Three songs from Wildflowers & All the Rest2020/11/01 19:42

 今回の [Wildflowers & All the Rest] では、すでに知られている曲の別バージョンや、初期バージョンが聴くことが出来るのと同時に、まったく初めて聴く曲も含まれていた。

 その一つが、"Girl on LSD" ――
 この曲の存在は知っていた。ライブのセットリストに載っていたりしていたのだのだが、私は聴く機会がなかった。
 私がそのタイトルから想像していたのは、ビートルズの "She Said She Said", "Tomorrow Never Knows" とか、TP&HBの "Walls (Circus)" のような複雑な作りで、カラフルなギターサウンドが重なって、シタールが鳴っちゃうような ―― そういう曲だった。
 しかし、実際の "Girl on LSD" は、「どカントリー」だった… うーん。これは…ちょっと違ったな…

 そういう意味では、最後に収録されていた "You Saw Me Comin'" が凄く良かった。
 スタンがドラムで、シンセサイザーも入り、ちょっと80年代風。アルバムに [Let Me Up] に入っていてもおかしくない。
 ちょっとぼんやりしたメロディラインだけど、バンドが作り出す不可思議なサウンドに溶け込んで、格好良かった。

 最後に一曲あげるのは、初めて聴く曲ではない。[Live Anthology] にも収録されていた、"Drivin' Down to Georgia" 1992年頃からライブでは演奏されていた。
 ドラマーに言わせると、あのスティーヴ・フェローニの叩きっぷりは「神業」だそうだ。さもありなん。

あなたが選ぶベートーベン・ベスト102020/11/05 19:49

 ベートーヴェンの生誕250年記念で、NHK の「らららクラシック」が、ベートーヴェン楽曲の人気投票を行っている。
 この番組、クラシック紹介番組としてはやや中途半端で、詰めが甘い ―― のだが、まぁせっかくだから、参加する。
 サイトを見ると、30曲がまず選曲されていて、そこから3曲を投票するシステムになっているのだが ―― 入れたい曲が選曲されていなくても、自分で曲を指定して投票することもできる。期限は11月16日まで。

あなたが選ぶベートーベン・ベスト10



 私が選ぶ3曲のうち、2曲はすんなり決まった。
 まず、ピアノ協奏曲5番「皇帝」。このブログにも何度も動画を貼り付けている、堂々たる大曲。これは迷うことなく選択。
 もう一曲は、交響曲から選ぼうと考えていた。5番「運命」かな?…とも思ったのだが、仕事をしている間、ずっと交響曲を聴いていると、どうやら6番「田園」が一番好きであることに気付いた。軽やかで明るく、爽やかで、すがすがしい。特に第三楽章なんて ―― 鳴り響くホルンなんて特に!―― 最高じゃないか。

 問題は3曲目だった。ピアノ・ソナタから選ぼうというところは決めていたのだが、その先が困った。自分が弾けない難曲にするか、実際に弾いてお世話になった ―― 試験などで弾き倒した曲か。
 色々迷って結局、実際に弾いたし、試験でも使った曲、しかも広く一般に人気のある「悲愴」にした。
 そうなると、私の選んだ3曲は、すべてベスト10に入るのでは?

 ベスト10を予想してみる。
 まず交響曲、3番,5番,6番,7番,9番で、半分は占められるだろう。
 さらにピアノ協奏曲5番と、ヴァオリン協奏曲、「月光」「悲愴」までくると、あと1曲しかない。
 これは難しい。「エリーゼのために」が入る可能性が高いだろうか。

 ダークホースとして、私は歌曲 "Ich liebe Dich" を推したい。
 音楽高校時代、声楽の試験で、課題曲として数曲が提示されたとき、他がすべてイタリア語だったのに対して、この曲だけがドイツ語だった。高校生たちはちょっとざわつきながら、「格好良くない?!」とささやきあったものだ。

