Steel Wheels2020/08/01 21:16

 ザ・ローリング・ストーンズが1989年に行った [Steel Wheels Tour] のライブ映像が、9月の末に発売されることになった。

ローリング・ストーンズ、アクセル・ローズらと共演した1989年公演のライヴ作品が発売決定

 デビューから25年、「格好良い大人のロックバンド」としてのストーンズの、始まりとも言えるだろう。




 記憶をたどると、私が最初にローリング・ストーンズというバンドの存在を認識したのが、この [Steel Wheels] だったと思う。それまで、洋楽といえばもっぱらビートルズで、ストーンズを認識したのは意外と後になってからだ。
 初来日はニュースで見たような気がした。
 それから、ポカリスエットのCMに "Rock and Hard Place" が使われていたことを、おぼろげに覚えている。

 ストーンズの歴史から見れば、1980年中盤に、ミックとキースの仲違いが、バンドの存続そのものに影響した時期を経ており、それぞれにソロ活動を行うなどの動きもあった。
 いま思うと、別に珍しくもない二人のケンカは、当時かなり深刻な状況だったようだ。
 その影響もあって、結局二人がいつもの通り仲直りをして、またストーンズのレコーディングをし、ツアーをぶっ放した時は、ファンは嬉しかっただろうと思う。

 あれからまた30年ほど経ち、ストーンズの新たなレコーディングの噂なども聞こえてくる。まだまだ楽しませて欲しい。

 

Matchbox Twenty2020/08/06 23:10

 トム・ペティのことを凄く、凄く尊敬していて、彼を理想としたソングライターが中心となった、イカしたロックバンドのいくつかが、けっこう好きだ。
 世代的には、2000年前後にヒットを飛ばした感じだろうか。シスター・ヘイゼル,ザ・ウォールフラワーズ,ファストボールなど。

 彼らと同じようなカテゴリーに入れているバンドの一つが、マッチボックス・トゥエンティ(MB20)だ。奇しくも、TP&HBと同じく、フロリダ州の出身。
 そもそも、なぜ MB20 を聞くようになったのかと言えば、多分、TP&HBファンの間で、評判が高かったのだと思う。誰かに勧められて、ファーストアルバムを聴いたら、ものすごく良かった。

 冒頭の "Real World" からすでに超名曲。



 このフロントマンが、ロブ・トーマスというらしい。イケメンとか書いてあるところもあるが、私の好みで言うと、ちょっと目が寄りすぎで、顎が長すぎ。なんか、ノエル・フィールディングに似ている。

 セカンド・アルバムからは、美しいバラードの "Last Beautiful Girl"。優れたソングライターである、トーマスの才能が遺憾なく発揮されている。緊張と弛緩を繰り返す、サビの歌い回しが上手い。



 3枚目からは、ゴスペルのアレンジが効果的な、"Downfall"
 格好良いロックの体を保ったまま、ちょっとオーバープロデューシング気味なブラスや、ゴスペルも上手く取り入れるところが良い。



 4枚目からは、疾走感たっぷりで、爽やかな "Waiting on a Train" 「決して来ない列車を待っている」という歌詞に、"Come on, come on" というキャッチーさが微妙にダサいようで、また格好良い。




 ここまで絶賛しておいて、私はなにかおかしいと思った。
 あれ?このロブ・トーマスって、ソロ活動をしていなかったっけ?
 それでやっと気付いた。なぜ MB20 がTP&HBファンの間で話題だったのかというと、彼のソロ・アルバムにマイク・キャンベル先生が参加していたのだ!
 そうだ、そうだ…そのソロ・アルバムのジャケットというか、トーマスの容姿がイケてなくて、女子仲間のあいだで、不評だったのだ… 音楽も、MB20 と比較して、ちょっとがっかりだったような気が…そのアルバムを持っているはずでは…?

 ここまで思い出して、私はCDを探したのだが、どうしても見つからない。ダサいジャケットには見覚えはあるのに…おかしい、CDもなければ、iPodにも入っていない。
 そんな訳で、結局彼のソロアルバムをすべて、注文してしまった。いま、到着を待っているところだ。さて、その評価やいかに?

