Wildflowers & All the Rest / Finding Wildflowers2020/11/09 22:00

 これからトム・ペティを聴く人は、もちろん名作アルバム [Wildflowers] は必聴だ。そして、もしできれば、もっと楽しめる [Wildflowers & All the Rest] にしてほしい。
 そして、もし予算さえ許せば、CD5枚組のスーパー・デラックス・バージョンを手に入れて欲しいと思う。公式ショップからは、まだ購入可能だ。
 ほかでもない、5枚目の [Alternative Versions (Finding Wildflowers)] が凄く良かったからだ。




 できあがった [Wildflowers] は大人の落ち着きの漂う、「後期トム・ペティ」の始まりだが、この [Alternative Versions] には、「前期トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ」の元気ではっちゃけた雰囲気も残っているのだ。
 特に、スタンがドラムを担当している曲が良かった。
 "Cabin Down Below" では、リック・ルービン曰く「スタンの”バチャバチャ(slosh)”鳴るドラム」が堪能できる。私はスタンの飛び跳ねるようなドラムが好きで、ハートブレイカーズの、ちょっと青臭い活発さがあふれている。
 ドラムの活躍が顕著な "Honey Bee" も、スタンが叩いている。ベンモントにはそれが印象的だったようだ。公式レコーディングの重々しい雰囲気よりも、笑いがこみ上げてくるようなロックンロールになっている。

 スタンのほかにもう一つ印象的だったのが、"Wildflowers"。この未公開バージョンは、なんとリンゴがドラムを叩いている。
 冒頭で、「前のパート忘れちゃった…」みたいなことを言うリンゴ。トムさんがカウントに失敗すると、「リンゴ、カウントして」とお願いして、リンゴのカウントが始まる… うわぁ、これってロックンロール・ドリーム・ワールドだな!
 リンゴ独特のロックだけど心温まる、どこかイカしたドラムもさることながら、このバージョンの良さは、コーラスにもある。公式レコーディングにはハウイはクレジットされていないのだが、こちらの未公開バージョンには、ハーモニー・ヴォーカルのためだけに、ハウイが居るのだ。
 このちょっとしたハーモニーがすごく感動的だ。トムさんと、区別がつかないような声をしているハウイ。「ちょっと重ねてみて」ってお願いして、何気なくやったのが、このバージョンではないだろうか。
 リンゴのドラムといい、ハウイのハーモニーと言い、公式発表しないでおくには、もったいなさすぎる作品だった。

 こうして [Wildflowers & All the Rest] を聴いていると、いかに素晴らしい録音をそぎ落として、公式アルバムが作られたのかが分かる。「作れない」苦しみよりも、「削る」苦しみのほうが大きかったのではないだろうか。
 いま、こうして 新たにライアン(*)の力も借りて、隠れた名演奏、名曲が世に出たことは、本当に素晴らしいことだと思う。

 (*)Ryan Ulyate ... 私はこのブログで、人名は基本カタカナ表記にしているのだが、この難読名字には困っている。海外の ウェッブ辞書サイトに、音声があがっているものがいくつかあるが、それも色々で、カタカナにすると「ユリエイト」と聞こえるのもあれば、「ウルィェイト」、「ウリヤテ」などに聞こえるものもある。中には、耳がついていかないのか、「ユリエ」にしか聞こえない事も。日本のメディアで使われる「ユリエイト」という表記は、こういった辞書サイトの音声を根拠にしているのだろう。
 英語のサイトさえこの状況なので、カタカナ表記に関して、それほど神経質にならなくても良いと思う。しょせんは外国語を、無理に日本語文字へ転記しているだけのことだ。
 私は外資系の会社で働いているので、難読名は日常茶飯事(かく言う私も、日本有数の難読名字の持ち主である)。ファーストネームどころか、ごくごく短いニックネームも、普通に仕事で使う。大事なのは、名ではなく「人」そのものかも知れない。
 この場合、Ryan Ulyate とは、トム・ペティの大事な音源を、最高の音質で届けてくれる、素晴らしいエンジニア・共同プロデューサーであることは、間違いない。

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