Cheer Down2021/01/03 20:01

 1989年にジョージが発表した "Cheer Down" は、エリック・クラプトンに提供した曲の、一つだったそうだ。クラプトンは当時、映画のサントラを担当していた。この曲に関しては、クラプトンはジョージ自身が演奏する方が良いと判断し、結局ジョージのヴォーカル,スライドギターで発表された。
 長い間、ジョージのアルバムとしては、ワーナー時代のベスト盤である [Dark Horse 1976-1989] にしか収録されていなかったが、2009年にオールタイム・ベスト [Let It Roll] に収録されて、晴れて日の目を見た。

 この曲の作詞には、トム・ペティも名を連ねている。この頃よくつるんでいた二人。トムさんが言うには、ジョージがお酒など飲んで、ちょっとはしゃいでいたときに、オリヴィアが「はいはい、cheer down」と言っていたのが、タイトルになったそうだ。
 この極上のスライド・ギターを聴くと、やはりジョージが録音・発表して本当によかったと思う。



 1991年の日本ツアーでも、この曲は披露されている。幸運と言うべきだろう。
 そもそも、ライブ,ツアーが久しぶりだったジョージにとって、緊張の連続だったろうが、このメイン・ヴォーカルとスライド・ギターを同時にこなさなければならないこの曲では、特にガッチガチに緊張している。
 でも声の出も良いし、スライドギターも冴え渡っている。本当に格好良い。



 [Concert for George] で、TP&HB に演奏して欲しい曲でもあった。今となっては、トムさんによるカバーも聴くことが出来ないのは、残念だ。
 いや…ジョージ・スライドをやらせたら世界一の、マイク・キャンベルが居る。望みはある。

The Cabbage2021/01/07 19:25

 ジョージのスライド・ギターが好きなので、よく似たスライド・ギターのサウンドを聴くと、勝手にジョージに影響を受けたんだな ―― と思う。
 その一つが、ティーンエイジ・ファンクラブの "The Cabbage"  ―― 歌詞に野菜のキャベツが出てくるわけではない。失恋の曲で、cabbage には、英国の俗語で「無気力,ぐうたら」という意味があるらしい。



 1993年の曲なので、ジョージが弾いたんじゃないかと、真面目に思って確認したが、そういう事実は無い。
 イントロから、豊かに、伸びやかに響くスライド・ギターが最高だ。Aメロと、ブリッジがあるだけで、サビが無いような、ちょっと不思議な構造だが、切々としていて、すごく素敵。

 ライブでは、どんな「ジョージ・スライド」を聴かせてくれるのかと思って見たら、発表当時、スライドは省略していた。



 後年、サポート・メンバーなども加えてからは、スライド・ギターもちゃんと入った。やはりこちらの方が良い。



 私はジョージのスライド・ギターが念頭にあったので、すっかりストラトキャスターか何かを、肩から下ろして弾くもんだと思い込んでいたのだが、実際はラップ・スティール・ギターを用いていた。
 よく考えてみれば、当たり前か。ジョージのスタイルで、スライドをやるのは、かなり難しい。そう思うと、やっぱりジョージって凄かったんだなぁと思う。

ヴァイオリン職人シリーズ(ポール・アダム)2021/01/11 20:28

 UKのミステリー作家,ポール・アダムの、いわゆる「ヴァイオリン職人シリーズ」は、日本語訳が出ているだけではなく、第三作にいたっては、日本のファンのリクエストに応える形で書かれたという。
 いわゆる「特別な職業の探偵」ものである。探偵役はプロの探偵や警察ではなく、他の分野の専門家で、その知識を生かして事件を解決するというジャンルだ。
 このシリーズの探偵役は、イタリアはクレモナ(16世紀以降、ヴァイオリン類を主とする楽器生産で有名)郊外に住む、ヴァイオリン職人のジャンニがつとめている。彼の周囲で起きる、ヴァイオリンを巡る殺人事件に、友人であり、刑事であるアントニオと共に挑む。

ヴァイオリン職人の探求と推理 The Rainaldi Quartet
ジャンニの友人で同僚だったライナルディが殺され、彼の死と伝説のストラディヴァリの名器をめぐる謎を追う。

ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密 Paganini's Ghost
パガニーニの名器,イル・カノーネを修理したジャンニ。翌日、美術品ディーラーが殺され、そこにはパガニーニをめぐる宝物と歴史の謎が潜んでいた。

ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器 The Hardanger Riddle
ジャンニの弟子だったノルウェー人が殺害され、彼が持っていた、ノルウェーの伝統的なフィドル,ハルダンゲル・フィドルが消える。謎を追ってジャン二はアントニオと共にノルウェーに向かう。

