She's My Baby2013/10/03 20:49

 2005年から始まった、サテライト・ラジオ曲の番組、[Buried Treasure] は、トム・ペティが自分のコレクションからセレクトした曲を流すという番組。ディラン様の[Theme Time Radio Hour] に似ていなくもないが、後者の方がテーマ性が強く、ディラン様の語りも多い。

 [Buried Treasure] は、TP&HBのファンクラブに入っていると、インターネット経由で聞くことが出来る。今はシーズン8の放送中。いつも、だいたいビートルズや、ストーンズ、バーズ関係、ザ・フー、キンクス、それからクラシカルなブルース、カントリーなども聞けるが、最新のShow8では、非常に珍しい選曲があった。
 トラベリング・ウィルベリーズの、"She's My Baby" !ウィルベリーズとは言え、トムさん自身の声がする曲が流れるのは本当にレアだ。時間さえあれば、[Buried Treasure] の曲目とアーチストをデータ化したいなどと思うが、トムさん自身の曲が流れた例はほかにあるのだろうか?



 改めて見ると、みんな若い!キラキラしている!ライトとは別に若さがキラめいている!トムさんなんてまだ四十そこそこで、この時代のルックスが一番好きだという女子ファンも多いという、奇跡の美トムさんである。
 ムスッとしているように見せかけて、実はかなりニヤニヤしているディラン様が幸せそうで泣きそう。そして、三人のだみ声をひとしきり聞かされた後に降ってくる、あのジョージのラブリー・ヴォイス!久しぶりに聞くと新鮮すぎて震えが来る。
 みんな着ている物もカラフルで可愛いし、楽しそうで、幸せそうで、胸が一杯になる。トムさんはラジオでかけたのは「リクエストだ」と言っていたが、トムさんにとってもリクエストしなくなる曲なのだろう。

 ちなみに、"She's My Baby" の次にトムさんが流したのは、トラフィックの "Who Knows What Tomorrow May Bring"。これまた、「大好きなグループ!」…とのこと。

(Your) Saving Grace2013/10/06 20:45

 ニッキー・ホプキンズの伝記を読んでいて、彼がスティーヴ・ミラー・バンドとも仕事をしていたことを知った。
 私が持っているスティーヴ・ミラー・バンドのアルバムは、[The Joker] や、[Fly Loke an Eagle], [Sailor] で、それ以前のものを持っていなかった。ちょうど良い機会なので、ニッキーが参加しているアルバム、[Your Saving Grace] を買ってみた。

 これと言って強烈なヒット曲があるわけではないのだが、聞いていて心地良いアルバム。タイトルになっているのが、最後の収録曲 "Your Saving Grace"。印象的なオルガンは、ニッキーが弾いている。



 "Saving Grace" という言葉は、私にとっては何と言ってもトム・ペティの楽曲。2006年彼のソロ作品 [Highway Companion] のシングル曲になっている。
 どうやら、「取り柄」という意味らしい。しかも、いろいろ良くないところはあるもの、「救いになる点」とのこと。
 ソロとは言っても、そこはトムさんのこと。ビデオはハートブレイカーズと一緒に作っている。



 クールで格好良い曲なのだが…いろいろ突っ込みたくなるのはトムさんのスタイル。
 まず、髪型が女子たちに不評。おばさんっぽいと言った人もいる。多分、動きのない感じが悪いんだろうな。特にサイドに流れがない。トムさんの金髪にはやはり流れが必要なのだ。
 ジャケットも私もあまり好きではない。丈が長すぎる。トムさんには丈の短いジャケットの方が似合うと思うのだが。素材も重そうで良くない。もっと軽やかじゃないと。足技は軽くきまっているので(クルクルクルクル…)、やはりトップスをもっと軽くコーディネートしてほしい。
 マイクも、髭をちゃんと染めなきゃだめだよ。
 だめだめなキャプテン二人に比べて、スコットのスマートで格好良いこと!

