Pub Choir / Free Fallin'2023/02/01 21:09

 素晴らしい動画がアップされているので、まずは視聴して欲しい。
 パソコンやスマホのスピーカーではなく、イヤホンか外付けスピーカーで、大きな音で聴くこと!



 このパフォーマンスは、オーストラリア,ブリスベンのパブ・クワイア Pub Choir によるものである。この合唱団の活動そのものは2017年から本格的に始まったが、パンデミックの影響でしばらくオンラインでの活動が続き、満を持してこの "Free Fallin'" で本来の姿で戻ってきたらしい。
 パブ・クワイアをリードしているのはアストリッド・ジョーゲンセンで、大学,大学院で音楽、声楽、合唱を専攻した彼女がポップスを主に三部合唱に編曲し、それを一般市民に「パブで集っているノリで」歌ってもらうというコンセプトだ。

 この動画を見てとても感動したし、同時に感心した。とても良くまとまっている。曲を三部合唱に編曲して、譜面配って、さぁ誰でも自由に歌ってください ―― だけでこれだけのクォリティには持って行けないだろう。
 私の体験でもっとも近いのは、音楽大学の卒業式だ。大ホールに集まった様々な学科の音大生が、当日ラテン語の四部合唱曲の譜面を渡されて、少し練習してから卒業式が始まり、本番で大合唱したのだ。声楽科の人は一部でしかないので、ほかは歌の専門家ではない。でも、ある程度の素養があって、バランス感覚と耳を持っている。そして、一番重要なことは晴れやかな気持ちで楽しく歌ったことだ。
 パブ・クワイアも、発声方法こそ自由であれ、音程はかなりきちんとコントロールするように、それなりの練習をしているようだ。それほど複雑な和音は用いていないので(原曲はトム・ペティだし)、合唱の技術的には難しくはないが、とにかく訓練はされているし、本番前にリハーサルもしているはずだ。
 それから動画を見るとよくわかるが、最後方の見物人を除いて、誰もスマホで撮影などせず、正面の指揮者(ジョーゲンセン)と、スクリーンを注視している。お酒は入っていても、それなりの統率は取られている加減が素晴らしいとおもう。ただ楽しくて自由なだけでは音楽の質は確保できず、かといってガチガチに特訓しすぎると盛り上がらない。そのさじ加減が絶妙なのだ。

 パブ・クワイアの動画をほかにも見たが、自分にとってそれほどなじみの無い曲だと、"Free Fallin'" ほどの感動はない。しかし、曲を知っていれば楽しいだろう。
 自分も一緒に歌いたくなる名曲を、こんなに素敵に歌い上げられるパブ・クワイアを羨ましく思うし、それを共有できるネット配信のシステムのありがたみをしみじみと感じる。そしてもう一度、大音量で彼らの合唱が聴きたくなる。

En man som heter Ove / A Man Called Otto2023/02/05 21:09

 最初に原作があった。
 書店で何となく目に付いたので読んでみたのがスウェーデンの作家、フレドリック・バックマンによる「幸せなひとりぼっち」(原題 En man som heter Ove)。とても面白い本だったので、バックマンの他の作品も積ん読本になっている。
 さて、「幸せなひとりぼっち」は大変ヒットした小説で映画向き。映画になっていないかと確認してみると、2012年にスウェーデンで映画化され、大ヒット。アカデミー賞の外国語作品賞にもノミネートされた。
 幸運にも、この映画はアマゾン・プライム・ビデオで鑑賞できた。どうせスウェーデン語はわからないので、吹き替え版で鑑賞。原作をほぼなぞる内容で、とても良かった。車へのこだわりがうまく表現できているのも楽しかった。サーブ、ボルボ。原作ではトヨタだったのが映画ではヒュンダイ。若者が欲しいのはルノー。
 エンディング・テーマ曲も良かったので確認してみると、ラレー(Laleh)のオリジナル楽曲 "En Stund På Jorden" という。



 さて、この良作をハリウッドが放っておくはずもなく、このたびトム・ハンクス制作、主演でアメリカ版にリメイクされた。タイトルは原作に近く、"A MAN CALLED OTTO" 「オットーという男」
 さぁ、北欧とは異なる社会 ―― 特に社会福祉や移民に関する点などは、どう消化するのか、とても興味深い。特に車の扱いは重要だ。どうやら、原作のサーブに相当するのがシボレー(GM)であり、対比されるのがトヨタのハイブリッドということらしい。
 日本でも3月公開だが、アメリカの予告編を見て、これがびっくり!あのギター・リフを聞いて心底びっくりした。



