The Webb Sisters2022/06/02 21:05

 モナコ。フェラーリに期待した私が馬鹿でした。

 フルポン村上が、永世名人に昇格!おめでとう!

 なんとなく動画を眺めていたら、2019年に開催された、トム・ペティのトリビュート・コンサートで、ハッティー・ウェッブが自分のオリジナル曲を演奏する動画が目に付いた。ちなみに、舞台上に見えるところでは、ロン・ブレアがいる。
 ハッティー・ウェッブとは、もちろん2017年にトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが最後のツアーを行ったときに共演した、バックコーラス・デュオ,ウェッブ・シスターズの妹の方である。



 これはとても興味深い。なんと、ハープ ―― アイリッシュ・ハープくらいの大きさだろうか ―― を立ったまま肩から懸けて、体の前で弾きながら歌うというスタイルなのだ。
 ハープを弾く人(ハーパー、もしくはハーピスト)が、こういうスタイルでいるのは、初めて見た。大抵のハーパーは座って演奏するもので、大きなハープだと床に置き、中くらいなら支柱を立てて少し高さを出し、小さければ膝に置いて弾くのが普通だろう。
 ギターのように担いで弾き、なおかつ歌うというスタイルは、とても珍しいのではないだろうか。並大抵の技術ではない。
 ハッティはハープのほかに、ブズーキも弾くとのこと。姉のチャーリーは、ギター,クラリネット,ピアノを弾く。器用な姉妹デュオで、歌も上手いのでジョン・ピアースの紹介でナッシュヴィルに進出し、レナード・コーエンのツアーに同行することも多かった。
 そして2017年のハートブレイカーズとのツアーである。UK はケントからやってきた、ザ・ウェッブ・シスターズ、恐るべし。

Talisk's Mohsen Amini - GEAR MASTERS2022/02/11 19:46

 去年からすっかり魅了されてしまった、スコットランドのモダン・フォーク・グループ,タリスク。今日、新譜 [Dawn] が発売されるらしいのだが、どうすればダウンロードではなく、物理的な盤が手に入るのだろうかと思案している。たぶん、少し待てば日本の Amazon でも手に入るだろう…

 実はタリスク、メンバーが替わっていた。これまでのフィドルはヘイリー・キーナンで、 "Aurora" というシングルの時も彼女が弾いていたが、去年のうちにグレアム・アームストロングに交代した。ヘイリーの背筋の伸びた佇まいが好きだったのだが…
 ともあれ、新メンバーとともに、代表曲 "Echo" をテレビのライブで演奏している。それはもう、ものすごい速さで!ヒヤヒヤするような速さだが全く破綻しない、凄まじい演奏だ。一人ならともかく、三人の合奏でこのスピード。神業である。




 ところで、Digital Tour Bus というミュージシャンの機材を紹介しているらしい YouTube チャンネルに、タリスクのフロントマンにして、コンサティーナの天才,モーセン・アミニが登場している。
 まずはその愛器,ドイツ製のコンサティーナを紹介。ボタン・アコーディオンはその演奏方法が複雑だとはきいていたが、本当にその通りで、一つのボタンでも押すと引くとで音程が違う。これを完全に覚えて操るようになるには、相当の鍛錬が必要で、できれば子供のうちにたたき込むのが良さそうだ。



 話についていけなくなるのは、足下に広がる数々のエフェクター、機材たちである。エコーをかけるくらいしか私の想像力の範囲にないが、実際はオクターブ低い音を増幅させたり、あらかじめ和音を仕込んでおいて足で演奏したり。こうなると、ピアノの蓋をあけて、椅子に座って弾くだけが全ての私には、とてもついていけなくなる。
 ともあれ、そういうついて行けないテクノロジーの上に、確実な技術と音楽性が乗って熱いライブ演奏になるのだろう。タリスクがまた来日公演をしてくれれば、かならず駆けつける。その日を待つばかりだ。

Unchained Melody2021/12/26 23:12

 全日本フィギュアスケート選手権が終わり、とりあえず私にとっての今年のスポーツイベントには、区切りがついた。
 女子は大好きな坂本花織が、完璧な演技で魅せてくれて大満足だ。オリンピックの表彰台はロシア勢で占められることが予想されるので、坂本がどこまで食い込めるかが注目。全日本選手権で燃え尽きずに、オリンピックにまたピークを持ってきて欲しい。