椿姫を見ませんか2020/08/12 19:12

 豊島園が閉園するのだという。テーマパークの類にまったく興味のない私が、行ったことのある、数少ない遊園地のひとつだ。
 豊島園が重要なキーになっている、ミステリー小説がある。森雅裕の「椿姫を見ませんか」 ― 初版が1986年だというのだから、昭和のミステリー小説である。

 小説の舞台は新芸術学園。架空の私学,美術・音楽の二学部のある芸術大学という設定だが、要するに東京藝術大学が舞台だと言っていい。作者が芸大の美術学部出身なのだ。母校をモデルとして、芸術大学とオペラ公演、絵画、寮生活などを生き生きと描いている。
 音大のオペラ公演「椿姫」(ヴェルディ作曲)の練習中、主人公,ヴィオレッタ役のソプラノ女子学生が毒殺される。その死は、二十三年前のマネの贋作事件を発端にしているのではないかと、日本画科の学生,守泉音彦は調査を開始。一方、その親友(悪友)で、ソプラノ学生歌手である鮎村尋深(ひろみ)は、死んだ学生の代役として、ヴィオレッタを務めることになる。
 事件は新芸術大学、財界、画壇、音楽界を巻き込みつつ謎を深め、いよいよオペラ公演の本番を迎える ― 

 久しぶりに読んでみたら、二時間ドラマ顔負けの設定なので、ちょっと可笑しかった。
 いろいろな人が都合よく血縁だったり、絶縁だったり、自殺したり、交通事故にあったり、音楽や絵の才能に恵まれたりしている。

 この作品の一番の魅力は、主役二人のシニカルで気障なセリフの、オンパレードだろうか。登場人物自ら、「気障なことは言いたくない」と語るが、実際は最初から最後まで、「気障」でぶっ通しており、それがかえって格好良い。
 ミステリーの題材としては、クラシック中のクラシックと言える「椿姫」と、印象派の巨匠マネ,そして日本画の世界が描かれており、エンターテインメントとして最上級。音楽、美術、ミステリー、いずれかが好きな人には、おすすめの作品だ。

 私はこの本を、高校生の頃に読んだ。物心ついたころから音大志望だった私は、この本を読んでさらに音大への憧れを強め、絶対に進学しようとこころに決めたものだ。
 森雅裕の描く(新)芸大は、彼が現役時代をもとにしているので、ちょっと隔世の感もあるが、「美大あるある」、「音大あるある」に満ちていて、すごく楽しい。
 「新芸には校歌なんてないぜ」というセリフが可笑しかった。わが母校にも校歌がなかった。
 声楽科を「うたか」というのも、よくあることだし、のど飴を常用するのもそう。これは声楽科に限ったことではなく、「スイス製の」のど飴といえば、ああ、あれだとピンとくる。

 違和感がある点もいくつか。
 まず、高校生の頃に声楽科だった人が、学費免除の美術部に進めてしまうなんて、現実味があまりない。
 交流授業と称して音楽部の学生が、美術部に「週2回出張してくる」というのは、多すぎるのでは?それを四年生が受講するというのも、ちょっと不自然。もっと早い学年で消化するだろう。
 それから、オペラの授業は「いつもは日本語だが、オペラ公演向けにイタリア語で歌っている」というのも、どうだろう。私の記憶だと、声楽科は通常の授業でも、当たり前に原語で歌っていた。おかげで、イタリア語の授業では、陽気な歌科の連中が歌いまくって終始していた。
 音楽大学のオペラ公演で、「椿姫」という演目の選択もどうかな … モーツァルトのように、見せ場の多い登場人物が、もっと多数存在する演目の方が無難だし、そもそもオペラ公演となると、学部よりも大学院ではないだろうか。
 それから、尋深が合同練習を欠席しがちなのも現実的ではないと思った。実際の音大だったら、一回でも欠席しただけで役がなくなる。

