Not Fade Away2023/04/27 20:58

 今回のボブ・ディランのライブは、一回しか見られなかったが、演奏そのものはこの上なく素晴らしく、この上なく満足だった。
 ただ、ほかの日のライブを見に行った人の話を聞いたり、セットリストを見ると、取り上げたカバー曲が惜しかった。私はグレイトフル・デッドにはあまり詳しくなくて、ちょっと盛り上がりきれなかったのだ。同じデッドでも、"Truckin" だったらもう少し盛り上がったかも知れないが。
 ある友人が行ったときは、"Not Fade Away" だったというのだから、とても羨ましい。私も "Not Fade Away" の日が良かった…!

 "Not Fade Away" といえば、バディ・ホリーのオリジナルよりも、ザ・ローリング・ストーンズが有名にしたと言って間違いないだろう。ミックのヴォーカルとマラカス、ブライアン・ジョーンズのハープ、キースの熱いギター、そしてチャーリーとビル・ワイマンのどっしりとしたリズム。文句の点けようが無いし、その後もライブでの人気曲になったのも頷ける。



 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズも、ライブでプレイしているはずだと思って確認すると、2003年のサウンド・ステージでやっている。ふむふむ、これを貼り付けよう―― と思ったら、意外な物を見つけた。
 オリジナル・マッドクラッチ ―― おそらく1970年代前半のライブと思われる録音だ。これは凄い!



 どうやらトムさんはまだ発声法が定まっていない頃らしく、声がやたらとミックに似ている。ツインギターが賑やかで、しかもベンモントと思われるオルガンが煌びやか。さらに、最初にどっと音量を出して盛り上げ、一度下げて、引く、そしてもう一度最後に爆発させて、バシっと終わらせるのが決まっている。
 21世紀になってからの再結成時ではなく、オリジナル・マッドクラッチの音源もどうにか綺麗にして発売されないだろうか。そもそも、公式が音源を持っていないのだろうか。もし出してくれたら有頂天である。

Bob Dylan "ROUGH AND ROWDY WAYS" WORLD WIDE TOUR in Tokyo2023/04/17 21:15

 イタリアから帰国した翌日、ディラン来日公演のうち、最後の東京公演に駆け込むように行ってきた。

 予想していたよりずっと良かった!
 前回来日までの「シナトラ・シリーズ」には心底辟易していたので、ディラン自身の曲を並べた今回のツアーには多大な期待をしていた。しかし、その期待を上回る、素晴らしいステージだった。
 前回までのバンドは、なんだか内にこもって硬直したようにディランのシナトラ賛美を護っていたが、今回は堂々と外向きにディランの曲を発光させるように奏で、躍動していた。特にドラムスの勢いの良さは1990年代後半を思わせるもので、凄く素敵だった。
 そして肝心のディラン。相変わらずピアノのタッチは下手だが、歌唱のほうがシナトラをやっていたころよりも、断然力強く、自信に満ちて、自由自在、しなやかで、凄みのある素晴らしい出来だった。そうだ、この人はやっぱりライブでこうやって力強くロックしてくれる人だったのだ。

 最新作である [ROUGH AND ROWDY WAYS] からの曲が当然多かったが、アルバム録音で聞くよりも活き活きとしていて魅力的だった。家に帰ってすぐ、「聞くCD」の一番上に置いた。
 そして彼の長いキャリアからの曲はやはり、会場も盛り上がる。"When I Paint My Masterpiece" は感動的だったし、私が一番心動かされたのは、 "Gotta Serve Somebody"。この「宗教期」のディランも、私は大好きなのでこの選曲の妙、演奏のハードさがたまらなかった。

 開演時間ちょうどに観衆が拍手をしてディランを呼び出し、彼が登場して大いに盛り上がり、そして満足そうに会場を見渡して帰って行った。終始ゴキゲンで(もっとも、私は彼がゴキゲンじゃないライブというのは見たことが無い)、サービス精神にも満ちあふれていた。
 今回は一回しか行けなかったのが本当に惜しい。今回のツアーに関しては、ライブ・アルバムを出しても良いと思う。

 とかく60年代ロックヒーローたちは、高齢化しており、「もうライブは見られない」と言われがちだが、ディラン様は相当にしぶといと思う。日本でかどうかはともかく、また彼のパフォーマンスを楽しみたい。

ロック戦隊 ビートレンジャー!2023/04/01 00:00

 新時代を彩る戦隊ヒーロー発動!「ロック戦隊ビートレンジャー!」

 世界のビートを滅ぼそうとする悪の組織ダラダラ団から、熱き魂とロックを守るため、きょうも戦うビートレンジャー!それゆけビートレンジャー!
 普段は売れないロックバンドで細々と暮らしている6人組。その正体は「ロック戦隊ビートレンジャー」の若き精鋭たち!それぞれ愛用の楽器に、「ロック・オン!」するとたちまちビートレンジャーに変身し、次から次へと襲い来るダラダラ怪人と戦うのだ!



