I'm Henry the Eighth, I Am2021/05/29 19:47

 クラウス・フォアマンが UK の雑誌のインタビューに答えて、ジョージに初めて会った頃の事を語った。

クラウス・フォアマン、ビートルズのジョージ・ハリスンと初めて会った時のことを振り返る
 「初めてジョージに会った時、彼は弱冠17歳だったんだ。後のジョージとはまったく違っていたね。生意気なガキでさ。彼のいたバンドはまったくの無名だったんだ。
 ジョージは面白おかしい曲を歌っていたよ。後にも少しやるようなね。くつろぎながらウクレレを弾いていた。“I’m Henery the Eighth, I Am”みたいな曲をコックニー訛りで歌っていたんだ。あとは、“Twenty Flight Rock”みたいなエディ・コクランの曲なんかを歌っていたね。」


 エディ・コクランの "Twenty Flight Rock" は、わかる。たしか、[The Beatles Anthology] でも言及されていたと思う。
 興味をひかれたのは、もう一曲 "I'm Henry the Eighth, I Am" である。もっともリヴァプール訛りのきついジョージが、コックニー訛り(ロンドンの下町のアクセント)で?
   "I'm Henry the Eighth, I Am" は、1910年に作曲された古いコミック・ソングだそうだ。ヘンリー8世は、六回結婚したことで有名な人物だが、要するに「自分はヘンリー8世なみの女ったらしだ」という、コミカルな歌詞である。その歌詞をコックニー訛りに歌うのが通例で、Henry の "H" は発音しない(コックニー・アクセントに関しては、ノエル・フィールディングを参照すると良い)。
 そして、これを1962年にレコーディングしてヒットさせたのが、ジョー・ブラウンだった。
 ジョー・ブラウンといったら、日本人にとっては [Concert for George] での感動的な存在感が印象的に違いない。しかし UK では、60年代初期から有名な人で、ジョージはジョー・ブラウンのファンだった。それで、"I'm Henry the Eighth, I Am" を歌っていたというわけだ。



 おお!ジョー・ブラウン、若い!
 ジョージがハンブルグでクラウスたちとつるんでいた頃から、ウクレレをいじっていたというのは…本当だろうか?クラウス的に、ジョージといえばウクレレという印象が強すぎて、ハンブルグ時代のジョージにも、ウクレレが張り付いたのではないかと、疑っている。

 "I'm Henry the Eighth, I Am" に関しては、1965年にハーマンズ・ハーミッツもカバーして、それなりにヒットさせたそうだ。
 しかし、あまり芸の無いカバー。どうしてヒットしたのだろう。マージ-・ビート旋風のなせる技だろうか。

Aye Right2021/05/21 20:41

 スコットランドのフォーク・バンド、タリスクにすっかり魅了されてしまい、二枚のアルバムを何度も繰り返して聴いている。
 中でも先日の記事でも紹介した "Echo" が秀逸すぎる。自分でも演奏したくてたまらない。

 タリスクの演奏の原曲は、スコットランドのフィドラーだった、アンガス・グラントが作曲した "Aye Right" という曲である。
 こちらのセットでは、1分57分から始まるのが、"Aye Right" だ。



 フィドラーが作っただけに、フィドルで弾きやすい調になっている。
 ケルティック・ミュージックをやる人はみんなお世話になっているサイト、The Session にも、"Aye Right" が掲載されていて、とてもありがたい。

The Session "Aye Right"

 この曲を弾きたい余り、コンサティーナを習うことを一瞬考えて、検索などしたのだが、さすがに無理。
 ホイッスルの先生は、「新しい楽器だって、まだやれる」と言って励ましてくださるが、経験のある楽器と仕組みが違いすぎるし、私には手が小さい、腕力が無いというハンデもあって、"Echo" の域にはとても達しないだろう…

 ありがたいことに D の譜面もある。
 よし、これをティン・ホイッスルで吹くぞ!と思ったは良いが、このリール、ホイッスルでは吹きにくいこと、この上ない。オクターブの跳躍が多すぎて、ホイッスルでは無理なのだ。

 そこで私は、邪道を思いついた。
 鍵盤ハーモニカなら、いけるんじゃないか…?!
 コンサティーナと同じリード楽器だし、「大人のピアニカ」なら、いけるんじゃないか…?!ハイ F まで出るし、第一、お得意の(?)鍵盤だ。
 そもそも、私は以前から「大人のピアニカ」を買う口実を探していたのだ…これは神のお導きではないか?!