 作者は、森雅裕。(2016年10月5日)「モーツァルトは子守唄を歌わない」で江戸川乱歩賞を獲った作家。
 独特のシニカル、かつユーモアたっぷりの文章で、一気に読める。新刊では手に入らないが、中古では入手可能。おすすめの一冊だ。
 ここには、「椿姫 La traviata」から、レネー・フレミングの "Sempre libera" をはりつけておく。「乾杯の歌」とともに、「椿姫」のなかでももっとも有名な曲だろう。

I Want to Hold Your Hand2020/08/16 21:10

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは、そのファンの割には、意外とビートルズのカバーをしていない。オリジナルの強さを良く認識していて、大事な宝を、変に自分たちのサウンドにしたくなかったのかも知れない。
 そんな中で珍しいビートルズのカバーは、1997年1月31日に演奏された。伝説となったフィルモアでのライブで、ゲストのロジャー・マッグインとの共演。"I Want to Hold Your Hand" である。
 面白いことに、イントロが "Eight Miles High" っぽく聞こえる。
 観客も一体になっての、豪華なカラオケ大会のようになっている。



 このハートブレイカーズのバージョンを踏まえて、オリジナルを聞いてみる。
 ジョンとジョージが二人ともギブスンのアコギを持っているのが変だが、ここはレコーディング・バージョンを聞きたいので、これを選択した。
 ジョンは、胸の高さにギターを構えているのがダサいが、斜めからの顔のショットが凄く格好良い。



 この曲の魅力は、相性抜群のジョンとポールのコーラスに、半音進行を駆使したジョージのギターが絶妙にマッチしているところと、その軽やかなリズム感だろうか。
 こういう凄まじいできあがりの曲が、アルバムには収録されていなかった。当時のシングルの威力を思い知らされる。
 ちなみに、この曲はボブ・ディランのお気に入りだった。"I can't hide" を、"I can't high" だと思い込んでいたらしい。

Never Google Your Symptoms2020/08/20 20:02

 最近日本で話題になった動画、"Never Google Your Symptoms" ―― これは、あるあるで面白い。
 作ったのは、スウェーデン人の本職のお医者さん Henrik Widegren。



 何が可笑しいって、歌詞内容も面白いけど、音楽として無駄に良く出来ているところだ。演奏は上手いし、曲も良いし、プロデューシングも絶妙。XTC だと言われても、疑わないかも知れない。

 念の入ったことに、アンプラグド・バージョンもある。スライドギターの上手さがムダ過ぎて大好き。
 ボーカルのお医者さん以外は、本職のミュージシャンなのだろう。



 こういう、「自分で病気を調べて、勝手に重病だと診断する」という話は、昔からよくあることらしい。

 ジェローム・K・ジェロームの「ボートの三人男 Three men in a boat」(1889)の冒頭にも、同じようなエピソードが出てくる。
 三人男はそれぞれ具合が悪いと言い、語り手のジェロームは、薬の広告を見るとすべての症状が当てはまっているように思う。
 ある日、大英博物館に出かけて、ちょっとした症状(hay fever 乾草熱,日本で言う、花粉症)を調べるのだが、アルファベット順にすべての病気 ―― 瘧,腎臓病,コレラ,ジフテリア,痛風,疱瘡 などなど ―― の症状が、自分にあてはまるという結論に至る。
 ただ、"housemaid's knee" を除いて。

 「この病気にだけかかっていないことにかなり不満だった。なんとなく馬鹿にされているような気がしたのだ」

 ジェロームは、「なんだって "housemaid's knee" だけは遠慮するのだろうか」と、憤慨するのである。
 ここで、丸谷才一による翻訳の問題になる。「ボートの三人男」の翻訳は名訳なのだが、いくつか気に入らないところがあって、この "housemaid's knee" もその一つだ。
 三十くらいの男性が、 "housemaid's knee" にだけは、ならないなんて、どうして!という所が面白いのであって、丸谷才一のように生真面目に「膝蓋粘液腫」などと訳してはいけない。ここは「メイドひざ」程度にしておくべきだった。
 (調べたら、2018年に新訳がでているそうだ。買おうかしら)

 自戒も込めて ―― Never Google Your Symptoms!