Wildflowers & All the Rest / Finding Wildflowers2020/11/09 22:00

 これからトム・ペティを聴く人は、もちろん名作アルバム [Wildflowers] は必聴だ。そして、もしできれば、もっと楽しめる [Wildflowers & All the Rest] にしてほしい。
 そして、もし予算さえ許せば、CD5枚組のスーパー・デラックス・バージョンを手に入れて欲しいと思う。公式ショップからは、まだ購入可能だ。
 ほかでもない、5枚目の [Alternative Versions (Finding Wildflowers)] が凄く良かったからだ。




 できあがった [Wildflowers] は大人の落ち着きの漂う、「後期トム・ペティ」の始まりだが、この [Alternative Versions] には、「前期トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ」の元気ではっちゃけた雰囲気も残っているのだ。
 特に、スタンがドラムを担当している曲が良かった。
 "Cabin Down Below" では、リック・ルービン曰く「スタンの”バチャバチャ(slosh)”鳴るドラム」が堪能できる。私はスタンの飛び跳ねるようなドラムが好きで、ハートブレイカーズの、ちょっと青臭い活発さがあふれている。
 ドラムの活躍が顕著な "Honey Bee" も、スタンが叩いている。ベンモントにはそれが印象的だったようだ。公式レコーディングの重々しい雰囲気よりも、笑いがこみ上げてくるようなロックンロールになっている。

 スタンのほかにもう一つ印象的だったのが、"Wildflowers"。この未公開バージョンは、なんとリンゴがドラムを叩いている。
 冒頭で、「前のパート忘れちゃった…」みたいなことを言うリンゴ。トムさんがカウントに失敗すると、「リンゴ、カウントして」とお願いして、リンゴのカウントが始まる… うわぁ、これってロックンロール・ドリーム・ワールドだな!
 リンゴ独特のロックだけど心温まる、どこかイカしたドラムもさることながら、このバージョンの良さは、コーラスにもある。公式レコーディングにはハウイはクレジットされていないのだが、こちらの未公開バージョンには、ハーモニー・ヴォーカルのためだけに、ハウイが居るのだ。
 このちょっとしたハーモニーがすごく感動的だ。トムさんと、区別がつかないような声をしているハウイ。「ちょっと重ねてみて」ってお願いして、何気なくやったのが、このバージョンではないだろうか。
 リンゴのドラムといい、ハウイのハーモニーと言い、公式発表しないでおくには、もったいなさすぎる作品だった。

 こうして [Wildflowers & All the Rest] を聴いていると、いかに素晴らしい録音をそぎ落として、公式アルバムが作られたのかが分かる。「作れない」苦しみよりも、「削る」苦しみのほうが大きかったのではないだろうか。
 いま、こうして 新たにライアン(*)の力も借りて、隠れた名演奏、名曲が世に出たことは、本当に素晴らしいことだと思う。

 (*)Ryan Ulyate ... 私はこのブログで、人名は基本カタカナ表記にしているのだが、この難読名字には困っている。海外の ウェッブ辞書サイトに、音声があがっているものがいくつかあるが、それも色々で、カタカナにすると「ユリエイト」と聞こえるのもあれば、「ウルィェイト」、「ウリヤテ」などに聞こえるものもある。中には、耳がついていかないのか、「ユリエ」にしか聞こえない事も。日本のメディアで使われる「ユリエイト」という表記は、こういった辞書サイトの音声を根拠にしているのだろう。
 英語のサイトさえこの状況なので、カタカナ表記に関して、それほど神経質にならなくても良いと思う。しょせんは外国語を、無理に日本語文字へ転記しているだけのことだ。
 私は外資系の会社で働いているので、難読名は日常茶飯事(かく言う私も、日本有数の難読名字の持ち主である)。ファーストネームどころか、ごくごく短いニックネームも、普通に仕事で使う。大事なのは、名ではなく「人」そのものかも知れない。
 この場合、Ryan Ulyate とは、トム・ペティの大事な音源を、最高の音質で届けてくれる、素晴らしいエンジニア・共同プロデューサーであることは、間違いない。