 やはりこの曲は、ライブ映像のほうが格好良い。これは、TP&HBのデビュー30周年ライブ。ベンモントの連打からのグリッサンドが格好良い。エンディングのギターブレイクをもう少しだけ長くしてくれても良かった。

写真・映画で見るグレン・グールド展2013/10/08 20:47

 カナダ大使館の前を通りかかったとき、大きな看板が目に入った。

写真・映画で見るグレン・グールド展



 グールドは20世紀最高のピアニストの一人であり、カナダ出身の世界的な「偉人」と見て間違いないだろう。カナダ大使館でその展覧会があっても不思議ではない。
 場所が場所だけに、開館時間は平日の昼間。勤め人にはきついが、偶然時間が取れたので、見に行くことにした。

 グールドのことを記事にするたびに、「私はグールドのファンではない」と力説している。ファンではないが、なんとなく聞きたくなるし、映画などがあると見たくなる。でも、ファンではない!…とやっていたら、「そういうの、ツンデレって言うんだよ」といわれた。
 …そうか。

 まず、小さなギャラリーに、グールドの写真が展示してある。
 圧倒的に若い頃の美男子グールドが多い。「ゴールドベルグ変奏曲」で衝撃的なデビューを果たした頃のグールドは、どの写真も美しく、格好良く、理想的な被写体ピアニストだったことだろう。
 その上、あの凄まじい演奏ときているのだから、魂を奪われるのも無理もない。

 ギャラリーには、「ゴールドベルグ変奏曲」が流れていたが、チラシには何年の録音の分かは書いていない。おそらく、1956年のデビュー作ではなく、晩年の再録音の方だろう。
 ギャラリーという独特の静謐さの中、美しいピアニストの写真と、その演奏というのは非常に雰囲気が良い。ときどき押し寄せるマダムの一団の嵐が過ぎ去れば、もとの静謐なバッハの世界。

 一方、映画というのは、ギャラリーの一方の壁に投影されているのが、それだった。
 作品は、[Glenn Gould's Tronto] 1979年 ― つまりグールドが亡くなる前年の作品で、実は映画ではなく、テレビ番組。どうやら、いくつかの「都市」を、ゆかりの有名人が案内するというシリーズがあったようで、グールドとトロントの回は、その一つだったらしい。
 テレビ番組なので映像は良くない。しかし、グールドがゾウとコミュニケーションを図ろうとする有名なシーンが登場する。
 今回の上映の場合、音はなし。字幕つきの映像だけが延々と流され、バックには例の「ゴールドベルグ変奏曲」という、いささかシュールなシチュエーションだった。だから、画面はトロントのディスコや、フォーク・フェスティバルや、ヒッピーのギター演奏だったりするのに、音楽はグールドのバッハ。
 さすがにこれはどうかと思う。ちゃんと時間を決めて、映像と音声を同時に上映した方が良かったのではないだろうか。50分の短い作品だけに、可能だったのではないかと思う。番組のなかでどうグールドの演奏が使われているのかも見たかったし、内容的にも面白かった。

 カナダ大使館からの眺めは美しく、ぼんやしとした午後。
 グールドとバッハに浸るのは悪くない過ごし方だ。

Time to Move On2013/10/11 22:09

 ディラン様ラジオこと、[Theme Time Radio Hour] 、今回のテーマは "Time"。時間を延長しての放送だった。アーマ・トーマスによる "Time is on my side" など、曲もよかったが、ディランの豆知識語りが楽しかった。
 特に、「ミュージシャンには、45分演奏したら15分の休憩をとる権利がある」という下り。「私のバンドのメンバーには黙っていて下さい(笑)」という笑いどころなのだが、これはディラン様自身にもあてはまることのはず。

 ピーター・バラカンさんの解説に続いて、ディラン自身の曲を流すのが通例なのだが、今回はなんと3曲も流してくれた。"Time" と言えば圧倒的に "The Times they are a-changin'" が有名だが、これは少し前に流したので避けた。流れたのは、"Tomorrow is long time", "Most the Time", "Pledging My Time" の3曲。
 私の好みとしては、先日発売になった "Another Self Portrait" からジョージとのデュエット,"Time Passes Slowly" だと嬉しかったのだが、またそのうち流す機会があるかも知れない。