 ホイッスルの先生は、私の「鍵盤ハーモニカ」という思いつきに、苦り切っている。
 しかし、"Echo" を弾いてみたいという、私の野望を叶える道の一つだ。ここはまず、ピアノでイン・テンポ演奏できるように練習するところから、始めようと思う。

 タリスクによる、"Echo" のライブ演奏。2017年で、3分47秒から。素晴らしすぎる。本当にこれ、やってみたい!

 

TALISK2021/05/01 22:15

 ケルト系音楽で、久々にこれは凄いというものに出会った。
 バンドの名前はタリスク TALISK ―― スコットランドのバンドだ。2016年の演奏,"Echo" が凄い。



 まず圧倒されるのは、ボタン・アコーディオンの一種であるコンサティーナの凄まじい演奏だ。私はピアニストなので並みの速弾きには驚かないが、これには度肝を抜かれた。この楽器の性能の限界まで追い詰めたテクニックではないだろうか。
 演奏者のモーセン・アミニはアイリッシュ・ミュージックでコンサティーナの腕を磨いたという。彼の母親はイングランド人、父親はイラン人だろうだ。その演奏の速さ、正確さ、強弱、アーティキュレーションすべてが高度なレベレルで圧縮されたような、圧巻の演奏。これには参った。

 フィドルのヘイリー・キーナンも上手いが、私が心ひかれたのは、ギターのクレイグ・アーヴィング。ものすごく上手い。実はアーヴィングは2016年のアルバム [Abyss] 発表以降、他のバンドに移籍している。
 ギターが変わるその変遷期に、同じ "Echo" を演奏している動画もあるが、圧倒的にギターの技術が追いついていないのが如実にわかってしまったのだから、アーヴィングがどれほどの名手だったのかが分かるという物だ。

 幸い、アーヴィングの後任グレム・アームストロングも、レベルを合わせてきて、2019年には二枚目のアルバム [Beyond] を発表した。一枚目が評判だったこともあり、二枚目は日本版も発売された。解説は、なんと天辰保文さん。天辰さん、この手の音楽も分野なんだ。
 そして2019年末には来日公演も行われている。しまった。もっと早く知るべきだった。
 来日公演のチラシに印刷されたキャッチフレーズは、「野獣降臨!」 ―― どうしてこういうダサいフレーズをつけるのか。昔、エアロスミスが同じような目に遭っていたような気がする。
 どうやら、アミニのライブでの熱いパフォーマンスを称して「野獣」と言っているらしい。そのエネルギッシュな様子を描写したつもりなのか。
 こういう音楽は、人間だからこそ、できるものであり、野の獣とはかけ離れている。
 ライブ映像は、2019年ケンブリッジ・フォーク・フェスティバルから "Dystopia" ――



 ものすごく格好良い。―― が、メンバー三人以外の音もかなりミックスされているので、ちょっとやぼったいかな。三人だけでも十分に会場を熱く出来るだろう。

 もちろん、アルバム2枚は即購入。ライブ演奏よりやや固いが、何度聞いても良い。
 スコットランドのフォークというと、ハイランド・バグパイプをビャービャー鳴らすだけという偏見を一気に払拭した、タリスクから目が離せない。

Jeans On2021/04/15 21:47

 最近、少しではあるが、木曜日が好きだ。夜に好きなテレビ番組があるから。俳句と、「ソーイング・ビー」。
 後者は、英国の裁縫バトル番組である。有名な「ベイク・オフ」(オーブン系料理コンテスト番組)の裁縫版。私自身は、ボタン付け程度しか出来ない不器用な人間だが、それとは対照的に器用なアマチュア裁縫名人が、限られた時間内に全力を出して布を裁っては縫いまくる。出場者の個性や、仲間との絆が強くなっていく雰囲気も楽しめる。推しが決まってくると、勝敗にドキドキしたりする。どんな日本のバラエティ番組よりも面白い。
 音楽も楽しい。日本で作られた型紙や、キモノの要素があった時は、槇みちるや、坂本九が使われた。

 デニム生地が使われたとき、短かくだが、ちょっと気になる曲があった。声はグレアム・ナッシュ風のポップ。
 歌詞で検索してみて分かったのは、その曲が1977年デイヴィッド・ダンダスによる "Jeans on" という曲であることだ。
 かなりヒットした曲だったらしく、ジーンズのCMでも使われた。



 ビートルズ風のポップな良い曲だが、ちょとポップ過ぎて何回も聴いていると、イラっとしてくる。
 今やダンダスは、この曲での一発屋というカテゴリーにあるようだ。
 ヒット曲なのでカバーもある。キース・アーバンがギター・サウンドを取り入れてカバーしているのだ。上手いけど、なんかムカつくので、動画はアップしない。そもそも、キース・アーバンって、顔からしてなんかムカつく。

