Detroit Bankruptcy2013/07/21 21:17

 先週、アメリカから大きなニュースが飛び込んできた。  デトロイト市が負債180億ドルをかかえ、財政破綻したという。要するに破産。英語では "bankruptcy" と表現されている。

 19世紀末、自動車産業の始まりと共にデトロイトは繁栄の町へと突き進み、アメリカの自動車メーカービッグ3が本拠地とし、人口は最盛期で180万人。モータータウン,モータウンとしての繁栄を謳歌していた。
 1960年代から日本車などの攻勢もあり、衰退の一途をたどり、財政難に、治安の悪化など、苦しい状況は伝え聞いていたが、厳然たるそして、冷たい事実としての "bankruptcy" を突きつけられると、ぞっとする。
 今や人口は70万人。目抜き通りですら少し進めばゴーストタウンのようになり、治安は最悪と表現され、全米でもっとも危険な町とされている。

 デトロイトは、私にとってはもちろん、音楽の町だ。最近聞き始めたモータウン・ミュージック。この商業的にも大成功した音楽の一ジャンルは、デトロイトの発展をバックグラウンドとして誕生した。
 1950年代、隆盛を極める自動車工場で働くべく、多くの労働者達がデトロイトに集まり、そんな人々の中から ― とりわけ黒人たちの間から、あの素晴らしき音楽が生まれ、それを以てアメリカンドリームをかなえようとする野心がそれを表舞台 ― メディアの表層へ引き上げ、実際に大成功を収めたのだ。
 私は、60年代のあの野心満々で、自分たちの音楽を臆することなく叩き出し、弾けんばかりの活気にあふれたモータウンに惹かれている。マーサ&ヴァンデラスの "Dancing in the street" はその最たる物ではないだろうか。この曲は、"The tears of a clown" と並んで、モータウンの最高傑作だと思っている。



 わがモータウンの師(と勝手に思っている)マーティン・フリーマンが、モータウンの町を訪ねるBBCの番組、[Martin Freeman Goes to Motown] では、最初にデトロイトを訪れ、モータウンミュージックの伝説を追う。あのファンク・ブラザーズのメンバーのライブを見に行って、大いに盛り上がったり、レコーディングに関わった人々を訪ねたりしている。
 モータウンミュージック誕生の地、ヒックスヴィルUSAは、今はミュージアムになっている。マーティンは目を輝かせて楽しんでいる。モータウンファンなら誰でも行ってみたいだろうが、これが治安の悪い地域にあるらしい。(小柄で金髪で可愛い師匠、よくぞご無事で…)
 この番組が作られた2009年当時、マーサ・リーヴスは、デトロイト市議会議員を務めており、その事務所を訪ねるシーンもある。この動画では、6分25秒から。



 輝かしいモータウン・ミュージックの記念が壁を埋め尽くす様子は、当時の誇らしい活躍が窺われる。その一方で、マーティンも話題にしているが、1972年モータウンミュージックはLAに本拠地を移す。マーサはデトロイトに残り、モータウン・レーベルとは決別する。
 これもまた、デトロイト繁栄の、一つの終焉だった。その少しまえ、1967年には大規模な暴動が起こり、治安の悪化はすでに表面化していた。モータウン・ミュージックはそんなデトロイトを捨てたように見えるが、実際はモータウン・ミュージック自身も、黄金期の輝きを取り戻すことはなかったと思うのだ。
 今のところ、私が聞く限り素晴らしきモータウンは、せいぜい1970年代初頭くらいまでで、以降は1960年代には及ばない。これからもっとたくさん聞くことになるとは思うが、この印象が変わるという予感はしない。モータウン・ミュージックの成功はは、決してデトロイトとは切り離すことの出来ない ― 運命を共にする、そういう輝きだったのではないか。

 デトロイトはこの財政破綻を克復し、復活するのだろうか。時代は進み、時間は巻き戻せない。デトロイトのかつてのような繁栄と、モータウン・ミュージック黄金期の輝きは戻らないだろう。それでも、デトロイトは新たな一歩をこれから踏み出すのだと、信じたい。

 Give me one more chance,That's all I ask of you
 Just one more chance,I'll make it up to you

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