 "Time"という言葉は、ありとあらゆる曲の詞やタイトルになっている。
 トム・ペティのソロ・アルバム [Wildflowers] には、2曲も "Time" という言葉の入った曲が収録されている。 "Time to Move on" と、"Wake up Time"。私は特に前者が好きだ。今は亡きマイケル・ケイマンのオーケストレーションとそのミックスも控えめで良い。



 ベンモントのピアノと、マイクのスライドギターが、ごくごく控えめなのに、美しくて、トムさんの声を包み込むよう。それでも軟弱さはなく、力強くて前向きな曲調。
 さらにこの曲の場合、歌詞の韻の踏み方が素晴らしい。

It's time to move on, time to get going
What lies ahead, I have no way of knowing
But under my feet, baby, grass is growing
It's time to move on, it's time to get going

Broken skyline, movin' through the airport
She's an honest defector
Conscientious objector
Now her own protector


 韻を踏むことについて、トムさん自身は [Conversations with Tom Petty]のパート2,[You're Gonna Get It! 1978] のところで、こう語っている。

韻を踏むためだからと言って、妥協はしたくなかった。場合によっては、韻を踏んでいないと、良い響きにならないこともあるけどね。とにかく、歌を歌うのにたくさんの韻を意識しなきゃならないなんてことになったら、それこそソングライターとしてはかなりの気苦労だ。つまるところ、言いたいことを歌うのに、さらに韻を踏むとなると、かなり難しいことになってしまう。

 このことに関して、ぼくはとても優秀な脚本家と話したことがある。脚本家っていうは、望むとおりのことを表現するのに、いくつもの段階を踏めるし、場面だって幾つも使える。
 一方ぼくはと言えば、与えられているのはせいぜい3分半。歌で物語を展開しようと思っても、3分半の展開しかない。そんなものだから、たった一つの言葉で、第二場に進んでしまうなんてことすらあるんだ(笑)。だからぼくにはそういう余裕はない。韻だのなんだのと、いろいろな条件を満たすのは、非常に困難だ。うまく韻を踏めれば嬉しいけど。
 とにかく、ぼくが何らかのことを表現したいと思ったら、韻を踏んでいようがいまいが、ぜんぜん気にしないし、言いたいことが表現できれば、それで良いのさ。
 もうちょっとで韻が踏めるなに、なんてときはイライラするな。他の人は、韻のことなんて気にしないんだろうけど。


 うまく韻を踏めれば嬉しいが、韻を優先といことはない…ということらしい。「韻を踏むかどうか気にしない他の人」はともかく、ディラン様などは韻を踏むのが大好きで、ディラン様ラジオでも "Theme Sheme Dream" といつも言っているし、そのバリエーションも様々。
 日本人である私は韻を踏んでいるかどうかは殆ど気にならないが、この "Time to Move on" に関しては、韻も込みで美しいと感じている。

Chris Clark2013/10/14 19:48

 モータウンのアルバムは、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ,ジャクソン5,スティーヴィー・ワンダー,スプリームス,マーヴィン・ゲイあたりから集まりつつある。
 モータウンの師匠(と、私が勝手に決めている)は、マーティン・フリーマン師。彼のモータウン・コンピレーション・アルバム、MADE TO MEASURE に取り上げられているアーチストを聞いていこうと思うのだが、中でも上記以外で気になっていたのは、クリス・クラークという女性アーチストだ。モータウンでは珍しい、白人シンガーである。

 モータウンから発売されたアルバムは2枚。今は、アルバム収録外の曲もたっぷり含めて、CD2枚組でほぼコンプリートになるらしい。



 マーティンによると、ベリー・ゴーティの伝記を読んで、彼女の存在を知ったとのこと。 "From Head to Toe" は、ロンドンのレコードショップで入手し、とてもお気に入りとのこと。私もこの曲はマーティンのコンピレーションの中でも気に入った曲のひとつだ。
 イントロのクールさが格好良い。曲を書いたスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの録音もあるが、クリス・クラークの方が良い。



 独特のハスキー・ヴォイスが格好良い。

 彼女のアルバムの中には、ほかのモータウン・アーチストの曲も多いし、ハリー・ニルソンや、ビートルズのカバーも含まれている。
 中でも、 "Get Back" は素晴らしく格好良い。



