Stradivarius ?2012/01/06 23:59

 ヴァイオリンの「名器」と呼ばれるものに関して、面白いニュース記事が話題になった。
 一昨年、アメリカはインディアナ州で、18世紀に作られた「名器」と呼ばれるヴァイオリンや、現代の最高級ヴァイオリン、そして現代の安価なヴァイオリンなどを取り混ぜ、さらに楽器が見えないようにして21人のヴァイオリニストに弾いてもらったところ、良い音の楽器と、一番評価されたのは、は現代の安価なヴァイオリンだったというのだ。
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 この記事を読んで、私は内心、大きく頷いてしまった。
 ヴァイオリンや、ヴィオラ、チェロには、いわゆる「名器」と呼ばれるものがある。主に17世紀から18世紀頃、イタリアはクレモナを中心に制作された古い楽器で、その最高級品としてストラディバリウス、グァルネリ、アマティなどの作者(もしくは工房)の作品が有名だ。
 これらの名器は、楽器としては信じられないほどの値段がつけられ(億単位!)、どの演奏家がどれを持っている、誰がどれを買った、誰がどれを盗まれたとなどと、よく話題になる。
 しかし、私はそれらの音の良さが良く分からない。そもそも、私の耳がそれほど良いわけではないが…。ある程度の実力のあるヴァイオリニストが弾く、ある程度の楽器であれば、大して差はないような気がするのだ。
 無論、「ある程度」の問題だ。世の中には、信じられないほど安価でどうしようもない楽器も、たくさんある。それらは別として、ストラディバリウスにしても、グァルネリにしても、それらがそのネーム・バリュー故に音も最高だとは、信じていない。
 もちろん、長い間大事にされてきた楽器なのだから、腕の良いヴァイオリニストが、大事に扱い、上手に弾いて欲しいとは思うが、かと言って素っ頓狂な値段がついたり、その楽器の名前の方が演奏そのものより有り難がられるのは、理解できない。中には、「ストラデヴィバリウスを聞く」ということがメインの目的になっている演奏会もあるそうで、私はそういう趣向に、お金を払う気にはなれない。

 一昨年だったか、ハートブレイカーズのマイク・キャンベルが、「エレキ界のストラデヴィバリウスと呼ばれている」とか言うレス・ポールの何だかを手に入れたとか、そういう話題を聞いたとき、かすかな違和感を覚え得たのは、私の「名器」に対するある意味での偏見のせいだろう。マイク・キャンベルほどのギタリストなら、別にべらぼうな値段の名器でなくても最高の演奏をする。大事なのは楽器ではなく、あくまでも演奏者だ。
 とは言え、マイクも、トムさんも、ギターを買うのが大好き。やたらと収集しまくっているようだが、かと言って彼らも「楽器のネーム・バリュー」を前面に押し出しているわけではないのは、当然だ。

 さて、ストラディバリウスと言えば。かのシャーロック・ホームズはストラディバリウスを所有している…と自分で言っている。骨董屋で何ギニーだかで手に入れたとか(出典を失念)。
 …たぶん、ニセモノだよ、シャーロック。

 実のところクラシックに暗い私は、ヴァイオリニストというと、まずヤッシャ・ハイフェッツ(1901-1987)しか思い浮かばない。彼もストラディバリウスを使っていた。「ドルフィン」の愛称で知られる、アントニオ・ストラディバリの作品。
 では、ハイフェッツの演奏で、チャイコフスキーのヴァイオリン・コンチェルトの第一楽章。これ、映画か何かの一場面なのか?



 ハイフェッツの死後、「ドルフィン」がそうしたかと言うと、日本音楽財団が所有し、現在は諏訪内晶子さんに貸与されているそうだ。彼女がストラディバリウスを弾いていることは知っていたが、ハイフェッツの楽器だったことは初めて知った。
 では、諏訪内さんの演奏で、シベリウスのヴァイオリン・コンチェルト。



 諏訪内晶子さんと言うと、もちろん直接は存じ上げないのだが、彼女の親しい関係者と、私自身、および私のピアノの師匠が知り合いだった時期があった。このため、毎回のレッスンで、お粗末な演奏をする私に、師匠は「諏訪内さんなんてねぇ!!!」…と、彼女の猛烈練習ぶりを引き合いに出して説教するので、迷惑したものだ。あんな、チャイコンで優勝するような天才ヴァイオリニストと比較されてもねぇ…?!