Come Together / Let It Be / Get Back2019/11/24 19:43

 フィギュアスケート・シーズンも中盤である。一通りトップ選手のプログラムが出そろってきた。
 今年の女子は、ほぼロシアのジャンプ少女三人の勝負だ。私はシェルバコワを推したい。男子はネイサン・チェンの独走状態だと思うが、それに四回転ルッツを持つロシア勢や、完成度で勝負組がどう食らいつくか ――といういったところだろうか。

 使用される曲はそれほど目を引くものは多くない。ある試合で、「シンドラーのリスト」が三人も被ったのは参った。
 そんな中で、ベトナム系カナダ人の、ナム・グエンのフリー・プログラムは、出色の出来だ。ビートルズ・メドレーなのだ。

 名字は Nguyen という綴りなので、ベトナム風に「グエン」だったり、「ニューエン」だったりと、表記は揺れているので、私はナム君と呼んでいる。
 彼は四回転こそ得点の低い方の二つしかないが、踊りの上手い人なのだ。フィギュアスケートにおいては、ダンスの才能が最初からあって、その上手さがジャンプなどの技術とうまく融合する人は、貴重だと言える。私が好きなのはそういうタイプ。もっとも、ジャンプしかできない、「ジャンプ馬鹿」もそれなりに面白くて好きだが。

 カナダ大会のFPの出来は素晴らしかった。最初のトリプル・アクセルからのコンビが抜けた以外は、ほぼ完璧だった。
 当人もそれが分かっていて、滑り終わったときに氷上に突っ伏して感激していたし、得点が出たときはペットボトルを放り投げている。会場の盛り上がりもすさまじい。
 実はこの時、前の滑走者が今シーズン最高点をたたき出しており、会場は異様な雰囲気だった。その後の最終滑走でこの演技は本当に素晴らしかったし、涙腺にくる。



 有名なビートルズの曲をメドレーにして4分強にするのは、難しい。
 まず "Come Together" をたっぷりきかせて緊張感を持たせ、"Let It Be" で美しさを表現。この "Let It Be" を下手に切らずに、比較的たっぷり聴かせたのが良かった。
 そして "Get Back" へのつなぎが上手い。"The End" の音も折り込んでいる。もしかしたら "Love" の音も使っているのかも知れない。
 "Get Back" は短いが、十分に盛り上がりきった会場の熱をさらに上げ、ナム君も観衆を煽る。こういう瞬間、フィギュアスケートの作品としての完成度が、ただのスポーツを芸術に仕上げるのだろう。

 シーズンは後半へ。それぞれの選手が、練習の成果を出して、素晴らしい演技をしてほしい。