 ビートルズのカバーは、大抵「ビートルズの方が良いね」という感想しか出てこないが、これはイカしている。曲調のハードさが、クラークのドスの利いたハスキー・ヴォイスに非常に良くマッチしている。ある意味、ポールよりも合っているのかも知れない。
 いったんダウンする2分47秒から、もう一度飛び込むところの騒々しさが最高。ホーンセクションを大音響にしている潔さが爽快。

 マーティンも本を読むまでは知らなかったというのだから、私はマーティンに教えてもらわなければ、一生出会わなかったかも知れない。
 2枚組CDで彼女の曲がほぼ網羅されているのだから、これはお買い得。実はアルバムをまとめた1枚目しかまだ聞き込めておらず、これからは2枚目を楽しむことにする。

Marching through Georgia2013/10/17 20:41

 1864年7月1日、アトランタが陥落。西部戦線の北部連邦軍がどう振る舞うかについては、いくらか議論があった。
 南部連合の首都リッチモンドの南40kmピーターズバーグでは、南軍のリーが北軍グラントの包囲戦に耐えており、膠着状態が続いている。その状況で西部戦線の南軍テネシー軍はほぼ壊滅状態。アトランタさえ落としてしまえば、この方面の戦闘をおおかた終了させてしまうという選択もある。なにぶんにも、この戦争は内戦である。もともとの同胞を徹底的に叩きのめす必要はないという考え方である。
 一方、しぶとい南部の抵抗を封じるべきだという判断もあり、11月の大統領選挙に勝利して足下を固めたリンカーンも、その考えに傾いた。グラントにしても、それに反対する明快な理由はない。

 西部戦線の北軍を率いるウィリアム・テムカセ・シャーマンの作戦は、なかなか悠大なものだった。
 まず、62000の大軍をスローカムとハワードの二人を将とする二手に分け、アトランタを出発する。そして、二本の太い帯のようになってジョージア州を南東へ400km進み、大西洋に面した町サヴァンナを落とす。
 そして合流した軍勢で北上してサウス・カロライナ、ノース・カロライナを経由し、ヴァージニアのグラントと大合流しようと言うのである。
 この間、抵抗らしき抵抗はない。ではなぜ二手に分かれるかというと、南部深部の「生活」を破壊しながら進撃し、その産業基盤、ひいては南部の「力」そのものを削いでしまおうという意図があったのだ。
 鉄道を破壊し、農場を焼き払い、財産を没収する。戦争は兵士同士の戦場における戦闘だけではない、兵士の背後にある ― 非戦闘員の財産、生活の「すべて」が攻撃対象となる、 悲惨な近代的な戦争の始まりだった。

 シャーマンの海(海辺の町サヴァンナ)への進軍は、当然南部の人々に彼への、そして北軍への憎悪を植え付ける結果となった。そして第二次世界大戦時に、南部出身のアメリカ兵が「シャーマン型」戦車への搭乗を拒否したという有名な伝説が生まれることになる。
 映画「風と共に去りぬ」にも、スカーレット・オハラの家に兵士が侵入し、スカーレットがそれを射殺するシーンがあるが、これもまた「海への進軍」をあらわすシーンだ。

 シャーマンの海への進軍はアトランタを11月15日に出発。12月中旬にサヴァンナに迫った。サヴァンナには15000ほどの南軍がハーディのもと集結していたが、これは大した抵抗もせずにサヴァンナを明け渡した。
 サヴァンナ陥落は12月22日。シャーマンはリンカーン北部連邦大統領にこう打電した。

"I beg to present you as a Christmas gift the City of Savannah."
 「サヴァンナの町を、クリスマス・プレゼントとして差し上げます。」


 これに対し、リンカーンはこのように手紙で返事を返している。

 "Many, many thanks for your Christmas gift – the capture of Savannah. When you were leaving Atlanta for the Atlantic coast, I was anxious, if not fearful; but feeling that you were the better judge"
 「貴殿のクリスマス・ギフトを有り難く受け取りました。貴殿が大西洋に向かってアトランタを立ったとき、これは失敗するのではないかと心配しました。しかし、貴殿の判断は間違っていなかったと確信しています。」


 このシャーマンの海への進軍を歌った曲も作られた。"Marching Through Georgia" 
 
 “歌いながらアトランタを立ち、海へ向う そうしてジョージアを行くのさ―”

誕生日の記念撮影2013/10/20 20:04

 10月20日はトム・ペティの誕生日。1950年生まれ、63歳のお誕生日おめでとう!