 ザ・トラベリング・ウィルベリーズの "End of The Line" ――  思えば、トム・ハンクスはウィルベリー兄弟とは縁が深い。彼の映画で ELO や TP&HB も使っていたのであり得る選択だろう。
 ともあれ、予告編に使われた音楽が必ずしも本編に使われるとは限らない。それでも何かしらウィルベリー一族のサウンドが期待できそうだ。

Rough and Rowdy Ways" World Wide Tour 2021 - 20242023/02/09 21:32

 大きな、そして嬉しいニュースが入ってきた。ボブ・ディランが春に来日公演を行う。2020年の春にパンデミックの影響でキャンセルされて以来、待ちわびた来日だ。

"Rough and Rowdy Ways" World Wide Tour 2021 - 2024

 日程を見て絶望!
 なんてこった!4月のその週は、わたしが!日本に居ない!!!

 ある日本人が、あるときパリのルーヴル美術館に行ってモナリザを見ようとしたら、ちょうど日本で公開中だったという話があるが、そのパターンにはまってしまった。
 うわぁ、どうしよう…日曜日は…かろうじて行けるかなぁ。大阪や名古屋もに遠征するのは無理だし。これは困った。
 ワールド・ツアーで、2024年まで?じゃぁ、来年どこか海外に遠征するか?ロンドンか、ウィーンなら喜んでお供します、ディラン様!

 ディラン様の最新ブートレグ・シリーズをまだ聞き込んでいないものだから、ばちがあたったのだろうか。ごめんなさい、ディラン様。ちゃんと聞きます。

Baby It's You2023/02/13 20:22

 四大陸選手権の男子シングルよかったな…!特にメッシング、素晴らしかった!佐藤の「男は黙って4Lz」もよかったし。四大陸って、位置づけが曖昧な割に、時々名演が出るので、見逃せないのだ。

 バート・バカラックが亡くなったと聞いて、バート・バカラック…私とはあまり関係ないなぁと思っていたら、さにあらず。ビートルズのアルバム [Please Please Me] に収録された "Baby It's You" が、バート・バカラックだとは知らなかった。迂闊。



 これはジョンのヴォーカルの良さに尽きる。甘く歌わせても良いし、力強くシャウトしても良い。ビートルズ初期、ヴォーカリストとして最高期であるジョンの魅力を遺憾なく発揮してくれている。
 ジョンは年を追うごとに何か考えるところがあるのか、初期ほどの輝きが失われていく。そのことがかえって、初期の良さを際立たせてもいる。

 印象的な "Sha lalalalalala" というコーラスも、さすがビートルズ。高音はポールで、下にジョージがつけているのだが、BBC ライブでの音声バランスの問題なのか、ジョージの声の方が強く出ている。ちょっとガサガサした、あどけないような歌い方が、これまた二十歳にもならないジョージの初々しさがでていてたまらない。
 要するに、何をやらせてもビートルズはすんばらしいし、ジョージは可愛いということだ。

Make You Feel My Love2023/02/17 22:07

 ボブ・ディランの来日公演では、スマホ・携帯電話の持ち込みが禁止である。使用禁止では無く、持ち込み禁止。かなり徹底した意思表明だ。持ち込む場合は、会場内で開封できないポーチに入れなければならない。Yondr という製品の活用で、これはこれで画期的なテクノロジーだ。
 私がさかんにトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを見に行っていた時 ―― 2008年から2017年ごろまでの印象では、動画、写真取り放題だったし、私も楽しく撮影していた。
 ボブ・ディランはそういう聴衆に断固抵抗。確かにロンドンで見たときも、かなり厳しく撮影を止めていた。日本の会場ではほとんどスマホ撮影は無かったと思うが、ワールド・ツアーにおいて、日本だけ特別扱いはしないというわけだ。

   確かに、遠くから足を運んでライブを見に来たのだから、それを記録に取りたいという気持ちは分かるし、実際に私もしていた。ただ、TP&HB 最後のツアーとなった2017年だけは、ほとんど撮影をしなかった。かなりギリギリに取った席だったため、非常にステージが見づらかったのだ。だったら、撮影に気を取られるよりも、自分の目と耳でライブを体感することを優先したのだ。あれが最後のトムさんの姿だったと思うと、後悔しないで済んだと思っている。
 だから、スマホではなくステージ上のパフォーマンスに集中せよ、というボブ・ディランの言うことには今ではすっかり賛成だ。
 その代わり、アーチストにお願いしたいのは公式でライブ動画をたくさん提供して欲しいと言うことだ。有料にしろ、無料にしろ、視覚に訴える媒体を全く遮断してしまうのは惜しい。それに世界中のだれもがライブ会場に行けるわけでもないのだ。ライブ会場にいる聴衆の幸せを、少しでも分けてくれるとより多くの人が幸せになるだろう。

