木材のこと2021/01/23 19:56

 ヴァイオリンの名器や、ヴィンテージ・ギターの本を読んで、いずれも古い ―― 要するに「中古の」の楽器の方が、新品よりも優れていると言うことについて、考えさせられた。

 ストラディヴァリ,グァルネリ,アマティのような17世紀頃に作られたヴァイオリンの名器たちは、とんでもない高額で取引され、「素晴らしい音がする」と言われている。
 私はこの何億円もする名器,イコール最高の音がすると信じることには、懐疑的ではある。しかし一方で、ある程度の音質を得るには、ある程度の木材が必要であるとは思う。一定の時間をかけて育ち、年輪の詰まった木材が、良い音を生み出すと言う点を、無視できないからだ。

 私は、先祖から受け継いだ小鼓を持っている。120年ものと言われている。その漆塗り,蒔絵仕上げの胴は、桜の木で出来ている。
 小鼓の良い音を響かせる桜の木は、ある程度の年数育った木でなければならないと教わった。今となっては、そのような桜の木が枯渇してしまい、古い小鼓のような品質の胴を、作ることが叶わないという。

 ノーマン・ハリスによるヴィンテージ・ギターに関する記述でも、木材の問題に言及していた。1950年代から60年代に作られたギターは良い木材を用いて、素晴らしい品質になったが、その後はギターメーカーが安く,大量生産をしたために、木材の質が落ちたのだという。木の選び方のみならず、木その物が、枯渇していたとも言えるだろう。
 同時に木材以外の部品や、作業の品質が悪くなり、結局、中古のヴィンテージ・ギターの方が、高い値段で取引されるに至るのだ。
 私は先生にそそのかされて、コリングスのウクレレを持っているが、先生曰く、その木材も、もはや入手困難で、その価格は、中古であっても、私が買ったときよりも高くなっているらしい。

 実は、ピアノに関しても同じ事を感じている。
 ヤマハ,カワイに代表される日本のピアノメーカーは、戦後から安価なピアノを大量生産した。大量生産とはいえ、その品質は意外と良かった。まだ良い木があったのだ。1980年代半ばまでのピアノは、どれもけっこう良い音がする。
 しかし、年号が平成になるころから、良い木材が使えなくなったらしく、あまり良い音がしない。私見だが、ピアノは昭和まで。中古のピアノが狙い目なのだ。幸運にも、私が普段弾くピアノは、良い木を使っている頃の物だ。

 良い木が枯渇してしまい、ヴァイオリンも、ギターも、ピアノも昔ほどの品質を期待できなくなってしまった ―― こう言ってしまうと悲しい話だが、そう悲観することもない。
 人類が今後、自然環境保全と利用に折り合いをつけて、地球とうまくやっていけるとしたら、何百年、何千年後かには、再び素晴らしい木材が手に入るようになり、ストラディヴァリや、アマティ、ストラトキャスター、レス・ポールを再現する事が出来る日が来るかも知れない。