ストリート・リーガル2008/09/03 22:08


 [Street Legal]は、ボブ・ディラン1978年のスタジオ録音アルバムだ。

 ディランのアルバムとしては、かなりお気に入り。[Desire] と、[Slow train coming] の間に位置するため、音はかなりゴージャスで厚めなつくりであり、しかもいくらか宗教色もある。
 しかし、前後の二作に比べると、[Street Legal] は多少リラックスした雰囲気があるところが、好きだ。それでいて、相変わらずの洪水のような言葉と歌で、意味はわからなくても、聴いているうちにいつの間にか胸がいっぱいになってしまう。
 今日、このアルバムを聴きながら南北戦争の本を読んでいたのだが、大好きな[Is your love in vain?] の時に、ちょうどリッチモンド陥落,リーの降伏,リンカーン暗殺,戦争終結,荒廃した南部 - という下りに来て、半泣きになってしまった。
 ジャケットもさりげなくて好きだ。裏ジャケットは…チャンピオンベルト…?

 さて、[Street Legal]というと、必ず思い出す事件がある。

 3年ほど前だろうか。吉祥寺を歩いていると、ある中古レコード屋がセールをしていた。フラっと入った私は、ディランのLPコーナーに行き、一枚一枚を取り出し、良さそうなものを物色していた。
 [Street Legal]があったので、それを仔細に見ていると、背後から男性の声がした。
 「おーまえ、そんなん買うわけないだろう?!」
 そして、その声の主は私の後頭部とドーン!と、どついたのである。
 私はとっさに、トム・ペティ・ファン仲間諸兄の誰かに見つかったのだろうと思って、その男性の方に顔をあげた。
 驚いたことに、そこに居たのは見ず知らずのおじさんだった。私よりも驚いていたのは、そのおじさんの方だった。彼はすぐに、オタオタと謝った。「す、すいません!息子と間違えました!」
 すると、「息子は、こっち。」という声がする。そっちを見やると、明らかに小学校5,6年の男子児童が立っている。
 確かに、私はスティーヴィー・ニックスや、チャカ・カーンより小さい。しかし、間違いなく成人女性である。人違いをするにも、限度というものがある。しかも、どついてしまっている。

 お互いあまりの恥ずかしさに、謝るのも、それを受けるのもかなり短時間でやりすごした。私はすぐにLPに視線を戻し、親子は店から居なくなったようだった。私はしばらく、店内にとどまった。
 [Street Legal]を購入して外に出ると、路上に、さっきのおじさんが立っていた。例の男子児童も一緒だ。おじさんは、私に頭を下げ、「本当にすみませんでした。」と、もう一回謝った。私が出てくるのを待っていたのだ。
 どうやら、彼の隣りには奥さんが立っていたようだった。きっと、彼女も店内に居たのだろう。私は怖くて奥さんの顔は見られなかった。私はこのいたたまれない空気から早くのがれるべく、かなりいい加減に「気にしないでください」と言って、立ち去った。

 教訓。レコード屋で人の頭をどつく時は、相手の顔をよく確認しよう。