 「ソーイング・ビー」の日本での放映は、シーズン5が始まったばかり。アマゾン・プライムでも過去のシーズンが見られるので(ただし字幕)、興味がある人は、ぜひ。

Phil Spector2021/01/31 20:47

 1月16日に、フィル・スペクターが死去したわけだが、記事を書き損ねていた。何せ彼の音楽は偉大ではあるが、私の好みとは、少し合わないのだ。
 そうしたら昨日、ピーター・バラカンさんの「ウィークエンドサンシャイン」で、フィル・スペクターの特集をしてくれた。これは、彼をお手軽に知る良い機会である。

 言うまでも無く、スペクターは、大量の楽器を鳴らして多重録音を駆使し、分厚い Wall of Sound 「サウンドの壁」を作りあげた、名プロデューサーである。数々のヒット曲を残し、後のミュージシャンたちにも多大な影響を与えた。
 「ウィークエンドサンシャイン」では、様々なスペクター・プロデュース楽曲が紹介された。中でも印象的だったのは、ザ・クリスタルズの "Then He Kissed Me" ―― キャッチーでノリが良い。演奏が始まると同時に、わぁっと盛り上がる感じは、よく分かる。名曲。



 1960年代前半を中心にスペクターは名作を残したが、ビートルズの [Let It Be] をアルバムとして仕上げた事に関しては、賛否両論。
 私個人としても、両論。ただ、"Let It Be" に関しては、スペクターがプロデュースしたアルバム・バージョンの方が好きだ。何せジョージのギターが前面に押し出されていて、格好良い。



 ビートルズ後、ジョンとジョージのソロ・ワークにスペクターが関わるところも、番組では言及される。ジョンが二曲紹介されてて、ジョージが一曲だけか ―― うーん。苦笑せざるを得ない。
 しかし、[All Things Must Pass] と、[Living in the Material World] での、スペクターの働きは微妙らしい。そもそもプロデューサーとして使い物にならなかったり、雲隠れしたり、ジョージも大変な思いをした。
 ジョージは亡くなる前、[ATMP] をリマスターして、過剰なエコーを取り除いた。スペクターに多くを学び、彼をプロデューサーに迎えた当時を、どんな風に回顧していたのだろうか。

木材のこと2021/01/23 19:56

 ヴァイオリンの名器や、ヴィンテージ・ギターの本を読んで、いずれも古い ―― 要するに「中古の」の楽器の方が、新品よりも優れていると言うことについて、考えさせられた。

 ストラディヴァリ,グァルネリ,アマティのような17世紀頃に作られたヴァイオリンの名器たちは、とんでもない高額で取引され、「素晴らしい音がする」と言われている。
 私はこの何億円もする名器,イコール最高の音がすると信じることには、懐疑的ではある。しかし一方で、ある程度の音質を得るには、ある程度の木材が必要であるとは思う。一定の時間をかけて育ち、年輪の詰まった木材が、良い音を生み出すと言う点を、無視できないからだ。

 私は、先祖から受け継いだ小鼓を持っている。120年ものと言われている。その漆塗り,蒔絵仕上げの胴は、桜の木で出来ている。
 小鼓の良い音を響かせる桜の木は、ある程度の年数育った木でなければならないと教わった。今となっては、そのような桜の木が枯渇してしまい、古い小鼓のような品質の胴を、作ることが叶わないという。

 ノーマン・ハリスによるヴィンテージ・ギターに関する記述でも、木材の問題に言及していた。1950年代から60年代に作られたギターは良い木材を用いて、素晴らしい品質になったが、その後はギターメーカーが安く,大量生産をしたために、木材の質が落ちたのだという。木の選び方のみならず、木その物が、枯渇していたとも言えるだろう。
 同時に木材以外の部品や、作業の品質が悪くなり、結局、中古のヴィンテージ・ギターの方が、高い値段で取引されるに至るのだ。
 私は先生にそそのかされて、コリングスのウクレレを持っているが、先生曰く、その木材も、もはや入手困難で、その価格は、中古であっても、私が買ったときよりも高くなっているらしい。

 実は、ピアノに関しても同じ事を感じている。
 ヤマハ,カワイに代表される日本のピアノメーカーは、戦後から安価なピアノを大量生産した。大量生産とはいえ、その品質は意外と良かった。まだ良い木があったのだ。1980年代半ばまでのピアノは、どれもけっこう良い音がする。
 しかし、年号が平成になるころから、良い木材が使えなくなったらしく、あまり良い音がしない。私見だが、ピアノは昭和まで。中古のピアノが狙い目なのだ。幸運にも、私が普段弾くピアノは、良い木を使っている頃の物だ。

