンセンはジャーマン・メタルの超大物。国際的な活躍をしているので、英語で歌ったり話したりするのに慣れていたので、いざドイツ国内でドイツ語を話すのを聞くと、急に普通のおじさん感が増したと言う話が面白かった。

 ジャーマン・メタル…そもそも、メタルって知らないんだけど。一度見てみないとね…



 わぁー!なんか凄い!これがあの有名な、「ヘドバン」だな!
 メタルだって、TP&HBだって、元をたどれば同じ音楽から派生したのだから、親戚みたいなものだが…それにしても、ロックの多彩さというものを思わずにはいられない。

Mike Campbell and the Dirty Knobs2022/01/28 21:43

 マイク・キャンベルのバンド、ザ・ダーティ・ノブズの新曲が YouTube 公開され、同時にセカンドアルバム [External Combustion] が3月2日に発売されること、更に3月から7月にかけて、全米ツアーを行うことが発表された。
 うわぁ!2020年にファースト・アルバムを出して、もうセカンド・アルバムだなんて、凄い!マイク、よっぽど曲想が尽きないんだな…

 全米ツアーなんてアメリカ人が羨ましすぎる。まぁ、この時期に本当に出来るのかどうか分からないが、ワクチン・パスポートや、陰性証明などを活用するのだろう。いいな…いいな…行きたいな…こっちは家からも出られないというのに。思いはアメリカに飛ぶ。ブルックリンの会場の地図見たりして。ああ…近くに良い感じのホテルもある…!
 ツアーのライブ会場は主にライブハウスだが、時々けっこうな大きさのころがある。カリフォルニアの Shoreline Amphitheatre なんて、私が生まれて初めてトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを見た、野外円形音楽堂ではないか。
 埋める自信があるんだな…思えば、マイクはどんどん「トム・ペティ化」しているし、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの曲もけっこう演奏してくれる。バンド名だって、ただの「ダーティ・ノブズ」から、「マイク・キャンベル&ザ・ダーティ・ノブズ」に改めたらしい。下手したら、ゲストによっては "Handle with Care" すらやりかねない。
 「国の宝:トム・ペティ」を失ったアメリカ人や、その他の国のロック・ファンたちは、意外にも未亡人のマイクが大活躍して、しっかりハートブレイカーズ・ファンの心を掴んでくれたことに、感謝しているのだろう。少なくとも、私はそうだ。

 さて、新曲の "Wicked Mind" である。イカしたゴキゲン・ロックンロールに、珍妙なミュージック・ビデオ。マイクの微妙な演技!若いハートブレイカーズ時代の、恥ずかしそうで控えめな青年と同一人物とはとても思えない
 そしてノブズのバンド・メンバーも、表情豊かに演じてくれる。



 完全に TP&HB 楽曲のオマージュのようで、そのくせ統一感があって、格好良い。エンディングなんて完全に "You Wreck Me" だ。
 これでよく分かるのは、マイクがギターという楽器の力を心底信じていて、その響きの良さを誰よりも理解し、愛していると言うことだ。
 格好良いコードをガシャガシャ弾きまくって、切れよく決めれば、極上のロックンロールになる。ことは単純だが、意外とギターを信じ切らないと出来ない。マイク・キャンベルという希有のミュージシャンだからこそ出来たサウンドかも知れない。
 面白いことに、マイクはけっこうブリッジ(トムさんは小節数に関係なくミドル・エイトと呼んでいた)に特色があることが分かる。後にギター・ソロの見所になるのだが、やり過ぎずに済ませる潔さとのバランスの絶妙。

 もう最高。このクォリティのアルバムが届くのかと思うと、待ち遠しくて仕方がない。
 ありがとう、マイク。マイクのおかげで、どれほどトムさんを失った喪失感から救われているか、計り知れない。