迦陵頻・蘇莫者2011/07/22 23:59

 雅楽演奏団体,伶楽舎の第十回雅楽演奏会に行った。紀尾井ホールは、ほぼ満員だった。

 演目:管絃 迦陵頻(かりょうびん) 破・急
     舞楽 蘇莫者(そまくしゃ)
     湯浅譲二作曲 Music for Cosmic Rites

 雅楽に関しては、基本的に古典がだんぜん良いと思っている。今回もその感想に変化はなかった。
 まず、迦陵頻。これはいつか舞楽を見てみたいと思っている。四人の童子が極彩色の衣装と羽根をつけて舞う舞楽が有名だ。管絃(器楽合奏のみ。弦楽器を含む)としても頻繁に演奏され、私も学生時代に練習した覚えがある。


 プログラムには、音楽監督・芝祐靖先生による、「迦陵頻」の思い出という文章が載っていた。戦後間もない頃、宮内省が進駐軍の家族を招いた園遊会を赤坂御所で催したとき、まだ11歳だった芝先生が、「迦陵頻」の童子の一人として、初舞台を踏んだ話だ。そういえば、学生時代にも聴いた気がする。

 「(前略)筆者は一番のチビだったので四臈でした。何とか出来たのでしょうか、いよいよ本番当日、赤坂離宮の庭園に設けた舞台の脇の楽屋に入って、白衣に着替え、顔を白粉で塗り、口紅、眉毛などを描かれてから、迦陵頻の装束を着せられました。そして極彩色で飾られた羽根を着け、挿頭花(かざし)のついた天冠を被り、両手に銅拍子をつけて準備完了となったわけです、その後、舞台でどう舞ったのかまったく覚えていません。(後略)」

 この簡単な文章だけで、当時の舞を舞う童子たちの、夢のような美しさが目に浮かぶようで、不覚にも目頭が熱くなってしまった。長いキャリアを積んだ芝先生の思い出話だからなのか、その想像される情景のあまりの美しさ故なのか、この感覚の揺れはよく分からない。

 舞楽の「蘇莫者」は、舞が薗家の一子相伝という点でも、演奏形式として太子役(どうやら聖徳太子のことらしい)という、龍笛のソロ奏者が活躍するという点においても、独特な作品だ。
 舞も興味深かったが、なんと言っても演奏の迫力が良かった。笙・篳篥・龍笛の三管が、いずれも七人揃っていれば、それは当然音の厚みに迫力にも格段の差がある。この大音量の雅楽の音が紀尾井ホールに盛大に響き渡った感じが、今回の演奏会では一番良かった。

 雅楽というと、もっぱらゆっくりで、静謐で、神秘的で、そして眠いという印象が強いが、私は傍若無人とすら表現できそうな、押しの強さ、突き抜けた迫力の雅楽が好きだ。
 雅楽楽器を使ったいわゆる「現代曲」で、こういう良さを表現し切れた物に出会ったことが無い。古典でやり尽くされてしまっているとも言えるのだろうか。

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