 トムさんの誕生日と言えば、何度でも話題にするが、この写真。
 世界一重い、酔っ払い写真



 トムさんのロング・インタビュー [Conversations with Tom Petty] に掲載されたのが、この写真。ディラン様、トムさん、ベンモント、ロジャー・マッグイン、ジェフ・リン。下の人がディラン様のローディーさん。
 1987年10月、ディランとTP&HBが一緒にツアーをしたとき、ロンドンの楽屋にジョージが来てトムさんに、「これからの人生、きみ抜きには考えられないね!」という凄い落とし文句を発した時でもある。
 マイクはジョージが「両手で握手してくれた」と感激していた。
 ロンドンでの最終公演は10月17日。三日後がトムさんの誕生日と知っていたのか、ジョージがケーキを用意してくれたというのだ。ロジャーが持っているのは、シャンパン?瓶が透明だから違うか。
 ディラン様は…ビールのコップかな?ジェフはビールだね。ケーキとビールってどうなのよ。

 そしてこの写真、ディラン様のローディーさんと、マイクが交代で撮影したらしい。



 マイク、映るために一生懸命。大丈夫、映っているよ。
 トムさんの笑顔はだんぜんこちらの方が良い!マイクも居るし。ベンモントのピースマークも決まっている。が、しかし…ディラン様が半分だ。多分、この半分ディラン様のためにこちらは採用されなかったんだろうな。
 ディラン様が半分だろうが、4分の3だろうが、楽しい酔っ払いの飲み会写真でしかないのだが。この楽しい酔っ払いたちから、あのウィルベリーズが生まれ、そしてハートブレイカーズはいまだに活躍し続け、ディラン様はロンドンへ帰ってくる。

 26年前の楽しい写真は、トムさんの宝物。それと同時に、ロックファンにとっても大事な、大事な宝物。その瞬間が存在したことが、とても嬉しい。トムさんの誕生日が来るたびに、そんなことに思いを馳せる。

Full Moon Fever がやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!2013/10/24 20:46

 [Full Moon Fever] と言っても、アルバムそのものではない。楽譜である。
 五線でのメロディラインや、コード、ギター用のタブ譜などが収録された、いわゆる「ソング・ブック」と呼ばれるもの。

 そもそも、これを入手するのが大変だった。
 この手の楽譜は、アルバムが発売され、よく売れていた時期に作られるもので、それ以降だと新品はなかなか手に入らない。そのアーチストの代表曲を集めた「ベスト版」のようなものなら手に入るが、 [Full Moon Fever] のように特定のアルバムの全曲収録となると、今や古本でないと手に入らない。実際、私の所に来た本も1990年のもの。
 アメリカのアマゾンで注文した一つ目の古本屋は後になって、入手できませんとの連絡をよこした。二つ目の古本屋でやっと入手。
 かなり時間がかかりつつも、無事に届いた楽譜は、 "Handle with Care" つきの封筒に入っていた。



 傷みも汚れも、そこそこあるいわゆる古本。かび臭さも古本。
 前の持ち主が弾こうと挑戦したらしき曲は、"Yer So Bad"。小さな字で書き込みがあった。

 このA4サイズの楽譜、表紙も嬉しい。私は[Full Moon Fever] をCDでしか持っていないので、大きさが魅力的。
 あのフィルモア・ポスター風のデザインの四隅に、画鋲を刺した後がくっきり見える。LPの時は、こういう細かいこだわりがもっとよく見えたのだろうなと、その時代が少しだけ羨ましい。

