A Gambler's Jury2021/09/17 21:28

 ミステリー好きだが、よほどの事がない限り、海外物に限定している。
 書店でなんとなく目にとまったので買ったのが、「弁護士ダニエル・ローリンズ A Gambler's Jury」(ハヤカワ文庫)。何となく買ったにしては、これはヒットだった。

 いわゆる「リーガルもの」で、刑事弁護士が主人公。
 ソルトレイク・シティの刑事弁護士のダニエルは、自分の浮気が原因で別れた夫が再婚すると知って落ち込み、未練がましく酒ばかり飲んでいる。そのくせ、仕事熱心で常に山のような仕事を引き受け、「法制度が力のない弱者を叩き潰す」のを、なんとか救おうと日々駆け回っている。
 ある日彼女は、麻薬密売容疑をかけられた知的障害のある黒人少年の弁護の依頼を受ける。未成年なので不起訴に持ち込めると思いきや、検事も判事も実刑判決にするつもりらしい ―― 何が目的なのか?何が狙いなのか?ダニエルは仲間の調査員,秘書,親友,息子,そしてまだ愛している元夫に支えられながら、真実を追う ――

 著者ヴィクター・メソス自身が、元検事,現弁護士にして、多作の作家とあって、作品の出来が良い。法定物として本格的だし、最後のどんでん返しは見事で、痛快だった。
 まぁ、「あの点」に着目するのがちょっと遅すぎるとは思うが…早く着目しすぎると小説の長さにならないから、仕方がない。

   この作品、ミステリー,法廷物として良く出来ているだけではなく、人間というものが良く描かれている。
 愛というやっかいな感情がもたらす、不毛でムダなあがき、苦しみ、悩み。それでも生きて、働いて、やることがあって。理想的でなくても、生きる力を信じている。
 そして、書かれたのが2016年というから、あのときからのアメリカ ―― 「分断」という言葉に象徴されるアメリカの抱える問題が、重くのしかかるテーマではあるが、希望を持てる読了感は、爽快だ。

 主人公のダニエルは、レッド・ゼッペリンや、ローリング・ストーンズを愛好する、ロック・ファン。特に好きなのはジム・モリソン。息子に「ジム・モリソンのように生きろ」とまで説く。
 ジム・モリソンのように生きるということは、ジム・モリソンのように死ぬことでもあるような気もするが ―― でも、ダニエルの言わんとすることは分かる。自分の芸術、自分の情熱に正直に、生き抜くということの良さと、苦しさを理解してるのだろう。
 私はジム・モリソンのファンではないが(むしろやや苦手)、この設定は凄く良かった。とてもお薦めの一冊。

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