登場人物

トミー・レッド
 真っ赤な12弦リッケンバッカ―が愛器のリーダー。サラサラ金髪を振り乱してロックの魂を叫ぶ!

ミック・ブルー
 青いデューセンバーグが愛器だが、次から次へと楽器を取り換えるギター・マニア!最近のマイブームはファイヤーバード!

ベニー・ブラック
 黒いスタインウェイが愛器のキーボーディスト。富豪なので、戦隊を金銭面からもささえている!

スティーヴィー・グリーン
 緑のグレッチを愛用する、安心安全ドラマー。ニース・コンセルヴァトワール出身の知性で敵をかく乱する!

スコッティ・オレンジ
 オレンジのギブスンを愛用する、マルチプレイヤー。カレーが大好き!

ハワード・ホワイト
 白いフェンダー・ベースを愛用するベーシスト。美しいコーラスで敵の戦意を喪失させる!

ディラン司令官
 頭の中では複雑怪奇な作戦を立てているが、何を喋っているのかは往々にして不明瞭。その場合は秘書が通訳する。

ジョージア・ハリスン
 司令官の秘書にして戦隊の女ボス。交友関係が広く、「コンサート・フォー・ロック」作戦を実行する。

AI ジェフリー・L
 ビートレンジャー司令部の人工知能。作戦にチェロを加えようとしてジョージアに怒られている。


 日曜日、朝9時30分好評放映中!イベント in 武道館でビートレンジャーと握手!変身インストゥルメント・キッズ・セット、好評発売中!

Farewell to the Gold2023/03/05 21:36

 音楽を聴きながら仕事ができるのは、数ある在宅勤務の良いところの一つだ。
 CD やラジオを聞くこともあるが、多くは Walkman に入力している全曲をシャッフルして流している。結果として自分が好きなジャンルの音楽ラジオを聞いているような感じだ。
 ラジオといえば、ボブ・ディランが DJ を務めた [Theme time radio hour] もWalkman にほとんど全て入っている。実は前代の iPod が故障したときにデータがほとんど無くなったので青くなったのだが、持つべきは友人である。ディラン仲間がデータを保管していたくれたので、助けてくれた。

 そういうわけで、仕事中に [Theme time radio hour] を聞くのも楽しい。ディラン様の好きな曲を流すので、私の趣味よりも何十年も昔の曲が多いが、意外と新しい音楽が流れることもあるし、知らない音楽を教えてもらって、思わずメモを取ったりすることもある。
 先日聞いた [Money] の回では、ニック・ジョーンズの "Farewell to the Gold" が流れて、とても感動した。



 ニック・ジョーンズは70年代に活躍したブリティッシュ・フォーク・リバイバルの重要人物とのこと。ちょっと惜しいのは、ベースとドラムスを加えたバンド編成ではないところ。もしそうだったら私のど真ん中なのだが。
 ともあれ、この "Farewell to the Gold" は骨太で、美しく、女声コーラスもカラフルな素晴らしい曲だ。ボブ・ディラン風であり、ザ・バーズ風でもある。

 あまりにも良い曲なので、誰かカバーしていないかしらと思ったら、ディラン様本人がしていた。
 これは良いな!シナトラなんかより何倍もいいよ!日本公演でやってくれたらめちゃくちゃ喜ぶよ!私が!