 音楽面の話だが、羽生のショート・プログラムは去年の "Let me entertain you" が凄く良かったので、謎のピアノ・バージョン「序奏とロンド・カプリチオーソ」(サン=サーンス)になったのが残念。四年前のショパンの「バラード1番」と味付けが被ってしまうのだ。
 一方、金メダル大本命のネイサン・チェンは、ショート・プログラム、フリー・プログラム、ともに二シーズン前の「ラ・ボエーム」と「ロケットマン」にする、とのニュースが入ってきた。これは正解だと思う。ショートの「ネメシス」で、四年前に取り逃した金を「取り戻す」という思いつきは、なんだか好きではなかったのだ。頑張れネイサン。応援してる。

 今回の全日本で印象的だったのは、三宅星南のショート・プログラムだった。演技が全体的に素晴らしかったし、私は生まれて初めて "Unchained Melody" が良い曲だと感じた。
 こういう甘ったるいムード歌謡みたいな音楽は好きではないのだが、三宅君の演技の熱量が素晴らしく、この曲の盛り上がりを効果的に伝えてくれていた。
 音楽ファンでありながら、フィギュアスケートのファンで良かったと思う瞬間の一つが、音楽の良さを別の切り口で感じることが出来る、こういう体験ができることだ。

Old Blue2021/08/10 19:50

 それほど海外ドラマ好きというほどではないが、まぁドラマを見るとしたら、海外物である。できればミステリーで、重苦しくない方が良い。
 そういう点で、「シェイクスピア&ハサウェイの事件簿」は手ごろな作品だ。英国物で、舞台はストラッドフォード・アポン・エイボン。探偵役は元刑事のフランク・ハサウェイと、最初は依頼人だったルエラ・シェイクスピア。この二人は容姿がイケてるわけでも、とんでもない変人で天才というわけでもないが、親しみ深くて、楽しい気持ちにさせてくれる掛け合いが良い。
 現役の刑事がマーロウ(女性)というのもイケているし、お気に入りは探偵事務所の助手セバスチャン。長身でかわいく、変装もうまくて、名前がイイ。

 英国では2018年にシーズン1が制作され、日本では Amazon prime で鑑賞できる。このシリーズは好評で、今年はシーズン4の放映が予定されている。
 特段、新しいこともないし、重厚な人間ドラマがあるわけでもない。ただ、かるい娯楽として鑑賞するには気持ちの良いものだし、所々にシェイクスピアネタが仕込んであるのが楽しい。

 シーズン2を見ていたら、犬の話になった。ある富豪の相続人が犬であるという、この手の話ではよくあるケースだが、面白かったのは、ここに登場する犬が、"Old Blue" という曲が好きだったということである。
 作品中では、ジョーン・バエズの歌として取り上げられているが、彼女の録音が有名なのであって、もとはミンストレル・ショーで歌われた、いわばトラディショナル・ソングである。



 これ、どこかで聞いたことがあるなぁ・・・と、思ったら、ザ・バーズだった。1969年の [ Dr. Byrds & Mr. Hyde] に収録されていた。



 ジョーン・バエズがどこか哀愁のただようフォーク風だったのが、面白いことにバーズのカントリー風の味付けになると、なんだか能天気な曲に思える。その能天気さの向こうに、哀愁を感じるべきなのだろうか?

DFA2021/06/24 22:03

 手持ちの CD の数をいくらか削るために棚を眺めていたのだが、どうせずっと在宅で仕事ができて、音楽も聞けるのだから、アルファベット順に ―― まさに片っ端から聞いていくことにした。
 エアロスミス,オールマン・ブラザーズ・バンド,アスキル・ホルム … A は無事にクリアし、バッドフィンガー、ザ・バンド。ビートルズはもちろん特別扱いなので飛ばす。
 そして、ビリー・ジョエルに来たところで、考え込んでしまった。
 ―― これは私の好きなロックンロール・アーチストだろうか…?

