84 Charing Cross Road2020/08/28 20:43

 なんとなく面白そうだと思った映画があったので、原作を先に英語で読んだ。
 ヘレーヌ・ハンフによる "84 Charing Cross Road"(1970)。

 ニューヨークに住むライターのへレーヌは、古書を集めるのが趣味。1949年10月、広告で見た、ロンドンのチャリング・クロス・ロードにある古書店に、欲しい本のリストを送ると、丁寧な返信が来る。
 送られてきた本にも、店の質にも満足したへレーヌは、頻繁に手紙を送り、書店員のフランクと親しい書簡や、贈り物のやりとりを始める。
 そうして20年が経とうとしていた ――

 1987年には、アンソニー・ホプキンスとアン・バンクロフトの主演で映画化された。原作を読んでから、映画も鑑賞。

 これと言ったドラマがあるわけではないが、大西洋を隔てて、古書を愛する者同士が意気投合し ―― でも、顧客と業者という関係の礼儀をわきまえつつ ―― 心を通わせていく様子が心地良い。
 古書収集というと、お金のかかりそうな趣味だが、へレーヌは別に金持ちではないので、初版本のような高額のものを求めるのではない。文学と「本」という存在そのものを非常に愛し、慎ましやかに、年月をかけてコレクションを増やしていく様子が、共感を呼ぶ。

 私は本好きだが、文学にはあまり興味がない。だから、次々と出てくる英文学の多くは、知らない物だった。しかし、分からなくても「愛好家」がその話題で盛り上がる様子というのは、見ていて楽しくなる。
 ある分野の音楽が好きな人にも同じ事が言えるだろう。
 オタクなので、一カ所だけ、あっ、と思った箇所がある。1964年に、チョーサーの話題(「カンタベリー物語」これは私も持っている)になったときに、へレーヌが、「ジョフリー(・チョーサー)が、リチャード三世の宮廷生活を書いていてくれたなら」と、手紙に記すのだ。
 チョーサーは14世紀後半に活躍した人で、リチャード三世より百年前だ。ここは、リチャード三世ではなく、二世であるべきだったろう。映画でも、この箇所は「三世」のままになっていた。

 さて、へレーヌとフランクのやりとりは1960年代にも続くわけで、フランクは当時のロンドンの様子を手紙に書いている。

 「若い旅行者たちが、カーナビー・ストリート詣でにやってきます。」

 カーナビー・ストリートは、ロンドンの中心部リージェント・ストリートの東にある、商店の並ぶ通りで、1960年代には、ロック,モッズなど若者文化の発祥地だった。
 フランクはこうも述べている。

 「実を言えば、ビートルズも好きなのです。ファンたちが叫び声を上げさえしなければ。」

 これはよく分かる。私とて、当時に生きていたら、ビートルズ・ファンに辟易していただろう。

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