4月1日 Heading for the Town2013/04/01 00:00

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの新譜情報が発表になった。

 オリジナル楽曲のアルバムは来年発売されることは、かねてから話題になってたが、その前に今年、なんと全曲モータウン・カバーのアルバムを発表すると言う。タイトルは、[Heading for the Town] 。"Town"とは、モータウンのことだろう。南部出身、LAに基点を置くハートブレイカーズにとって、モータウンは戻るところではなく、向かうところなのだということが良く分かるタイトルだ。
 プロデューサーは、トムとマイク。外からのプロデューサーを採用しないという、非常に久しぶりのアルバムだ。おそらく、かなり趣味的に作ったので、そうなったのだろう。

 作曲能力がある(もしくは、「あった」)はずのミュージシャンが、カバーアルバムを作るというのは、あまり好きではない。しかし、このTP&HBの新譜は全曲モータウンのカバーだと言うのだから、これはさすがに楽しみだ。

 一足早く、サンプル盤が手に入ったので、早速聞いてみた。
 これが笑えるような、まじめに格好良いような、不思議な仕上がりで、要するに面白い。ひとつはっきり言えるのは、純粋な意味での「モータウンのカバーアルバム」とは言えないことだ。モータウンをカバーした、ビートルズやストーンズのバージョンの、そのまたカバーも多く、それらはどちらかと言うとロックのカバーである。
 ともあれ、ミスマッチも含めて聴き応えがある。全曲の簡単なレビューをアップしておこう。カッコ内は、モータウンでのオリジナル・アーチスト名。

1. Dancing in the Street (マーサ&ザ・ヴァンデラス)
 アルバム冒頭の曲から、かなりイカしている。クレジットを見ると、何とロンと、マイク、トムが同時にベースを弾いている。つまり、トリプルベース。なんでも、マイクはバス・サックスのパートを忠実にベースで再現しているとのこと。
 独特のグルーヴ感がクールで、シングルにも最適だろう。ミックとボウイのカバーより、だんぜんこのハートブレイカーズ・バージョンが好きだ。

2. Ain't No Mountain High Enough (マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル)
 なんと、スティーヴィー・ニックスとのデュエット。うわ、これ…なんか…怖い。オリジナルのタミー・テレルは、可愛いらしい感じもするのだが、スティーヴィー・ニックスはものすごい貫禄。トムさんも圧倒されている。  ミスマッチのようで、笑えるようで、これはこれでイカしているような感じ。このアルバムの中では一番のインパクトだ。

3. You've Really Got A Hold On Me (スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ)
 これは明らかに、ビートルズのカバーをまたハートブレイカーズがカバーしたバージョン。スコット・サーストンが、初めてツイン・リード・ヴォーカルに挑戦している。トムさんがグイグイ引っぱり、"Baby, hold me..." のシャウトは、このアルバムのクライマックスと言えるだろう。

4. Cloud Nine (テンプテーションズ)
 トムのトーキング唱法が存分に味わえる一曲。マイクのワウペラルを多用した、グニャグニャギターのリフが格好良い。バックボーカルでは、珍しくベンモントの声が前に出ている。

5. Going to a Go-Go (スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ)
 これはストーンズのカバー。ストーンズよりもややテンポを遅くして、ブルースっぽく仕上げているのが、ハートブレイカーズのオリジナリティ。ミラクルズのような突き抜けた明るさはないが、ジワジワくる格好良さがある。

6. Please Mr. Postman (マーヴェレッツ)
 これも明かにビートルズ版。実に楽しそうに、ハンド・クラップを入れている。バックボーカルには、ジェフ・リンが参加。例の高音でビートルズっぽさを演出している。本当に楽しそうだ。

7. What Becomes Of The Broken Hearted (ジミー・ラフィン)
 テンポを落とし気味にしており、ジョーン・オズボーンのバージョンに近い。最後の方が、トムの絶叫が堪能できて、トリハダ物。

8. I Heard It Through the Grapevine (マーヴィン・ゲイ)
 これもどちらかと言うと、マーヴィン・ゲイというよりは、CCRのバージョンのカバー。最近のハートブレイカーズのアルバムによくあるような雰囲気で、重みが心地よい。

9. Nothing's too Good for My Baby (スティーヴィー・ワンダー)
 これは格好良い!ホーンセクションを全てマイクがギターで再現。トムの歯切れの良いボーカルがばっちりはまっている。ベンモントのピアノが全編にわたって堪能できる。これって、ロックンロールな曲だったんだ…。

10. One More Chance (ジャクソン5)
 オリジナルよりもぐっとテンポを落とし、ジョージの "Isn't it a pitty" のような壮大な一曲に仕上がっている。トムの切々とした歌声が、涙腺を刺激する。それに続く長いマイクのギターソロも、素晴らしい。

 ジャケットスリーブには、マーティン・フリーマンのコメントが載っている。モータウンも、ロックも大好きなマーティンならではの、素晴らしい文章だ。忙しいのに、こういう仕事は断らないらしい。
 今のところ、ライブでこのアルバムの曲を演奏するかどうかは未定。でもやってくれると嬉しいな。