You Wreck Me2020/11/13 20:51

 トム・ペティのソロ・アルバム [Wildflowers] の中で、一番好きな曲は?と問われると、[Wildflowers & All the Rest] の発表された今、多くの人は渋めの選曲をするのではないだろうか。私も、やれ "Crowling Back to You" とか、そのあたりを挙げそうだ。
 しかし、普通にロック脳に頭を戻すと、普通にそれまでのトム・ペティ,もしくはハートブレイカーズが好きな人だったら、普通にロックンロールで軽快な "You Wreck Me" を一番にするのが、自然のような気もする。

 "You Wreck Me" ... 思えば、私のトム・ペティ原風景にある曲だ。まだトム・ペティが何者なのかも、よく知らない頃。知ろうとして、MTVのランキング番組を録画しては、アメリカでヒットしまくっている彼のビデオを、最初に見た頃。
 ちょっと思い入れがあるので、今回の静止画バージョンではなく、オリジナルのビデオをはりつける。トムさんの前髪が消失していて残念だけど、大まかに言えば格好良い方のビデオだ。



 このビデオを見て、Radio City Music Hall の印象が強く、初めてニューヨークでその現物を見たときは、感激したものだ。
 すごく雰囲気が良い。ソロ・アルバムとは思えない、最高の「バンド感」。スティーヴのにこやかな表情が、完璧なドラムと共に溌剌としているし、マイクは俯いているくせに、さらっと凄いフレーズを弾く。
 これはTP&HBファンあるあるだと思うが、サビを一緒に歌うとき、無意識にハウイのハーモニー・ヴォーカルの方を歌ってしまう。

 この曲の話題になると、トムさんもマイクも、ベンモントも、口を揃えて言うのが、「まだ曲が仕上がる前のサビの歌詞は、you "rock" me で、まったくイケてなかった」という話。
 そもそも、この曲はマイクが作った曲で、トムさん曰く「ぼくは歌詞だけ」とのこと。その歌詞が上手くはまらず、しばらく "rock" で歌っていた。マイクが、「ちゃんとできた?」と尋ねると、トムさんは「まだ。でもなんか違うのは間違いない」と繰り返していた。
 そしてある日突然、 you "wreck" me だ!と、閃いたのだという。それから、録音はあっという間で、このアルバムのセッションの最後の方で録ったそうだ。

 以来、ビデオもできて、テレビでのショーでも演奏し、ライブでもおなじみの曲となった。ライブの最終盤に演奏され、会場全体が大盛り上がりになり、トムさんの微妙なダンスも堪能できた。  今年、大々的に行われたTP&HBの楽曲人気投票(ベスト100)では、8位に見事ランクイン。ものすごい名曲だと思う。

Irish Girl (Official Music Video)2020/11/19 19:30

 明日11月20日に迫った、ザ・ダーティ・ノブズのデビューアルバム [Wreckless Abandon]。アメリカのアマゾンに注文したので、届くのに多少時間が掛かると思うが、とても待ち遠しい。
 [Wildflowers & All the Rest] の興奮も冷めらぬ中、嬉しい連続攻撃である。

 アルバムの発売を前に、"Irish Girl" のオフィシャル・ミュージック・ビデオが発表された。



 歌詞をコラージュした可愛いビデオ。アイルランドの女性というと、赤毛のイメージがあるのだろうか。そして、マイク先生の有名な黄色ジャケットも登場。
 この曲の雰囲気は、すごく懐かしい感じで、TP&HBの若い頃のアルバム ―― 例えば、[Damn the Torpedoes] に収録されていても、まったく違和感がない。マイクがいかに、揺るがない音楽観を持っているのか、よく分かる。