 ミステリーとしての出来は…うーん、イマイチかな。おお、凄い!と思わせるような驚きもないし、ああ、そうか!と思わせる「やられた感も」もない。
 むしろ、ミステリーの体裁を取った、ヴァイオリン蘊蓄を楽しむ作品と言うべきだろう。あとは、各地の観光案内も兼ねている。
 このシリーズの良いところと言えば、刑事アントニオ(私の中では、ビジュアルが完全にアンディ・ガルシア)と、ジャンニも関係だった。友人であり、親子のような二人は、信頼感があって、心温まる。ミステリー作品において、警察が探偵を邪魔者扱いする下りは、不要だと思っているので、その点は満足だった。

 第一作では、ストラディヴァリや、グァルネリのような、いわゆる「名器」を巡る、お金の絡んだ、やや馬鹿げた熱狂がよく分かる。
 私はクラシックにおいて、ある程度の品質の楽器の使用は重要だと思っている。 しかし、さすがに億円単位の価格が、真の楽器の価値だとは思っていない。「名器」は楽器としてというより、その希少さに価値のある、骨董品になってしまっている。ストラディヴァリとグァルネリを、異常に有り難がる風潮には、同調できない。

 第二作は、パガニーニをはじめとする名演奏家たちと、歴史に関するあれこれのエピソードが絡む。
 パガニーニと言えば、まずは「24のカプリース」だろう。ここは、ヤッシャ・ハイフェッツの演奏で。



 第三作は、「名器」のみならず、ノルウェーのハルダンゲル・フィドル(ハーディングフェーレ)が登場する。これが中々興味深かった。
 ハルダンゲル・フィドルは、華麗な装飾が施され、通常の四弦のほかに、五本の共鳴弦が張られていることが特徴だ。こういう、様々な楽器を紹介してもらえるのはありがたい。
 すごく魅力的で、自分がヴァイオリニストだったら、きっと手を出しているだろう。日本にも愛好家がいるそうだ。確かに、日本人は好きそうだ。

Nils Koppruch2021/01/15 21:09

 けっこう、語学番組が好きだ。
 世の中のあれやこれや、辛いこと、難しいことはさておき、言語学習のために色々な趣向を凝らされるのを、ぼんやり見たり、聴いたりしていると、憂き世のことを忘れることが出来る。
 ドイツのミュージシャン,Nils Koppruch の曲、"Kirschen (wenn der Sommer kommt)" ―― さくらんぼ(夏が来れば)―― は、たしかラジオのドイツ語講座番組で、使われていたのだと思う。とても良い曲だ。

 これぞまさに、フォーク・ロック。軽やかで、素朴なアコースティック・ギターの重なりに、スライドギターの取り合わせ。絶妙にウィルベリーズっぽい。好きに決まっている。
 ビデオにもストーリーがあって、心が満たされる感じだ。
 まぁ、あんな道具をむき出しで電車に乗ろう物なら、すぐに取り上げられそうだが。



 彼の名前は、日本語では「ニルス・コプラッハ」とでも書けば良いのだろうか。1965年ハンブルグ生まれ。
 バンド活動や、イラストレーターとしても活躍していた。残念ながら、2012年に46歳で亡くなっている。

 もう一曲、"Die Aussicht" ―― ザ・バンドや、リンディスファーンっぽさが溢れていて、心地よく、穏やかで素晴らしい。

Confessions of a Vintage Guitar Dealer - The memoirs of Norman Harris2021/01/19 22:13

 「ビンテージ・ギターをビジネスにした男 ノーマン・ハリス自伝」を読んだ。
 ノーマン・ハリスは、1949年生まれのアメリカ人。ロック・ミュージシャンとしてキャリアをスタートしたが、同時にギターを中心とした中古楽器のディーラーを始めた。やがてディーラー業に専念し、LA に Norman's Rare Guitars を開いた。
 彼のショップは、音楽ファンの間では有名で、観光名所にもなっている。私のように、ビンテージ・ギターに疎い人間でも、その存在は知っている。

 自伝は、ミュージシャンを始めて、怪しい(と、いうか違法な)稼業に手を出すあたりから始まり、そのころから中古ギターの仲介 - と同時にコレクションを開始する。その評判が広まり、有名なミュージシャンも彼の顧客になっていく。
 数々の名器、名ミュージシャンとの出会いと、エピソードがつづられ、ロックの世界を彩ってゆく。なかなか面白かった。