Make You Feel My Love2023/02/17 22:07

 ボブ・ディランの来日公演では、スマホ・携帯電話の持ち込みが禁止である。使用禁止では無く、持ち込み禁止。かなり徹底した意思表明だ。持ち込む場合は、会場内で開封できないポーチに入れなければならない。Yondr という製品の活用で、これはこれで画期的なテクノロジーだ。
 私がさかんにトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを見に行っていた時 ―― 2008年から2017年ごろまでの印象では、動画、写真取り放題だったし、私も楽しく撮影していた。
 ボブ・ディランはそういう聴衆に断固抵抗。確かにロンドンで見たときも、かなり厳しく撮影を止めていた。日本の会場ではほとんどスマホ撮影は無かったと思うが、ワールド・ツアーにおいて、日本だけ特別扱いはしないというわけだ。

   確かに、遠くから足を運んでライブを見に来たのだから、それを記録に取りたいという気持ちは分かるし、実際に私もしていた。ただ、TP&HB 最後のツアーとなった2017年だけは、ほとんど撮影をしなかった。かなりギリギリに取った席だったため、非常にステージが見づらかったのだ。だったら、撮影に気を取られるよりも、自分の目と耳でライブを体感することを優先したのだ。あれが最後のトムさんの姿だったと思うと、後悔しないで済んだと思っている。
 だから、スマホではなくステージ上のパフォーマンスに集中せよ、というボブ・ディランの言うことには今ではすっかり賛成だ。
 その代わり、アーチストにお願いしたいのは公式でライブ動画をたくさん提供して欲しいと言うことだ。有料にしろ、無料にしろ、視覚に訴える媒体を全く遮断してしまうのは惜しい。それに世界中のだれもがライブ会場に行けるわけでもないのだ。ライブ会場にいる聴衆の幸せを、少しでも分けてくれるとより多くの人が幸せになるだろう。

 ここ数日、最新のディランのブートレッグシリーズ [Fragments] を聞いている。なんとなく、正式アルバムになった [Time Out Of Mind] よりも、今回の [Outtake and Alternates] の方が好きなような気がする。新鮮だからだろうか。
 特に "Make You Feel My Love" には泣きのエレキギターがフューチャーされているし、オルガンの鳴りもロック寄りだ。
 "Make You Feel My Love" と言えば、ディランの公式に関連動画が上がっている。コレは … TED-Ed みたいなものかな?

Rough and Rowdy Ways" World Wide Tour 2021 - 20242023/02/09 21:32

 大きな、そして嬉しいニュースが入ってきた。ボブ・ディランが春に来日公演を行う。2020年の春にパンデミックの影響でキャンセルされて以来、待ちわびた来日だ。

"Rough and Rowdy Ways" World Wide Tour 2021 - 2024

 日程を見て絶望!
 なんてこった!4月のその週は、わたしが!日本に居ない!!!

 ある日本人が、あるときパリのルーヴル美術館に行ってモナリザを見ようとしたら、ちょうど日本で公開中だったという話があるが、そのパターンにはまってしまった。
 うわぁ、どうしよう…日曜日は…かろうじて行けるかなぁ。大阪や名古屋もに遠征するのは無理だし。これは困った。
 ワールド・ツアーで、2024年まで?じゃぁ、来年どこか海外に遠征するか?ロンドンか、ウィーンなら喜んでお供します、ディラン様!

 ディラン様の最新ブートレグ・シリーズをまだ聞き込んでいないものだから、ばちがあたったのだろうか。ごめんなさい、ディラン様。ちゃんと聞きます。

En man som heter Ove / A Man Called Otto2023/02/05 21:09

 最初に原作があった。
 書店で何となく目に付いたので読んでみたのがスウェーデンの作家、フレドリック・バックマンによる「幸せなひとりぼっち」(原題 En man som heter Ove)。とても面白い本だったので、バックマンの他の作品も積ん読本になっている。
 さて、「幸せなひとりぼっち」は大変ヒットした小説で映画向き。映画になっていないかと確認してみると、2012年にスウェーデンで映画化され、大ヒット。アカデミー賞の外国語作品賞にもノミネートされた。
 幸運にも、この映画はアマゾン・プライム・ビデオで鑑賞できた。どうせスウェーデン語はわからないので、吹き替え版で鑑賞。原作をほぼなぞる内容で、とても良かった。車へのこだわりがうまく表現できているのも楽しかった。サーブ、ボルボ。原作ではトヨタだったのが映画ではヒュンダイ。若者が欲しいのはルノー。
 エンディング・テーマ曲も良かったので確認してみると、ラレー(Laleh)のオリジナル楽曲 "En Stund På Jorden" という。



 さて、この良作をハリウッドが放っておくはずもなく、このたびトム・ハンクス制作、主演でアメリカ版にリメイクされた。タイトルは原作に近く、"A MAN CALLED OTTO" 「オットーという男」
 さぁ、北欧とは異なる社会 ―― 特に社会福祉や移民に関する点などは、どう消化するのか、とても興味深い。特に車の扱いは重要だ。どうやら、原作のサーブに相当するのがシボレー(GM)であり、対比されるのがトヨタのハイブリッドということらしい。
 日本でも3月公開だが、アメリカの予告編を見て、これがびっくり!あのギター・リフを聞いて心底びっくりした。