 良い木が枯渇してしまい、ヴァイオリンも、ギターも、ピアノも昔ほどの品質を期待できなくなってしまった ―― こう言ってしまうと悲しい話だが、そう悲観することもない。
 人類が今後、自然環境保全と利用に折り合いをつけて、地球とうまくやっていけるとしたら、何百年、何千年後かには、再び素晴らしい木材が手に入るようになり、ストラディヴァリや、アマティ、ストラトキャスター、レス・ポールを再現する事が出来る日が来るかも知れない。

Nils Koppruch2021/01/15 21:09

 けっこう、語学番組が好きだ。
 世の中のあれやこれや、辛いこと、難しいことはさておき、言語学習のために色々な趣向を凝らされるのを、ぼんやり見たり、聴いたりしていると、憂き世のことを忘れることが出来る。
 ドイツのミュージシャン,Nils Koppruch の曲、"Kirschen (wenn der Sommer kommt)" ―― さくらんぼ(夏が来れば)―― は、たしかラジオのドイツ語講座番組で、使われていたのだと思う。とても良い曲だ。

 これぞまさに、フォーク・ロック。軽やかで、素朴なアコースティック・ギターの重なりに、スライドギターの取り合わせ。絶妙にウィルベリーズっぽい。好きに決まっている。
 ビデオにもストーリーがあって、心が満たされる感じだ。
 まぁ、あんな道具をむき出しで電車に乗ろう物なら、すぐに取り上げられそうだが。



 彼の名前は、日本語では「ニルス・コプラッハ」とでも書けば良いのだろうか。1965年ハンブルグ生まれ。
 バンド活動や、イラストレーターとしても活躍していた。残念ながら、2012年に46歳で亡くなっている。

 もう一曲、"Die Aussicht" ―― ザ・バンドや、リンディスファーンっぽさが溢れていて、心地よく、穏やかで素晴らしい。

ヴァイオリン職人シリーズ(ポール・アダム)2021/01/11 20:28

 UKのミステリー作家,ポール・アダムの、いわゆる「ヴァイオリン職人シリーズ」は、日本語訳が出ているだけではなく、第三作にいたっては、日本のファンのリクエストに応える形で書かれたという。
 いわゆる「特別な職業の探偵」ものである。探偵役はプロの探偵や警察ではなく、他の分野の専門家で、その知識を生かして事件を解決するというジャンルだ。
 このシリーズの探偵役は、イタリアはクレモナ(16世紀以降、ヴァイオリン類を主とする楽器生産で有名)郊外に住む、ヴァイオリン職人のジャンニがつとめている。彼の周囲で起きる、ヴァイオリンを巡る殺人事件に、友人であり、刑事であるアントニオと共に挑む。

ヴァイオリン職人の探求と推理 The Rainaldi Quartet
ジャンニの友人で同僚だったライナルディが殺され、彼の死と伝説のストラディヴァリの名器をめぐる謎を追う。

ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密 Paganini's Ghost
パガニーニの名器,イル・カノーネを修理したジャンニ。翌日、美術品ディーラーが殺され、そこにはパガニーニをめぐる宝物と歴史の謎が潜んでいた。

ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器 The Hardanger Riddle
ジャンニの弟子だったノルウェー人が殺害され、彼が持っていた、ノルウェーの伝統的なフィドル,ハルダンゲル・フィドルが消える。謎を追ってジャン二はアントニオと共にノルウェーに向かう。

 ミステリーとしての出来は…うーん、イマイチかな。おお、凄い!と思わせるような驚きもないし、ああ、そうか!と思わせる「やられた感も」もない。
 むしろ、ミステリーの体裁を取った、ヴァイオリン蘊蓄を楽しむ作品と言うべきだろう。あとは、各地の観光案内も兼ねている。
 このシリーズの良いところと言えば、刑事アントニオ(私の中では、ビジュアルが完全にアンディ・ガルシア)と、ジャンニも関係だった。友人であり、親子のような二人は、信頼感があって、心温まる。ミステリー作品において、警察が探偵を邪魔者扱いする下りは、不要だと思っているので、その点は満足だった。

 第一作では、ストラディヴァリや、グァルネリのような、いわゆる「名器」を巡る、お金の絡んだ、やや馬鹿げた熱狂がよく分かる。
 私はクラシックにおいて、ある程度の品質の楽器の使用は重要だと思っている。 しかし、さすがに億円単位の価格が、真の楽器の価値だとは思っていない。「名器」は楽器としてというより、その希少さに価値のある、骨董品になってしまっている。ストラディヴァリとグァルネリを、異常に有り難がる風潮には、同調できない。