 そもそも、「ビンテージ・ギター」にあまり興味のない私が、この本を読むことになったのは、ジョージのエピソードがあるからだ。
 まだ20代だったハリスは、ある日ジョージのギター探しのために、指名を受ける。ジョージなんて大物と仕事をするなんて、悪ふざけに付き合わされているのだ、偽物に違いないと思ったら、本物のジョージ登場。舞い上がるハリス!ざわつくご近所!
 ジョージが探していたのは、あの有名なギブソン・レス・ポール・スタンダード,チェリー・レッドの、通称「ルーシー」だ。エリック・クラプトンからのプレゼントで、ジョージはとても大切にしていたが、盗難に遭う。そのギターの所在が判明し、ジョージは買い戻そうとするが、その取引には、ルーシーと同等のレス・ポールが必要になる。そこでハリスの出番というわけだ。
 ジョージと楽しく過ごした思い出が残ると同時に、この出会いはトップ・ロックスターの間で、ハリスが信用できるディーラーであるという、評判を勝ち取った。その後、ロビー・ロバートソンや、ジョニ・ミッチェル、果てはボブ・ディランも彼の顧客となる。

 ディランのエピソードで面白かったのは、「リッチー・サンボラはいい奴だ」というエピソード。(ちなみに、私はサンボラの名前こそ聞いたことがあったが、どのバンドの人かは知らなかったので、今回初めて知った。)
 サンボラが、とびきりのギターを友人にプレゼントするにあたり、ディランのサインも添えるということを思いつく。ノーマンから買ったマーチン D-18 を携えてディランのサインをもらいに行くと、ディランが「これ欲しい」と言い出すではないか!― 断れなかったそうだ。

 当然、トム・ぺティ&ザ・ハートブレイカーズも登場する。トムさんとマイクが、ハリスの顧客であったことは有名だ。さらに、ロン・ブレアは、ハリスとバンド・メイトだったことすらある。謝辞にもTP&HBの名前が挙がっている。
 トムさんの話で面白かったのは、リッケンバッカーの12弦 ― しかも、リヴァプールのビートルズゆかりの店から、60年代に出たというのだから、ビートルズ・ファンなら欲しいに違いないという、とびきりの代物だった。トムさんは「垂涎状態」― さんざんハリスにいたぶられつつ、様々な条件をのんで、このリッケンバッカーはトムさんの物になった。
 ハリスによると、トムさんはこの楽器を、スーパーボウルの時に弾いていたそうだ。
 ハリス曰く「スーパースター所縁のギターでも、弾いてもらえる機会があるなら素晴らしい…彼のように威厳のあるアーチストが再び命を吹き込んでくれるのなら、なおさらのことだ。」


木材のこと2021/01/23 19:56

 ヴァイオリンの名器や、ヴィンテージ・ギターの本を読んで、いずれも古い ―― 要するに「中古の」の楽器の方が、新品よりも優れていると言うことについて、考えさせられた。

 ストラディヴァリ,グァルネリ,アマティのような17世紀頃に作られたヴァイオリンの名器たちは、とんでもない高額で取引され、「素晴らしい音がする」と言われている。
 私はこの何億円もする名器,イコール最高の音がすると信じることには、懐疑的ではある。しかし一方で、ある程度の音質を得るには、ある程度の木材が必要であるとは思う。一定の時間をかけて育ち、年輪の詰まった木材が、良い音を生み出すと言う点を、無視できないからだ。

 私は、先祖から受け継いだ小鼓を持っている。120年ものと言われている。その漆塗り,蒔絵仕上げの胴は、桜の木で出来ている。
 小鼓の良い音を響かせる桜の木は、ある程度の年数育った木でなければならないと教わった。今となっては、そのような桜の木が枯渇してしまい、古い小鼓のような品質の胴を、作ることが叶わないという。

 ノーマン・ハリスによるヴィンテージ・ギターに関する記述でも、木材の問題に言及していた。1950年代から60年代に作られたギターは良い木材を用いて、素晴らしい品質になったが、その後はギターメーカーが安く,大量生産をしたために、木材の質が落ちたのだという。木の選び方のみならず、木その物が、枯渇していたとも言えるだろう。
 同時に木材以外の部品や、作業の品質が悪くなり、結局、中古のヴィンテージ・ギターの方が、高い値段で取引されるに至るのだ。
 私は先生にそそのかされて、コリングスのウクレレを持っているが、先生曰く、その木材も、もはや入手困難で、その価格は、中古であっても、私が買ったときよりも高くなっているらしい。