 ザ・トラベリング・ウィルベリーズの "End of The Line" ――  思えば、トム・ハンクスはウィルベリー兄弟とは縁が深い。彼の映画で ELO や TP&HB も使っていたのであり得る選択だろう。
 ともあれ、予告編に使われた音楽が必ずしも本編に使われるとは限らない。それでも何かしらウィルベリー一族のサウンドが期待できそうだ。

You Ain't Goin' Nowhere2022/12/22 21:59

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの [Live at the Fillmore 1997] の、ロジャー・マッグインとの共演 “You Ain't Goin' Nowher” を繰り返し聴いていて、ふと思った。この曲はすっかりザ・バーズによる演奏がすり込まれているが、オリジナルはボブ・ディランのはずである。そのオリジナルって、どのアルバムに入っているのか、ピンとこないのだ。
 確認してみると、公式に発表したのはザ・バーズの方が先で、ディランの公式録音は “The Greatest Hits II” (1971) に入っていた。私はこの二番目のグレイテスト・ヒッツを持っていなかったので、ピンとこなかったらしい。
 その後、”The Basement Tapes” そのまたブートレッグシリーズなどに収録されたが、公式なオリジナルはこのバージョンということになるようだ。



 1992年のボブ・フェストでは、三人の女性による演奏が印象的だった。改めて見ると、豪華なバンドで、G.E. スミスのリードギターもかなり華やかだ。
 この時のライブの特徴なのだが、ホスト・バンドとゲストとのリハーサルがやや不十分だったようで、この曲も終わり方で一斉にスミスを振り返るのがおかしかった。




 [Live at the Fillmore 1997] では、ハートブレイカーズによる豪華なコーラスがかなり控えめにミックスされ、ロジャー・マッグインの声を引き立てるように響き、この上なく美しい。ギター・ソロはたぶんマイクだと思うが、彼の個性を押し出す感じはせず、あくまでもザ・バーズへのリスペクトに溢れていて、とてもすがすがしい。

I Need You2022/12/01 21:45

 11月29日はジョージが亡くなった日ということになっているが、私の実感では30日である。2001年のあの日、11月末日だった。翌日にはお能を見る約束をしていた。やはり実体験として記憶すると、日本時間で意識するようだ。逆に実体験していないジョンの亡くなった日は12月8日である。

 亡くなった翌年の2002年の11月29日には、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで、史上最高のトリビュート・ライブ [Concert for George] が開催された。当時からそのメンバーからして凄いということはわかっていたが、その全容が明らかになったのは、そのまた翌年2003年11月末に発表された映画、フル・パフォーマンスの映像、そして CD によってだった。
 この [Concert for Goerge] ―― CFG が良すぎて、何回見たのか、そして買ったかすらもわからない。DVDを何セットも人にプレゼントしているし、モンティ・パイソン布教(そういうこともしていた)にも使った。パイソンの総仕上げで CFG を見た人は、特に音楽好きでもなかったが、CFG にはいたく感動していた。

 CFG をまだ見ていない人も、だまされたと思って見て欲しい。ジョージ・ファンではなくても全然大丈夫。映画ではなく、フル・コンサートがお薦めだ。びっくりするほど素晴らしく、感動的で、友達って、人間っていいなと思える。

 CFG で名曲を一つあげるというのは、とても難しい。全てが名演だからだ。
 でも、あえて今年一曲挙げるなら、"I Need You" にしておく。この曲は、私が音大時代、図書館の映像資料室で何十回も 映画 [Help!] を見ていた最中に、ビートルズの中で実はジョージが一番美男子であることに気付いた曲だ。映画全編にわたって、ジョージは格好良いのだが、特にこの "I Need You" のシーンのジョージに魅了された。
 その場面を切り取った動画もあった。ちなみに、なぜミリタリー・ファッションに戦車、狙撃兵なのかというと、カルト集団がビートルズの(と、いうかリンゴの)命を狙っているからである。地下では爆弾の設置が着々と行われている。カイリー!