 この曲の原曲は、マイクの愛用ギター紹介動画を作ったときの、エンディング・テーマだった。この、歌詞こそないが、スライドギターの歌いっぷりが素敵なバージョンも良かった。
 当時から、トムさんに曲をつけてほしいと思っていた。いま、マイクが歌をつけたわけだが、ほとんどトムさんその人が歌っているようで、不思議ながらも、しっくりきている。

Wreckless Abandon がやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!2020/11/23 19:18

 マイク・キャンベル率いる、ザ・ダーティ・ノブズのデビューアルバム,[Wreckless Abandon] が届いた。
 この新譜の新鮮さを実感するために、ノブズのライブ映像や、一部ミュージック・ビデオを見ないようにもしてきたのだ。嬉しいなぁ、新譜、新譜!

 一番良かったのは、やはりアルバムのタイトル曲である、"Wreckless Abandon" ―― サイケでカラフルなイントロから、ドカーン!とギターが一発鳴り響いて、ロックンロールをぶちかます感じが最高。
 本当にビートルズと、ストーンズと、バーズが大好きで、ハートブレイカーズのギタリストの音楽だなぁと実感できる。こういうロックンロールが作られる限りは、いいよね ―― そう思える。



 "I Still Love You" は、ゼッペリンっぽさもあって面白い。それでもって、TP&HBの [Mojo] も彷彿とさせる。
 "Irish Girl" は色々な人にカバーされても良い、美しい曲だ。
 そういう意味では、"Anna Lee" もしっとりしていて、素敵だ。韻を踏んだ歌詞も優しくてうっとりする。ギターソロの真珠のような滑らかで、つややかな歌いっぷりも素晴らしい。



 ロックなリフが格好良い "Loaded Gun" もイケている。こんな格好良いロックンロール … 言いたくはないが、どうしてトムさんが生きているときにトムさんに歌ってもらえなかったかなぁ…
 言っても仕方がない ―― 何にせよザ・ダーティ・ノブズのデビュー・アルバムはロックの格好良さ、ハードさ、優しさ、美しさが籠もっていて、最高。買いましょう。

雅楽ライブ配信公演2020/11/27 23:46

 伶楽舎が、11月17日に、ライブ配信公演を行った。音楽ホールから生で YouTube に動画を配信した、この演奏会。ライブで見られなくても、五日後までは視聴することが出来た。
 私はライブ当日、都合が悪くて、オンタイムで見られなかったので、後追いで試聴しようとしたのだが ―― 
 残念ならがら、10分で演奏の鑑賞を止めてしまったため、多くの感想は述べられない。

 演奏が始まる前、プログラムの内容を画面に出してくれたのは親切で良かったが、バックに流れるピアノのやすっぽいムード音楽が良くなかった。雅楽の演奏会に臨む雰囲気が削がれるので、ほかのものにしてほしかった。
 しかし、問題はこれではなかった。

 ホールからの中継が始まるなり、なんと、ものすごい音量の空調音 ―― ゴバァーッ!という音が鳴り響いたのだ。パソコンのスピーカーの音質は当てにしていなかったので、ヘッドホンを使ったのだが、この轟音で、もう雅楽を聴く気が失せた。
 これまで意識してこなかったが、音楽と静寂は、不離のものなのだ。特に雅楽のように繊細な音色を特色としていると、なおさら静寂の重要性が高まる。とんでもない空調音を聞かされるのには、我慢が出来なまった。

 雅楽の演奏が始まってみると、空調音の向こうで笙が鳴るのだが、まったく響きの豊かさを感じることが出来ない。音の厚みが全くないのだ。
 さらに、篳篥と龍笛が入ると、高音域が振り切れてしまい、音が割れる。まったく話にならなかった。

 そのようなわけで、好きな音楽で苛立たしい思いをするのは、まっぴらごめんなので、10分で諦めた。

 曲目が、芝祐靖先生の作品群だったので、ものすごく残念。ただ、カメラワークは面白かった。まともな音で聴きたかった。
 雅楽は生で聴くに限ると、思った今回のネット配信だった。