 実は、ピアノに関しても同じ事を感じている。
 ヤマハ,カワイに代表される日本のピアノメーカーは、戦後から安価なピアノを大量生産した。大量生産とはいえ、その品質は意外と良かった。まだ良い木があったのだ。1980年代半ばまでのピアノは、どれもけっこう良い音がする。
 しかし、年号が平成になるころから、良い木材が使えなくなったらしく、あまり良い音がしない。私見だが、ピアノは昭和まで。中古のピアノが狙い目なのだ。幸運にも、私が普段弾くピアノは、良い木を使っている頃の物だ。

 良い木が枯渇してしまい、ヴァイオリンも、ギターも、ピアノも昔ほどの品質を期待できなくなってしまった ―― こう言ってしまうと悲しい話だが、そう悲観することもない。
 人類が今後、自然環境保全と利用に折り合いをつけて、地球とうまくやっていけるとしたら、何百年、何千年後かには、再び素晴らしい木材が手に入るようになり、ストラディヴァリや、アマティ、ストラトキャスター、レス・ポールを再現する事が出来る日が来るかも知れない。

Tom Odell2021/01/27 22:12

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ仲間であり、ボブ・ディラン仲間でもある C さんは、音楽をすすめるのが上手だ。C さんが「いいよ」と言った物は、大抵私も気に入る。
 トム・オデールは、そんな C さんおすすめのアーチストだ。
 詳細は知らない。1990年 UK はチェスター出身。ピアノを猛烈に弾きながら素晴らしい楽曲を歌い上げる。
 もしかしたら、顔が若い頃のセバスチャン・ベッテルに、少し似ているかも知れない。

 まずは、デビュー・アルバムにして、既に名作だった、[Long Way Down] から、"Grow Old with Me"



 エルトン・ジョンに近いかも知れないが、オデールの声には、ある種の「無理」がある。
 この「無理」なところが、絶妙にオデールの良さになっている。エルトン・ジョンや、ビリー・ジョエルは上手すぎるのだ。その点、オデールのちょっと心許なくて、危うい声質は、心に引っかかる感じをもたらし、喉の奥がやけるような切望感に満ちている。
 完璧ではないけれど、その不完全なところに美が、心が、宿っている。ロックという音楽の一つの要素を、彼はその独特な声で讃えている。

 セカンド・アルバム [Wrong Crows] ―― ジャケットはイマイチだが、これも良いアルバム。
 "Silhuette" は、古風なオーバー・プロデューシングにも負けることなく、オーケストレーションを上手く使った。それでも彼の声が埋没していない録音,ミキシングも凄く良い。



 最後は、最新アルバム [Jubilee Road] から、"If You Wanna Love Somebody" ―― 感動的なメロディ、簡素な歌詞、ハンドクラップ,コーラス、オルガンの使い方など、かなり完璧な一曲だ。

Phil Spector2021/01/31 20:47

 1月16日に、フィル・スペクターが死去したわけだが、記事を書き損ねていた。何せ彼の音楽は偉大ではあるが、私の好みとは、少し合わないのだ。
 そうしたら昨日、ピーター・バラカンさんの「ウィークエンドサンシャイン」で、フィル・スペクターの特集をしてくれた。これは、彼をお手軽に知る良い機会である。

 言うまでも無く、スペクターは、大量の楽器を鳴らして多重録音を駆使し、分厚い Wall of Sound 「サウンドの壁」を作りあげた、名プロデューサーである。数々のヒット曲を残し、後のミュージシャンたちにも多大な影響を与えた。
 「ウィークエンドサンシャイン」では、様々なスペクター・プロデュース楽曲が紹介された。中でも印象的だったのは、ザ・クリスタルズの "Then He Kissed Me" ―― キャッチーでノリが良い。演奏が始まると同時に、わぁっと盛り上がる感じは、よく分かる。名曲。



 1960年代前半を中心にスペクターは名作を残したが、ビートルズの [Let It Be] をアルバムとして仕上げた事に関しては、賛否両論。
 私個人としても、両論。ただ、"Let It Be" に関しては、スペクターがプロデュースしたアルバム・バージョンの方が好きだ。何せジョージのギターが前面に押し出されていて、格好良い。



 ビートルズ後、ジョンとジョージのソロ・ワークにスペクターが関わるところも、番組では言及される。ジョンが二曲紹介されてて、ジョージが一曲だけか ―― うーん。苦笑せざるを得ない。
 しかし、[All Things Must Pass] と、[Living in the Material World] での、スペクターの働きは微妙らしい。そもそもプロデューサーとして使い物にならなかったり、雲隠れしたり、ジョージも大変な思いをした。
 ジョージは亡くなる前、[ATMP] をリマスターして、過剰なエコーを取り除いた。スペクターに多くを学び、彼をプロデューサーに迎えた当時を、どんな風に回顧していたのだろうか。