 ビリー・ジョエル。メジャー中のメジャー、知らぬ人は居ない 「ピアノ・マン」。もちろん、私だって "Piano Man" は世紀の大名作だと思っている。でも、それ以外は ――?
 持っているアルバムは、 [The Stranger], [52nd Street], [An Innocent Man] ―― どれも良いアルバムではある … 迷うところだ。

 問題はベスト盤だ。[Volume 1 & Volume 2] に関しては、"Piano Man" を除けば、そしてオリジナル・アルバムさえあれば、特に必要ないような気がする。
 さらに [Volume 3] になると、もっと厳しい。"Leningrad" くらいしか良い曲がない。



 "We Didn't Start the Fire" は確かに面白いし、ヒットもしただろうが、これがあのピアノ・マンのベストで良いのだろうか。
 [Volume 3] 後半はジョエル本人の曲ですらなくなる。私の中では、ビリー・ジョエルと、エリック・クラプトンが、「キャリア中にソングライティングが枯渇した人」に分類されている。別に悪いことではない。枯渇した途端に死んだ人が多すぎるのだ。

 iPod には入っているのだから、CD を残すには及ばないかなぁ … ビリー・ジョエルは今まさに、戦力外通告(Designated For Assignment )の危機に瀕している。
 さて、どうする?

I'm Henry the Eighth, I Am2021/05/29 19:47

 クラウス・フォアマンが UK の雑誌のインタビューに答えて、ジョージに初めて会った頃の事を語った。

クラウス・フォアマン、ビートルズのジョージ・ハリスンと初めて会った時のことを振り返る
 「初めてジョージに会った時、彼は弱冠17歳だったんだ。後のジョージとはまったく違っていたね。生意気なガキでさ。彼のいたバンドはまったくの無名だったんだ。
 ジョージは面白おかしい曲を歌っていたよ。後にも少しやるようなね。くつろぎながらウクレレを弾いていた。“I’m Henery the Eighth, I Am”みたいな曲をコックニー訛りで歌っていたんだ。あとは、“Twenty Flight Rock”みたいなエディ・コクランの曲なんかを歌っていたね。」


 エディ・コクランの "Twenty Flight Rock" は、わかる。たしか、[The Beatles Anthology] でも言及されていたと思う。
 興味をひかれたのは、もう一曲 "I'm Henry the Eighth, I Am" である。もっともリヴァプール訛りのきついジョージが、コックニー訛り(ロンドンの下町のアクセント)で?
   "I'm Henry the Eighth, I Am" は、1910年に作曲された古いコミック・ソングだそうだ。ヘンリー8世は、六回結婚したことで有名な人物だが、要するに「自分はヘンリー8世なみの女ったらしだ」という、コミカルな歌詞である。その歌詞をコックニー訛りに歌うのが通例で、Henry の "H" は発音しない(コックニー・アクセントに関しては、ノエル・フィールディングを参照すると良い)。
 そして、これを1962年にレコーディングしてヒットさせたのが、ジョー・ブラウンだった。
 ジョー・ブラウンといったら、日本人にとっては [Concert for George] での感動的な存在感が印象的に違いない。しかし UK では、60年代初期から有名な人で、ジョージはジョー・ブラウンのファンだった。それで、"I'm Henry the Eighth, I Am" を歌っていたというわけだ。



 おお!ジョー・ブラウン、若い!
 ジョージがハンブルグでクラウスたちとつるんでいた頃から、ウクレレをいじっていたというのは…本当だろうか?クラウス的に、ジョージといえばウクレレという印象が強すぎて、ハンブルグ時代のジョージにも、ウクレレが張り付いたのではないかと、疑っている。

 "I'm Henry the Eighth, I Am" に関しては、1965年にハーマンズ・ハーミッツもカバーして、それなりにヒットさせたそうだ。
 しかし、あまり芸の無いカバー。どうしてヒットしたのだろう。マージ-・ビート旋風のなせる技だろうか。

Aye Right2021/05/21 20:41

 スコットランドのフォーク・バンド、タリスクにすっかり魅了されてしまい、二枚のアルバムを何度も繰り返して聴いている。
 中でも先日の記事でも紹介した "Echo" が秀逸すぎる。自分でも演奏したくてたまらない。

 タリスクの演奏の原曲は、スコットランドのフィドラーだった、アンガス・グラントが作曲した "Aye Right" という曲である。
 こちらのセットでは、1分57分から始まるのが、"Aye Right" だ。



