Roger McGuinn in Tokyo2015/11/29 14:33

 当初、7月の予定だったものが延期となったが、いよいよ待望のロジャー・マッグインの来日公演があった。会場も、当初の新宿から、渋谷に変更されている。
 7月25日、幸いにして最前列に陣取り、マッグインの登場を待つ。iPodで彼の曲を聞きながら、歴史の本を読みながら。音楽と歴史、最高の娯楽の組み合わせ。

 いよいよ登場したマッグイン。黒いハットに眼鏡、髭、グレーの柄シャツに、黒い革のベスト。黒いボトムズはコーデュロイだろうか。そして黒いカウボーイブーツ。
 まずはリッケンバッカーのシグネチャーモデルを携えて、軽く "My Back Pages"から始まった。短く終えると、すぐにリッケンバッカーを置き、アコースティックに持ち替えて、椅子(ピアノの椅子だ)に腰掛け、次の演奏 "Ballad of Easy Rider" へとスラスラと進む。
 最初の数曲、カバー曲が続いたのだが、どれもとても短い演奏でびっくりしてしまった。しかし、ザ・バーズなど、自身の曲が始まる辺りから、だんだん曲が長くなっていった。

 たった一人で、アコースティック・ギター一本、足で拍を取りながら、たった一人の歌声で パフォーマンスをするマッグイン。実に楽しそうで、余裕すら感じる。軽くおしゃべりを挟みつつ、全身これミュージシャンという、引力のある魅力的な存在だ。
 "He Was A Friend Of Mine" などは、美しい歌声を持つということが、どれほど貴重なことかと思い知らされる。彼の声は決してパワフルでも、力強くもないが、ロックが持っている、ひたすら美しくて、儚い一面を凝縮したような良さがある。バックバンド無しの、こういうシンプルな形式だからこそ、堪能できる歌声だ。
 たった一人という形式ながら、その曲調のバラエティは目を見張る物がある。"Mr. Spaceman " で見せた、諧謔性や、"Knockin' on Heaven's Door" の壮大な雰囲気など、次々とあふれ出す音楽に、引き込まれっぱなしだった。



 15分の休憩を挟んで後半。いきなり、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ・ファンには嬉しい展開となった。
 "So You Want to Be a Rock 'n' Roll Star" で盛り上がるなんて、日本で普通にあることなのだろうか?この曲をやると、「トム・ペティの曲でしょ?」という話で、みんなクスっと笑う。…トム・ペティを知っているの?!と、みんなに確認しそうになる。さらに、トム・ペティが大好きだというマッグインのコメントに続いて、"American Girl" が始まり、さらにおもり上がる会場。トムさんのファンなの?!本当に?!と、一人一人に確認したくなる私。
 次の曲 "King of the Hill" では、思わずトムさんの声で第二ヴァーズが脳内で再生される。破裂するような "Lover of the Bayou" は、マッドクラッチとの違いが顕著だ。

 カバーやトラディショナルが続き、いよいよ "Mr. Tambourine Man"。まずはディランのバージョンでたっぷり聴かせてくれる。それをデイヴィッド・クロスビーが「イマイチ」と評し、バッハの名曲からリフを取って、あの有名なザ・バーズ・バージョンが生まれるという、お馴染みの、素晴らしい物語だ。
 バッハからリフと取ったという話から、バッハの原曲をこのブログのトピックにしたことがあったはずだと、確認してみたら、2012年の記事だった。

McGuinn & Bach 2012/1/14

 ザ・バーズの "Mr. Tambourine Man" を聴くと、いつも胸が一杯になる。あの、喜びも、悲しみも全てが美しさの中に溶け込んだような、何とも言えないイントロを聴くと、どうしようもない気持ちになる。今回も、たった一人でリケンバッカーを鳴らすロジャー・マッグインを見つめながら、涙がこぼれてきた。
 そのまま、リッケンバッカーで、"Turn! Turn! Turn!" ここがこの日の最高潮だっただろう。
 2回のアンコールに応え、時間にしたら短いけれど、濃密で豊かなコンサートが終わった。

 偉大なる60年代のレジェンド、ロジャー・マッグイン。でも一人の、音楽を愛する、同じ人間だという共感をも持たせる。音楽を愛して、音楽を共有する。飽くまでも、演奏する側も聴く側も同じ人間であり、コンサートは共通の良き相互理解の空間なのだと、思い知らされた。小さな会場の、多くもない観衆だが、ささやかで、幸せな、そういうロックのコンサートだった。

 欲を言えば、ロック・バンド好きとしては、バンド編成のロジャー・マッグインも観てみたい。あれだけしっかり演奏し、歌う人なのだから、きっと格好良いだろう。特に "Chestnut Mare" などは、バンドで聞かせて欲しい曲だ。
 写真にもあるとおり、私は翌26日のチケットも持っていた。買った当初、シート配置が分からなかったので、立ち見で取っていたのだ。すっかりZEPPのように、立ち見が前だと思っていた。
 ともあれ、諸事慌ただしく、どうしても26日は行かれなかった。手元には、切られていない、整理番号1番のチケットが残った。これは何かのお守りにとっておく。また、いつかロジャー・マッグインに会える日までの、約束の切符になるだろう。