Never Google Your Symptoms2020/08/20 20:02

 最近日本で話題になった動画、"Never Google Your Symptoms" ―― これは、あるあるで面白い。
 作ったのは、スウェーデン人の本職のお医者さん Henrik Widegren。



 何が可笑しいって、歌詞内容も面白いけど、音楽として無駄に良く出来ているところだ。演奏は上手いし、曲も良いし、プロデューシングも絶妙。XTC だと言われても、疑わないかも知れない。

 念の入ったことに、アンプラグド・バージョンもある。スライドギターの上手さがムダ過ぎて大好き。
 ボーカルのお医者さん以外は、本職のミュージシャンなのだろう。



 こういう、「自分で病気を調べて、勝手に重病だと診断する」という話は、昔からよくあることらしい。

 ジェローム・K・ジェロームの「ボートの三人男 Three men in a boat」(1889)の冒頭にも、同じようなエピソードが出てくる。
 三人男はそれぞれ具合が悪いと言い、語り手のジェロームは、薬の広告を見るとすべての症状が当てはまっているように思う。
 ある日、大英博物館に出かけて、ちょっとした症状(hay fever 乾草熱,日本で言う、花粉症)を調べるのだが、アルファベット順にすべての病気 ―― 瘧,腎臓病,コレラ,ジフテリア,痛風,疱瘡 などなど ―― の症状が、自分にあてはまるという結論に至る。
 ただ、"housemaid's knee" を除いて。

 「この病気にだけかかっていないことにかなり不満だった。なんとなく馬鹿にされているような気がしたのだ」

 ジェロームは、「なんだって "housemaid's knee" だけは遠慮するのだろうか」と、憤慨するのである。
 ここで、丸谷才一による翻訳の問題になる。「ボートの三人男」の翻訳は名訳なのだが、いくつか気に入らないところがあって、この "housemaid's knee" もその一つだ。
 三十くらいの男性が、 "housemaid's knee" にだけは、ならないなんて、どうして!という所が面白いのであって、丸谷才一のように生真面目に「膝蓋粘液腫」などと訳してはいけない。ここは「メイドひざ」程度にしておくべきだった。
 (調べたら、2018年に新訳がでているそうだ。買おうかしら)

 自戒も込めて ―― Never Google Your Symptoms!