 フィドラーが作っただけに、フィドルで弾きやすい調になっている。
 ケルティック・ミュージックをやる人はみんなお世話になっているサイト、The Session にも、"Aye Right" が掲載されていて、とてもありがたい。

The Session "Aye Right"

 この曲を弾きたい余り、コンサティーナを習うことを一瞬考えて、検索などしたのだが、さすがに無理。
 ホイッスルの先生は、「新しい楽器だって、まだやれる」と言って励ましてくださるが、経験のある楽器と仕組みが違いすぎるし、私には手が小さい、腕力が無いというハンデもあって、"Echo" の域にはとても達しないだろう…

 ありがたいことに D の譜面もある。
 よし、これをティン・ホイッスルで吹くぞ!と思ったは良いが、このリール、ホイッスルでは吹きにくいこと、この上ない。オクターブの跳躍が多すぎて、ホイッスルでは無理なのだ。

 そこで私は、邪道を思いついた。
 鍵盤ハーモニカなら、いけるんじゃないか…?!
 コンサティーナと同じリード楽器だし、「大人のピアニカ」なら、いけるんじゃないか…?!ハイ F まで出るし、第一、お得意の(?)鍵盤だ。
 そもそも、私は以前から「大人のピアニカ」を買う口実を探していたのだ…これは神のお導きではないか?!

 ホイッスルの先生は、私の「鍵盤ハーモニカ」という思いつきに、苦り切っている。
 しかし、"Echo" を弾いてみたいという、私の野望を叶える道の一つだ。ここはまず、ピアノでイン・テンポ演奏できるように練習するところから、始めようと思う。

 タリスクによる、"Echo" のライブ演奏。2017年で、3分47秒から。素晴らしすぎる。本当にこれ、やってみたい!

 

TALISK2021/05/01 22:15

 ケルト系音楽で、久々にこれは凄いというものに出会った。
 バンドの名前はタリスク TALISK ―― スコットランドのバンドだ。2016年の演奏,"Echo" が凄い。



 まず圧倒されるのは、ボタン・アコーディオンの一種であるコンサティーナの凄まじい演奏だ。私はピアニストなので並みの速弾きには驚かないが、これには度肝を抜かれた。この楽器の性能の限界まで追い詰めたテクニックではないだろうか。
 演奏者のモーセン・アミニはアイリッシュ・ミュージックでコンサティーナの腕を磨いたという。彼の母親はイングランド人、父親はイラン人だろうだ。その演奏の速さ、正確さ、強弱、アーティキュレーションすべてが高度なレベレルで圧縮されたような、圧巻の演奏。これには参った。

 フィドルのヘイリー・キーナンも上手いが、私が心ひかれたのは、ギターのクレイグ・アーヴィング。ものすごく上手い。実はアーヴィングは2016年のアルバム [Abyss] 発表以降、他のバンドに移籍している。
 ギターが変わるその変遷期に、同じ "Echo" を演奏している動画もあるが、圧倒的にギターの技術が追いついていないのが如実にわかってしまったのだから、アーヴィングがどれほどの名手だったのかが分かるという物だ。

 幸い、アーヴィングの後任グレム・アームストロングも、レベルを合わせてきて、2019年には二枚目のアルバム [Beyond] を発表した。一枚目が評判だったこともあり、二枚目は日本版も発売された。解説は、なんと天辰保文さん。天辰さん、この手の音楽も分野なんだ。
 そして2019年末には来日公演も行われている。しまった。もっと早く知るべきだった。
 来日公演のチラシに印刷されたキャッチフレーズは、「野獣降臨!」 ―― どうしてこういうダサいフレーズをつけるのか。昔、エアロスミスが同じような目に遭っていたような気がする。
 どうやら、アミニのライブでの熱いパフォーマンスを称して「野獣」と言っているらしい。そのエネルギッシュな様子を描写したつもりなのか。
 こういう音楽は、人間だからこそ、できるものであり、野の獣とはかけ離れている。
 ライブ映像は、2019年ケンブリッジ・フォーク・フェスティバルから "Dystopia" ――



