Full Moon and Empty Arms2014/05/16 21:11

 ボブ・ディランが公式ページで、フランク・シナトラが歌った "Full Moon and Empty Arms" のカバーを発表している。
 年内になんらかのアルバム・リリースが決まっているらしく、その中に収録されるだろうとのこと。カバー・アルバムになるのかな?

 私はシナトラを全く知らないので、この曲を聴くのは初めてだ。どんな曲だろう?



 ええと…これは…あれでしょう…?
 ラフマニノフのピアノ・コンチェルト第2番。数あるピアノ・コンチェルトの中でもトップクラスに有名な名曲ではないか。
 Wikipediaで確認したところ、1945年にラフマニノフのピアノ・コンチェルト2番第3楽章のメロディをもとに、バディ・ケイとテッド・モスマンという人が作ったのがこの "Full Moon and Empty Arms" で、同年にフランク・シナトラが録音して有名になったそうだ。
 原曲の作曲こそ1901年ごろだが、ラフマニノフが亡くなったのは1943年。著作権上の問題はなかったのだろうか?それとも著作権という概念がなかったとか?

 シナトラの録音も聴いてみたのだが、どうも原曲の凄さを知っていると、台無し感が否めない。
 確かに甘く美しく、独特のメロディなのだが、ここだけを取り出してしまうと、甘ったるいだけのベタっとした曲に聞こえる。第一楽章から始まるあの重さ、荘厳で峻険さすら感じさせる曲想の中から湧き出るからこそ、あの甘美な美しさが映えると思うのだが。
 原曲はリヒテルで。"Full Moon and Empty Arms" のメロディは、23分ごろから。



 リヒテル…完全にボスはピアニストだ(かつて、グールドとバーンスタインがピアノ・コンチェルト(ブラームスだったかな?)の解釈で意見が合わず、「指揮者とソリスト、どちらがボスだ?」と報道された)。
 この曲はやはり冒頭の「鐘」から最後まで全て聞いて欲しい。最近では、フィギュア・スケートでよく使われている。

 セルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)。身長2メートル、巨大な手をもつピアノ・ヴィルトゥオーソでもあるロシア人作曲家。
 おそらく、私は一生彼の曲を弾かないだろう。手の条件が悪すぎる。私は目一杯手を広げても1オクターヴ(8度)しか届かず、ピアニストとしては手が小さすぎるが、一方ラフマニノフは12度は届いたという。いや、それ以上かも知れない。
 とにかく、ピアノ・コンチェルト第2番など、冒頭の左手がいきなり届かない。アウト!
 まぁ、たとえ手が大きかったとしても、あんな難しい曲、絶対に無理だと思うが。

 ディランの "Full Moon and Empty Arms" に話を戻すが、とにかく曲が甘いだけに、あのだみ声が…映える。良いかどうかはともかく。
 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズとディランがツアーをしていた80年代、ドラマーのスタン・リンチがリハーサルを抜け出して、フランク・シナトラのコンサートに行こうとしたら、ディランが「俺も行く!」と言いだし、二人で見に行ったという可愛い話がある。
 ディランもシナトラが好きなんだなぁ。スタンとのエピソードもさることながら、このカバーを聴いてもよく分かる。
 しかし、私は甘い曲があまり好きではないので…いずれ発売されるであろうアルバムがどうなるのか、ちょっと心配。そろそろエッジの効いた、ハードなサウンドが聴きたいですよ、ディラン様。