 ここ数日、最新のディランのブートレッグシリーズ [Fragments] を聞いている。なんとなく、正式アルバムになった [Time Out Of Mind] よりも、今回の [Outtake and Alternates] の方が好きなような気がする。新鮮だからだろうか。
 特に "Make You Feel My Love" には泣きのエレキギターがフューチャーされているし、オルガンの鳴りもロック寄りだ。
 "Make You Feel My Love" と言えば、ディランの公式に関連動画が上がっている。コレは … TED-Ed みたいなものかな?

Beethoven Sonata No.8 (Pathetique)2023/02/21 21:15

 私の家でピアノを弾いた高校一年生男子、巨大な手の持ち主。一応「幻想即興曲」を弾いたが、ちょっと色々と言いたいこともある ―― が、ここはぐっと我慢。べつに音大に行くわけでもないからね。
 それで、次に何を弾きたいかと尋ねると、「悲愴の第二楽章」という。

 「悲愴」は第一楽章と第三楽章があるから「悲愴」なのだ!第二楽章はおまけだ!

  …と、思わず一刀両断にしたのだが、その後彼はどうしたのだろうか。あれだけの巨大な手を持っていたら、ベートーヴェンも弾き甲斐があるだろうに。

通称「悲愴」はベートーヴェンが三十歳になる前、彼がピアニストとしても名声を得ていたころの作品だ。
 ダニエル・バレンボエムで聞いてみる。



 冒頭のグラーヴェを過ぎると、かなり軽やかな印象で、奏者自身がそれをとても強調しているように思える。ベートーヴェンもまだ若く、モーツァルトのような華やかで軽やかな作風もまだ残っているようだ。
 第二楽章については私が特にかたることもない。第三楽章は、ピアノの試験で散々お世話になった記憶と共に、楽譜に書き込みがたくさんある。学生としてピアノに接していた、青春の思い出のメロディだ。

静嘉堂文庫美術館 ミュージアム・コンサート「雅楽 宮田まゆみ」2023/02/25 23:06

 今日は、丸の内に移転した静嘉堂文庫美術館に行った。
 かねてから静嘉堂に行きたいと思っていたし、例の有名な曜変天目茶碗も見たかったのだ。そしてこのたび、美術館のホワイエで、宮田まゆみ先生を中心とした雅楽コンサートがあるというので、これは良いチャンスだ。

 曜変天目が展示されているかどうかは、タイミングがあるので分からないのだが、今日はラッキーなことに展示されていた。小さい、小さいとは聞いていたが、本当に小さい。そして曜変は美しい。可愛くて神秘的で、大袈裟ではない。いかにも日本人好みの宝物だ。

 コンサートが行われたのは、美術館のホワイエ ―― そういえばホワイエって厳密にはどういう意味だろう?ググってみると、「劇場やホール等の入口から観客席までの広い通路のこと」とのこと。
 このホワイエ、床はピカピカの大理石(もどき?)天井も壁も漆喰なのか、がっちがちである。要は絨毯やソファで布部分が多い音楽ホールとはまったく逆の質感で、見るからにこれは音がとんでもない反響をしそうだ。

 まずは宮田まゆみ先生の笙ソロで、雙調調子。笙と言う楽器は基本的に和音を奏でる楽器だが、一本一本の管からは蚊の鳴くような音しかしない。そういうわけで、笙のソロは程よく響き、相性が良かった。
 問題は、篳篥(中村仁美先生)、龍笛(八木千暁さん)が加わる合奏。特に、龍笛の音は大変だった。高音が高すぎ、大きすぎ、響き過ぎで、許容範囲を振り切ってしまい、左耳がキーン!と痛んだ。
 芝祐靖先生の各楽器のための独奏曲があり、最後に静嘉堂所蔵の前田青邨の大作「蘭陵王」にちなんで、その曲を三管で演奏した。だいたい旋律は分かっているので、龍笛の最高音が来るたびにビクビクしなければならなかった。

 とはいえ、小さな会場でシンプルな演奏。こういう雅楽のコンサートも良いなと思った。できれば、絨毯があるところで。