 ものすごく格好良い。―― が、メンバー三人以外の音もかなりミックスされているので、ちょっとやぼったいかな。三人だけでも十分に会場を熱く出来るだろう。

 もちろん、アルバム2枚は即購入。ライブ演奏よりやや固いが、何度聞いても良い。
 スコットランドのフォークというと、ハイランド・バグパイプをビャービャー鳴らすだけという偏見を一気に払拭した、タリスクから目が離せない。

Jeans On2021/04/15 21:47

 最近、少しではあるが、木曜日が好きだ。夜に好きなテレビ番組があるから。俳句と、「ソーイング・ビー」。
 後者は、英国の裁縫バトル番組である。有名な「ベイク・オフ」(オーブン系料理コンテスト番組)の裁縫版。私自身は、ボタン付け程度しか出来ない不器用な人間だが、それとは対照的に器用なアマチュア裁縫名人が、限られた時間内に全力を出して布を裁っては縫いまくる。出場者の個性や、仲間との絆が強くなっていく雰囲気も楽しめる。推しが決まってくると、勝敗にドキドキしたりする。どんな日本のバラエティ番組よりも面白い。
 音楽も楽しい。日本で作られた型紙や、キモノの要素があった時は、槇みちるや、坂本九が使われた。

 デニム生地が使われたとき、短かくだが、ちょっと気になる曲があった。声はグレアム・ナッシュ風のポップ。
 歌詞で検索してみて分かったのは、その曲が1977年デイヴィッド・ダンダスによる "Jeans on" という曲であることだ。
 かなりヒットした曲だったらしく、ジーンズのCMでも使われた。



 ビートルズ風のポップな良い曲だが、ちょとポップ過ぎて何回も聴いていると、イラっとしてくる。
 今やダンダスは、この曲での一発屋というカテゴリーにあるようだ。
 ヒット曲なのでカバーもある。キース・アーバンがギター・サウンドを取り入れてカバーしているのだ。上手いけど、なんかムカつくので、動画はアップしない。そもそも、キース・アーバンって、顔からしてなんかムカつく。

 「ソーイング・ビー」の日本での放映は、シーズン5が始まったばかり。アマゾン・プライムでも過去のシーズンが見られるので(ただし字幕)、興味がある人は、ぜひ。

Phil Spector2021/01/31 20:47

 1月16日に、フィル・スペクターが死去したわけだが、記事を書き損ねていた。何せ彼の音楽は偉大ではあるが、私の好みとは、少し合わないのだ。
 そうしたら昨日、ピーター・バラカンさんの「ウィークエンドサンシャイン」で、フィル・スペクターの特集をしてくれた。これは、彼をお手軽に知る良い機会である。

 言うまでも無く、スペクターは、大量の楽器を鳴らして多重録音を駆使し、分厚い Wall of Sound 「サウンドの壁」を作りあげた、名プロデューサーである。数々のヒット曲を残し、後のミュージシャンたちにも多大な影響を与えた。
 「ウィークエンドサンシャイン」では、様々なスペクター・プロデュース楽曲が紹介された。中でも印象的だったのは、ザ・クリスタルズの "Then He Kissed Me" ―― キャッチーでノリが良い。演奏が始まると同時に、わぁっと盛り上がる感じは、よく分かる。名曲。



 1960年代前半を中心にスペクターは名作を残したが、ビートルズの [Let It Be] をアルバムとして仕上げた事に関しては、賛否両論。
 私個人としても、両論。ただ、"Let It Be" に関しては、スペクターがプロデュースしたアルバム・バージョンの方が好きだ。何せジョージのギターが前面に押し出されていて、格好良い。



 ビートルズ後、ジョンとジョージのソロ・ワークにスペクターが関わるところも、番組では言及される。ジョンが二曲紹介されてて、ジョージが一曲だけか ―― うーん。苦笑せざるを得ない。
 しかし、[All Things Must Pass] と、[Living in the Material World] での、スペクターの働きは微妙らしい。そもそもプロデューサーとして使い物にならなかったり、雲隠れしたり、ジョージも大変な思いをした。
 ジョージは亡くなる前、[ATMP] をリマスターして、過剰なエコーを取り除いた。スペクターに多くを学び、彼をプロデューサーに迎えた当時を、どんな風に回顧していたのだろうか。