 第二作は、パガニーニをはじめとする名演奏家たちと、歴史に関するあれこれのエピソードが絡む。
 パガニーニと言えば、まずは「24のカプリース」だろう。ここは、ヤッシャ・ハイフェッツの演奏で。



 第三作は、「名器」のみならず、ノルウェーのハルダンゲル・フィドル(ハーディングフェーレ)が登場する。これが中々興味深かった。
 ハルダンゲル・フィドルは、華麗な装飾が施され、通常の四弦のほかに、五本の共鳴弦が張られていることが特徴だ。こういう、様々な楽器を紹介してもらえるのはありがたい。
 すごく魅力的で、自分がヴァイオリニストだったら、きっと手を出しているだろう。日本にも愛好家がいるそうだ。確かに、日本人は好きそうだ。

Never Google Your Symptoms2020/08/20 20:02

 最近日本で話題になった動画、"Never Google Your Symptoms" ―― これは、あるあるで面白い。
 作ったのは、スウェーデン人の本職のお医者さん Henrik Widegren。



 何が可笑しいって、歌詞内容も面白いけど、音楽として無駄に良く出来ているところだ。演奏は上手いし、曲も良いし、プロデューシングも絶妙。XTC だと言われても、疑わないかも知れない。

 念の入ったことに、アンプラグド・バージョンもある。スライドギターの上手さがムダ過ぎて大好き。
 ボーカルのお医者さん以外は、本職のミュージシャンなのだろう。



 こういう、「自分で病気を調べて、勝手に重病だと診断する」という話は、昔からよくあることらしい。

 ジェローム・K・ジェロームの「ボートの三人男 Three men in a boat」(1889)の冒頭にも、同じようなエピソードが出てくる。
 三人男はそれぞれ具合が悪いと言い、語り手のジェロームは、薬の広告を見るとすべての症状が当てはまっているように思う。
 ある日、大英博物館に出かけて、ちょっとした症状(hay fever 乾草熱,日本で言う、花粉症)を調べるのだが、アルファベット順にすべての病気 ―― 瘧,腎臓病,コレラ,ジフテリア,痛風,疱瘡 などなど ―― の症状が、自分にあてはまるという結論に至る。
 ただ、"housemaid's knee" を除いて。

 「この病気にだけかかっていないことにかなり不満だった。なんとなく馬鹿にされているような気がしたのだ」

 ジェロームは、「なんだって "housemaid's knee" だけは遠慮するのだろうか」と、憤慨するのである。
 ここで、丸谷才一による翻訳の問題になる。「ボートの三人男」の翻訳は名訳なのだが、いくつか気に入らないところがあって、この "housemaid's knee" もその一つだ。
 三十くらいの男性が、 "housemaid's knee" にだけは、ならないなんて、どうして!という所が面白いのであって、丸谷才一のように生真面目に「膝蓋粘液腫」などと訳してはいけない。ここは「メイドひざ」程度にしておくべきだった。
 (調べたら、2018年に新訳がでているそうだ。買おうかしら)

 自戒も込めて ―― Never Google Your Symptoms!

You've Got a Friend2020/07/16 20:11

 私が好きなスポーツは、野球,F1,フィギュアスケート。スケートだけが、シーズン・オフである。

 基本的に、フィギュアスケートという競技そのものが好きなので ―― 特にシングルと、アイスダンスが好き ―― 特定の選手に入れ込んでいると言うことはない。
 それでも、お気に入りのスケーターを挙げると、高橋大輔と鈴木明子だ。ふたりともシングルとしては引退しおり、高橋はアイスダンスに挑戦という、エイプリル・フールのネタを実現している。

 二人に共通するのは、やはり表現力だろうか。とにかく踊りが上手いし、表情が豊かで深い。
 高橋の場合は、その上ジャンプの踏切り、空中姿勢、着地が美しく、世界一と言われたステップ、伸びやかなスケーティングで、オリンピックでメダルを獲得するに至った。

 二人のファンである私にとって更に嬉しいことに、彼らは非常に親しい友人であり、同士であり、戦友だった。
 こういう、男女の友情には、ぐっとくる。恋愛関係ではなく、飽くまでも強い友情というところが、凄く良い。



 高橋が、鈴木に「いつまでスケートやる?」と尋ねた所など、泣きそうになる。
 最後は盤上で一人になる孤独な競技において、心の支えとなる親友にちらっと見せる、弱気のような、強がりのような、微妙な心の動き。キャロル・キングの "You've Got a Friend" は本当にしっくりくる名曲だ。