正倉院の楽器 / 私は鳥刺し2012/11/11 23:28

 NHKの美術番組「日曜美術館」が先週、第64回正倉院展を「華麗なるシルクロードの調べ」と題して特集し、それに伶楽舎および芝祐靖先生が出演していた。本放送のときはその情報を得ていなかったので見損ねたが、幸い、今夜再放送があった。

 今回の正倉院展に出ているものの内、まず琵琶が登場。教科書にも載っている有名な五絃の琵琶ではなく、四弦,螺鈿紫檀の琵琶。確かに装飾が美しいのだが、背面だけしか映さないというのはどうもいただけない。
 そして、一部が欠損している甘竹簫(かんちくしょう)。要するにパン・パイプと同じ。これは芝先生がよく演奏会でも復元楽器を演奏しておられる。
 三つ目は、複数の金属の板をぶらさげて鉄琴のように叩いたであろうと思われる、方響(ほうきょう)。

 これらを、伶楽舎のお二人と芝先生が解説して演奏してくださる。
 基本的に「日曜美術館」という番組は好きなのだが、私はどうも片方の司会者があまり好きではない。この司会者が音楽家のため、少し解説のようなものをを喋っていたのだが、私としては、芝先生にもっと話してほしかった。

 琵琶に関しては、学生時代あこがれを持って見たものだ。芝先生が演奏する姿は、本当に格好良かった。
 もちろん、私だって希望すれば弾かせてもらえたのだろうが、いかんせん私は体格が悪い。あの大きな琵琶は、まず構えることができなかった。

 甘竹簫は、いわゆる「パン・パイプ」と同じだ。
 パンとは、ギリシャ神話に登場する半身が獣、半身が人間の姿をした神の一人で、葦の茎をつなぎ合わせて笛を作り、それが「パン・パイプ」(もしくはパン・フルート)と呼ばれるようになったということになっている。
 ギリシャ神話にはこの手の才能のある神がもうひとり居る。ヘルメスは赤ん坊の頃に(!)捕って食った亀の甲羅の内側に弦を張って竪琴を発明したと言う。それを兄のアポロンが気に入って、愛用するようになったとのこと。

 ギリシャ神話はともかく、パン・パイプはあまり大きな形態の変更もなく、東西に渡り、一方のはじは極東日本の正倉院に。西はいわゆる近代クラシック音楽の圏内まで伝わった。
 西側のもっとも有名なパン・パイプのシーンは、間違いなくモーツァルトの歌劇「魔笛」に登場する、パパゲーノの商売道具だろう。
 パパゲーノとは、職業、鳥刺し。森雅裕に言わせると「よくわからない職業」。ドイツ語では "Vogelfänger"。Vogel が鳥。Fänger は捕獲者,捕まえる人という意味で、日本語では古風な「鳥刺し」という名称になった。どうやら、自分が鳥であるかのように振る舞って鳥を誘い込み、それを狩る狩人らしい。
 まずは、パパゲーノ歌手としても有名な、ヘルマン・プライの「私は鳥刺し Der Vogelfänger bin ich ja 」。



 "hopsassa!" の所は、日本語訳だとよく「えっさっさ」とか、「ほいさっさ!」になっている。
 パン・パイプの部分は、フルートかピッコロが音を出すことになっているそうだが、どうも音を聞く限り何か実際にパン・パイプっぽい笛(ホイッスル系)でやっているように聞こえる。もちろん、実際の演奏者はオーケストラピットの中で、歌手が吹いているわけではない。

 「魔笛」という作品はファンタジー,おとぎ話のたぐいで、演出は非常に自由が利く。
 こちらは、衣装は18世紀末から19世紀初頭風。演出が面白い。英語の字幕がついているが、英語では bird-catcher という職業名になっている。この方がドイツ語からの直訳に近い。しかし、「鳥刺し」という微妙なネーミングも、語感が良い。