 この楽譜、面白いのは1曲につき二つの楽譜がついていること。
 まず、メロディを五線にして、そこにコード名と歌詞だけを加えたもの。その次に、特徴的なリフや、ギターソロをタブ譜で解説しているのだ。
 ギターが弾ける人にはそれなりに分かり易いのだろうが、私にはピンとこない。
 私がこの楽譜を買ったのは、"Here Comes the Sun" 攻略で気を良くし、今度はTP&HBをウクレレで弾くぞと意気込んだからだ。私は五線譜とピアノに対する絶対音感しかないので、ヒントになる譜面がないと、弾けないのだ。

 狙い目は、"Alright for Now" ― だが、少々問題がある。一番低い音が、ウクレレの最低音よりさらに完全4度低いのだ。むむ。これは大幅な移調が必要なのだろうか。
 これをどう攻略するかは、先生に相談する。

 それにしても謎なのは、この楽譜の収録順だ。アルバムの収録順でもなければ、アルファベット順でもない。まず "I Won't Back Down", "Free Fallin'","Feel a Whole Lot Better" …これ、一体何の順番?
 しかも、目次はアルファベット順。大きな謎。

 さて、ウクレレ・ロッカー、どこまでTP&HBを攻略できるだろうか?

Ohta-san & Herb Ohta Jr.2013/10/27 20:01

 コットン・クラブに、オータサン&ハーブ・オータ Jr.のライブを見に行った。



 東京駅丸の内南口からすぐのコットン・クラブ。アクセスが非常に良い。
 私はコットン・クラブにもブルー・ノートにも行ったことがない。そのようなわけで、ライブ・レストランという形式が初めてで新鮮だった。もっとも、ややお高い食事は遠慮して先に安く腹ごしらえをして、コットン・クラブでは飲み物だけを注文したのだが。

 恥ずかしながら、私はウクレレの神様と称されるオータさんを知らなかった。びっくり仰天されそうだが、本当である。私がウクレレをギターの代替品として弾き、ハワイの音楽に全く興味がないせいだろう。私にとってのウクレレ弾きは、せいぜいジョージくらいなのだ。
 最近、私がウクレレを習い始めたことを知った友人が、「あの神様オータさんが来日!行こう!」と誘ってくれたおかげで、コットン・クラブ参上となった次第。ありがとう。

 まずは息子のハーブ・オータ Jr. が登場して、40分ほど演奏。ウクレレの大きさは…コンサートかな?親指にフィンガー・ピックをつけ、人差し指、中指を使ってオリジナルや、アレンジ曲を披露。
 そして、1934年生まれ生ける伝説オータさん登場。数日前がオータさんの誕生日だったとのことで、ジュニアのリードで "Happy Birthday to You" をみんなで歌い、いよいよオータさんのソロパートとなった。
 コットン・クラブのチラシには「絶妙なトークと卓越したウクレレ奏法」…と、なぜかトークが先に出てきてしまっていたが、今回は本人曰く「あまりジョークは言わないことにした」とのこと。それでも曲と曲の間で、独特のテンポ感を持ちつつ、トークを披露した。
 ウクレレは、多分ソプラノ。とても小さい。

 オータさんが世に広めたと言われている Low Gを張り、ほとんど親指だけで弾く様は凄かった。人差し指もストロークの時に使うが、ほぼ親指だけが4本の弦を駆け回る。私はピアノ弾きでもあるので、あれはかえって凄いと思った。
 曲はおもにオータさんが作った曲。そしてやはり印象深かったのは、"Here Comes the Sun" と "Something" のメドレー。友人も「よかったね」と言ってくれた。
 オータさんが一人で弾いていたのは30分程度だったか。「あまり弾くと息子に怒られる」とのこと。最後にジュニアが加わり、2曲弾いてライブは1時間15分ほどで終了した。

 つい先日まではやれトム・ペティをやろうとか、アイリッシュに挑戦しようとか考えていたが、やはり "Here Comes the Sun" を弾く以上、"Something" は弾かなければならない!…そのように考え直させられた。
 とりあえず、私はオータさん流ではなく、ジュニア流に、親指以外にも少なくともあと2本は使って弾けるようにこれから頑張ることにする。いや、本当の問題は右手ではなく、コードが押さえられない左手なのだが。Low G は意地でも張らないことにしている。
ともあれ、とても刺激になるコンサートだった。