Wildflowers vs Knobs2020/08/24 20:31

 いよいよ、トム・ペティの [Wildflowers & All the Rest] が10月16日に発売になる。
 おお、この Rolling Stone Magazine の表紙のオフショット、格好良い!この視線がラブリーよね…



 アナウンスメントと同時にフォーマット情報が流れたのだが、どれも ―― LP 9枚!どーん!ウルトラ・デラックス,どーん!7枚!どどーん!… と砲撃されまくって、のけぞってしまった。
 ええと…わたし、LPは要らないんですけど…
 小声でぶつぶつ言っていたら、ちゃんと CDのセットもあるし、お手軽な4枚組、2枚組もあるって!良かった!

 さて、私が注文したのは、CD 5枚組のスーパー・デラックス・エディション。ちょっと高いけど、お急ぎ便でポチッとな!



 [Wildflowers] のアーシーで穏やかで、優しい世界を心静かに瞑想しながら待ち…とか言っていたら、火を噴くダーティ・ノブズ! 10月10日にニュー・アルバム見参!



 マ、マイク…!はっちゃけ過ぎて、かえって心配になってきた。この人、大丈夫だろうか。
 よりよって、[WF & AR] の六日前って…どういうこと?まぁ、ノブズは遅れての発売とはいえ…ちょと笑える展開になってきた。
 10月が楽しみだ。待ち遠しい。

84 Charing Cross Road2020/08/28 20:43

 なんとなく面白そうだと思った映画があったので、原作を先に英語で読んだ。
 ヘレーヌ・ハンフによる "84 Charing Cross Road"(1970)。

 ニューヨークに住むライターのへレーヌは、古書を集めるのが趣味。1949年10月、広告で見た、ロンドンのチャリング・クロス・ロードにある古書店に、欲しい本のリストを送ると、丁寧な返信が来る。
 送られてきた本にも、店の質にも満足したへレーヌは、頻繁に手紙を送り、書店員のフランクと親しい書簡や、贈り物のやりとりを始める。
 そうして20年が経とうとしていた ――

 1987年には、アンソニー・ホプキンスとアン・バンクロフトの主演で映画化された。原作を読んでから、映画も鑑賞。

 これと言ったドラマがあるわけではないが、大西洋を隔てて、古書を愛する者同士が意気投合し ―― でも、顧客と業者という関係の礼儀をわきまえつつ ―― 心を通わせていく様子が心地良い。
 古書収集というと、お金のかかりそうな趣味だが、へレーヌは別に金持ちではないので、初版本のような高額のものを求めるのではない。文学と「本」という存在そのものを非常に愛し、慎ましやかに、年月をかけてコレクションを増やしていく様子が、共感を呼ぶ。

 私は本好きだが、文学にはあまり興味がない。だから、次々と出てくる英文学の多くは、知らない物だった。しかし、分からなくても「愛好家」がその話題で盛り上がる様子というのは、見ていて楽しくなる。
 ある分野の音楽が好きな人にも同じ事が言えるだろう。
 オタクなので、一カ所だけ、あっ、と思った箇所がある。1964年に、チョーサーの話題(「カンタベリー物語」これは私も持っている)になったときに、へレーヌが、「ジョフリー(・チョーサー)が、リチャード三世の宮廷生活を書いていてくれたなら」と、手紙に記すのだ。
 チョーサーは14世紀後半に活躍した人で、リチャード三世より百年前だ。ここは、リチャード三世ではなく、二世であるべきだったろう。映画でも、この箇所は「三世」のままになっていた。

 さて、へレーヌとフランクのやりとりは1960年代にも続くわけで、フランクは当時のロンドンの様子を手紙に書いている。

 「若い旅行者たちが、カーナビー・ストリート詣でにやってきます。」

 カーナビー・ストリートは、ロンドンの中心部リージェント・ストリートの東にある、商店の並ぶ通りで、1960年代には、ロック,モッズなど若者文化の発祥地だった。
 フランクはこうも述べている。

 「実を言えば、ビートルズも好きなのです。ファンたちが叫び声を上げさえしなければ。」

 これはよく分かる。私とて、当時に生きていたら、ビートルズ・ファンに辟易していただろう。