 素晴らしいラブ・バラードだ。
 これだけの名曲なのに、意外とカバーが少ない。調べてみると、スティーヴ・ペリーがカバーしているとのこと。ステゥーヴ・ペリー?それってちょっと違わない…?と思って動画サイトで確認したけど。やっぱりちょっと違った。あれは違う。そうじゃない!
 やはりここは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの出番だろう。なんと言っても、まずこの曲を選曲したトムさんたちのセンスが最高だ。CFG で演奏された曲の中で、もっともジョージの作曲年代が古いのがこの曲だ。
 トムさんの健気で、可憐で、繊細な面が良く出ていて、女子はこういうところにキュンとくるし、たぶん男子もキュンとするのだと思う。何も特別なことはない素直な演奏だが、限りなく美しく、ジョージへの愛情に溢れていて、泣き所の多い CFG の中でも、かなり感動的で心を揺るがす演奏だ。
 よく見るとマイクとスコットがエレキなので、アコースティックなのはトムさんだけ。よくある「アコギ押し出し&しんみり強調系」でもない。ちゃんとロック・バラードしているところが良い。

Fillmore 19972022/11/26 22:18

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブアルバム、[Fillmore 1997] が発売になった。私は4枚 CD のボックスセットを注文している。
 もっとも、現物がいつ手元に届くかはわからない。しかし、ダウンロードも商品に含まれているので、さっそく今日から聞いている。

 有名なブートレグが耳なじみだが、やはりそれよりもずっと音が良い。特にトムさんやスコットのアコースティックギターの音、一粒一粒が弾けていている。そしてベンモントのピアノもはっきりと浮き立っている。
 思えば1997年といえば、[Full Moon Fever] や [Into the Great Wide Open] から10年経っていない。[Echo]以降の重厚でハードなライブ・バンドとは、またひと味違う感じがする。若く弾けるような青いハートブレイカーズが、いぶし銀になろうとする、その端境期が [Fillmore 1997] と言えるだろう。
 即ち、若さ、もしくは重厚さへの偏りが少なくて、とてもバランスのとれているライブ・パフォーマンスということだ。全20公演で取り上げた曲目数も多く、ゲストも豪華。様々なカバー・ソングも楽しめる。これからTP&HBを聴こうとしている人にも、お薦めできるライブ版ではないだろうか。

 このライブ・アルバムを語ろうとしたらいくら記事があっても足りないのだが、今日は2曲とりあげる。両方ともカバーだ。
 まずは、"Johnny B. Goode" なんと刷り物(ジャケットやスリーブなど)には、誤って "Bye Bye Johnny" と記載されてしまったというレアなエピソードつきだ。
 確かに、TP&HB というと、"Bye Bye Johnny" を歌っている印象が強いくて、誰も間違いに気付かなかった可能性がある。演奏が始まってもしばらく違和感なく "Bye Bye Johnny" のノリでいたら、あれ?これ、"Johnny B. Goode" だ!というオチ。ちょっと面白くて、こういうハプニングは好きだ。
サビでのハウイ、スコット、ベンモントのシンプルなコーラスが格好良いし、マイクのギターソロもやり過ぎない手加減が絶妙。



 もう一曲は、このアルバムの発売が発表されてから一番楽しみにしていた、"Knockin' on the Heaven's Door" である。ディラン様とのライブでも披露されているが、あれは女声コーラスがちょっとうるさい。マッドクラッチの名演も素晴らしいが、こっちはドラマーが上手くないし、上手くない癖におかずを入れすぎなのが耳に付く。
 そういう意味で、純粋にトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの演奏が公式でずっと聴きたかったのだ。
 ディランとのツアーですっかり馴染んでいる曲なので、演奏に余裕が感じられる。ディランのようにハーモニカのソロが無いぶん、ロック・バラードっぽさが強調されていて良い。
 注目は、サビの歌詞。"Knock knock knockin' on the heaven's door" を4回繰り返すのが、ディランのオリジナル録音だが、ディランとトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのツアーから、四回目を "Just like so many times before" と歌うようになり、それがディランの通例となった。このアレンジ詞をライブで歌う人と言えば、ディラン自身以外には、トムさんくらいしかいないのである。マッドクラッチの演奏でも、アレンジ版だった。
 では、この1997年 Fillmore ではどうだったかというと?なんと、1番と2番では"Knock knock knockin' on the heaven's door" を四回繰り返し、3番になって初めて最後に "Just like so many times before" と歌うのだ。コーラスもちゃんと合っているので、これはハプニングではなく、前もってそのようにリハーサルをしていたのだ。
 ああ、やはりトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは、このディランの名曲をディラン以外で最高に演奏してみせる唯一無二の存在だなと、再実感した。