My Favorite Melodies / Mari Yasui2013/10/30 20:02

  アイリッシュ・フルート、ティン・ホイッスル、リコーダー奏者であり、指導者としても大活躍している安井マリさんのアルバムが発売された。

 こちら[My Favorite Melodies / Mari Yasui] に美しいジャケットと、曲目が載っている。

 このアルバムでは、アイルランド音楽の中でも、タイトルの通り奏者お気に入りの美しくスロウな、「エアー Air」と呼ばれるジャンルの楽曲を選び、ティン・ホイッスルとアイリッシュ・フルートの演奏で丁寧に聞かせてくれる。
 いわゆる「私家版」というもので、Amazon や一般のCDショップには並んでいないが、それがもったいないくらいの名盤である。特に美しく穏やかなアイリッシュを聴きたい人、笛の音が好きな人、ティン・ホイッスルやアイリッシュ・フルートの学習者にとっては、必聴と言って良い。
 演奏は、安井マリさん自身のホイッスル,フルート,バス・リコーダー,ボタン・アコーディオンのシンプルな組み合わせ。そして静かなギターがバックを支えている。大袈裟なアレンジやオーバープロデュースを排除し、ハーモニーパートも、決してメロディの美しさを埋没させない。アイリッシュ・ミュージックのメロディの美しさを際立たせている。

 私の一番のお気に入りは、一曲目 "The Lark in the Clear Air"。オーバーダビングの都合上、テンポを律儀に刻む曲が殆どのなか、この曲の最初のメロディはホイッスルのソロで、テンポをゆらしながら、たっぷりと聞かせてくれる。
 私は変にもったいぶった、大袈裟な「溜め」が好きな方では無いが、この"The Lark in the Clear Air" は、引き締まった曲調のまま、絶妙な伸びやかさを表現している。長い音をたっぷりと聞かせつつ、上昇する音階はヒバリが舞い飛ぶように駆け上がる。こればかりは指や呼吸の技術ではなく、演奏者のセンスに任される。

 アイリッシュ・ミュージックのエアを語る上で欠かせない作曲家,ターロック・オカロラン(名前の表記は様々)の曲も取り上げている。
 "Carolan's Welcome" はアイリッシュ・フルートのみの演奏だが、これが非常に絶妙。メロディのところどころが特徴的に跳ね上がる。これは、オカロランがハーパー(ハープ奏者)だったため、ハープを弾く指を自分の体に引き寄せる動きに由来しているのではないかと思う。
 とにかく、この「跳ね上がり」を表現する上で、ホイッスルだとややエッジがきつすぎることがある。そこを、フルートの柔らかい音の切れ際で表情豊かに表現している。

 一方、ティン・ホイッスルはリコーダーと構造的には同じ非常に単純な楽器で、音も比較的倍音が少ない。しかし、指やタンギングを使った、しなやかで不思議と豊かな表現力をもっており、安井マリさんの演奏はその魅力を最大限に引き出している。

 アルバムの最後は、"Amazing Grace"。これがアイリッシュ・ミュージックと分類されるか否かは微妙なところだが(アイルランド、スコットランド、イングランド、そしてアメリカの要素が指摘されている)、そこは「お気に入りのメロディ」ということなのだろう。

 少し気になるかも知れないと自分で危惧していたのは、リバーブ(残響)の具合。私はピアノでも右ペダルをあまり踏まない方で、ボワーンとした音が嫌いなのだ。
 しかし、二曲目くらいから気にならなくなり、アルバムを何度も聞いている内に全く気にしなくなった。録音媒体にしたとき ― 特に倍音の少ない真っ直ぐな音色のホイッスルの場合は、この程度のリバーブはあった方が良いらしい。リバーブをどの程度にするかは、悩みどころだそうだ。

 不満があるとしたら、もっとたくさんの曲を聴きたいということ。これに味を占めて、さらなるアルバム制作を期待したい。
 そして、なんと言っても、ダンスの曲が聴きたい。これは私がロック好きから始まってアイリッシュ・ミュージックを聞いていることに起因している。
 ダンス・ミュージックでの奏者の卓越した技術、センスの良さ、格好良さを、ぜひアルバムの形でも楽しみたい。