CRT 追悼トム・ペティ / レコード・ライブ2017/11/24 21:42

 トム・ペティの追悼イベントに、二つ続けて参加してきた。

 まずは、毎年ジョージ祭りでお馴染みの、レココレ・プレゼンツ,CRT。題して、「追悼トム・ペティ。アメリカン・ボーイは永遠に」CRTでトムさんを特集するのは、初めてだとのこと。
 トムさんのオリジナル・アルバムから、萩原健太さんが1曲ずつ選んで流し、CRTメンバーが語り合うという趣向。アルバムの代表曲だったり、意外な選曲だったり、どれを聴いても楽しい。
 格好良いよね、最高だよね、と語り合う中、まず印象的だったのは、「トム・ペティの容姿はイケているのか?!」という話。昔、ピーター・バラカンさんが推奨したものの、「顔がね…」という理由で、ある人に却下されたのだという。そこで女子,能地さんが猛然と抗議する。

 「トム・ペティ、正当派少女漫画系のイケメンじゃん!一条ゆかり先生が描くような!」

 男子の多い会場、やや引く。しかし、女子は大いに頷く。

 確かにジョージとか、そういう圧倒的な美形ではないが、トムさんは素敵な容姿をしていると思う。細くて、華奢で、完璧なサラサラ・ブロンドに、やや中性的な口元、シャイなグレイッシュ・ブルーの瞳。スポーツよりもアートの好きな、物静かで、でも純粋で心の強い感じ。
 それこそ、能地さんの言う「ツッパってて、でもちょっと頼りなくて、守ってあげたくなる弟キャラ。お姉ちゃん達に愛される」とは、的を射ている。トムさんの容姿と、抱きしめたくなるような音楽は、本当にそういう感じ。
 実際は、ジョージをはじめとする年上男子にも、トムさんは非常にモテた。



 もう一つ印象的だったのは、これも能地さんが言ったのだが、「何か使命を持った人だったんだ」ということ。
 少年の時、偶然とは言えエルヴィスに会ったことがあるだなんて、普通はそんな凄い経験はしない。しかも、地元の名士の息子であるベンモントが12か13歳のころに、楽器屋で声をかけているし、マイクとは19か20歳で初めて出会い、そのままずっと一緒にい続ける。この二人はロック史上に残るヴィルトゥオーソであるのに、運命的にトムさんと若い内に出会うのだ。何か使命のようなものがあったとしか思えない。
 しかも、ディランに共演者として指名され、数年かけてツアーを共にしたり、音楽シーンに帰ってきた頃のジョージと出会ったり。それでいて、スターにしては大したスキャンダルも、空白期間もなく、コンスタントにロックンロールを作り続けた。
 ロックンロールという音楽の歴史が、彼を必要としていたに違いない。トムさんだけではなく、ハートブレイカーズというロック・バンドを。ビートルズや、ストーンズと同じように。
 その使命を終えたとき、歴史は素早くトム・ペティを召し上げてしまった。 ― 司馬遼太郎に、そういう文章がなかったっけ?

 さて翌日は、[Live Anthology] を中心とした、レコードライブに参加。
 なんでも、アナログ・レコードを針ではなく、レーザーで読み取り、そのまま音にするとか言う仕掛けだそうだ。
 私はオーディオに殆ど興味がないし、第一に爆音主義ではない。音楽には心地よい音量というものがあり、大きければ良いとは全く思っていない。
 ともあれ、トムさんの音楽をみんなで聞きましょうという企画である。楽しかった。

 主催者さんは、「なんでこんな素晴らしいトム・ペティを、日本人は聴かないかな~」と悔しそうに語っていた。
 これは良く言われることだ。CRTでもそういう話題に何度かなった。日本と、英米との知名度の差が大きいアーチストの代表、トム・ペティ。なぜ、彼が日本で評価されないのか?

 私はどうも、この問いに関しては、「どうでも良い」と思っているようだ。
 まず第一に、彼はロックミュージックの本場で超一流の大スターだから。それで十分だし、だからこそ私のところにもCDや映像作品が届くのだ。生前は評価されずに、1枚しか絵が売れなかった画家とは、訳が違う。
 第二に、芸術,文化の分野で、「どうしてこれがメジャーじゃないのか?」なんてことはざらにある。私は能も雅楽も好きだが、これらは世界遺産に登録されたって、ビートルズやトム・ペティより遙かに無名だ。

 商売をする人が、強力に広範囲な宣伝すれば、ある程度は有名になるだろう。一方で、日本において、それが行われなかったトム・ペティは、ロックンロールの実力だけで私や、ファン達を魅了した。死去に際しては、メジャーな媒体でも報じられたし、日本語の追悼の言葉があふれ、イベントも開催されている。素晴らしいことではないか。
 べつに、悔しがることでも、何でもない。

 「いまさら」なんて言葉は、音楽には不要だ。亡くなってから彼を知り、好きになったって、初来日公演から好きな人と、ファンとしての価値が、どう違うというのだろう。亡くなってからでも良い、バンドなら解散してからでも良い。素晴らしい音楽に出会えれば、それがメジャーかどうかは、それほど重要ではない。
 私たち、そしてこれからのファンたちは、トム・ペティの凄さを知っている。それで目一杯、音楽としては幸せなのだ。

 無用に大きな音でトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを聴きながら、そんな風に思った。