Shady Grove2015/08/07 22:11

  ずいぶん待たされたが、ようやくロジャー・マッグインのアルバム [Limited Album] がアメリカから届いた。
 まさにマッグイン・サウンドと言うべき音楽が一杯に詰まっている。何と言っても、"If I Needed Someone" だけでも買う価値がある。
 クレジットを見ると、ドラムにスタン・リンチの名前があるのが嬉しかった。

 あらかじめ収録されていることを知っていたのは "If I Needed Someone" と "May the Road Rise to Meet You" だけ。だから、 "Shady Grove" が聞こえたときは、心がざわめき立った。
 もちろん、私としてはマッドクラッチの録音でお馴染みだ。
 ご親切なことに、ロジャー・マッグインと、マッドクラッチの録音を並べた動画がある。



 これを聴くと ― トム・レドンには悪いが ― トムさんがヴォーカリストとして非常に魅力的であることを思い知らされる。

 "Shady Grove" というのは女性の名前だそうだ。17世紀、アメリカで流行したフォークソングで、ケルト音楽やブルーグラスでも演奏されるという。
 基本的に、エオリア旋法。これは現在のマイナー調の元となった調だが、第六音や第七音を半音上げない、素朴な古い旋律。ブルーグラスなどでは、メジャーにすることもあるらしいが、どうも脳天気すぎて、私とはセンスが合わない。やはり、微妙に暗くて悲しいような旋律が、この曲の魅力ではないだろうか。

 こちらは、チーフテンズと、トム・オブライエンの共演。フレーズの後ろを長く伸ばす、独特の演奏だ。そして、勢いもそのままにリール, "Longford Tinker" になだれ込み、ダンサーが格好良く踊る。さすがの貫禄だ。

Kennedy's Kitchen2015/03/17 21:47

 3月17日はセント・パトリック・デー。そのようなわけでアイリッシュを何か聴こうと思った。
 トラディショナル・アイリッシュ・ミュージックのオムニバス・アルバムである、[Victims of Irish Music] の内、ティン・ホイッスルの演奏でとりわけ上手いと思わせた演奏があったので、そのアーチストを改めてチェックした。
 アメリカはインディアナ州に拠点を置くアイリッシュ・バンド、ケネディーズ・キッチン Kennedy's Kitchen がそれだった。
 ジョン・ケネディが中心になって結成され、1998年から活動している。アルバムも何枚か出しているので、さっそくiTunes で 2006年の [A Pocket Full of Lint] を購入した。



 とにかくティン・ホイッスルのリアムが上手い。ほかの人も、もちろん上手いが、自分がホイッスラーなだけに、あの超絶吹奏には感動してしまった。
 特にCDだけを聴くと凄まじく速く、難しい演奏を何事もなく、鏡のように滑らかに吹いてみせる。あまりの滑らかさにややヒンヤリとした質感すらするが、私は上手さに対する崇拝があるので、この凄さは好きだ。
 難しいもの、速いものを一分も乱れずに、何でもなく演奏する格好良さに憧れる。難しい曲を、いかにも難しそうに、オーバーアクションに演奏する人がいるが、ああいうのはダサいと思う。もっとも、現実の私自身は喘ぎながら笛を吹き、悶絶しながらウクレレを、七転八倒しながらピアノを弾いているのだが。
 ちなみに、リアムはフルートを吹くときは普通の人とは逆に構える。左利きなのだろう。アイリッシュ・フルートならそれも可能。

 それにしてもケネディーズ・キッチンの速さは度を超している。ライブになるとどんどん速くなる。これなど、本気で心配したくなるような異次元の速度に突入してゆく。



 余りの速さに、大気圏はおろか地球の引力圏をも突き抜けそうな勢いだ。だれか、ギターを止めろ!たぶん、彼がリーダーのジョンだ!
 しかしそれについて行くメンバーがスゴイ。さすがにこの速度で演奏したいとは思わないが、尊敬する。

 もちろん、アルバムの最初から最後までぶっ飛ばしている訳ではない。スローな曲や、楽しい歌もある。
 歌の方はケルト色が薄く、アメリカでモダンな感じになった曲になっている。それが残念といえば残念か。
 歌からダンス・チューンに入る楽しい曲もある。



 楽器もできれば、歌もできるというのは羨ましい限り。
 アルバムは合計5作発表しているので、揃えてみたいと思う。

My Favorite Melodies Vol.22014/12/29 21:14

 アイリッシュ・フルート,ティン・ホイッスル,リコーダー奏者であり、指導者としての活躍している安井マリさんが、2枚目のアルバムを発表した。
 去年発表した[My Favorite Melodies] に続き、第二弾 [My Favorite Melodies Vol.2]。今回もアイリッシュ・フルートとティン・ホイッスルをメインに据えて、穏やかでスローな曲を揃えている。



 前作との違いは、まずバックがギターではなく、ハープであること。前作のギターより、存在感があり、ソロを奏でることもある。
 さらに大きな違いは、主に日本で親しまれてきた曲でアルバムが構成されていること。アイルランドの曲に限らず(むしろアイリッシュの方が少ない)、スコットランドやイングランド、アメリカで作られ、明治時代以降日本に入って日本語の歌詞がつけられ、愛唱されてきた曲を多く収録している。「春の日の花と輝く」や、「庭の千草」がその代表だろう。
 最近テレビでも、「埴生の宿」や「ザ・ウォーター・イズ・ワイド」などがよく流れているらしい。  さらに、純粋に日本の曲である「夏は来ぬ」や、「浜辺の歌」、「揺籃のうた」も収録されている。

 前作に続き、豊かで叙情性に満ち、しかし甘くなりすぎない絶妙な美しさの演奏にが揃っている。
 曲に関しては、はまる人は、はまる。日本人の愛唱歌という意味では、豪華で満足の行くラインナップ。
 ただし、私には完璧にマッチするというわけにはいかなかった。せっかく安井マリさんのフルートやホイッスルを堪能するなら、アイリッシュ,せいぜいスコットランド,ウェイルズ。ケルト系の曲の方が性に合っている。日本の曲は私にはピンとこない。

 超のつく有名曲が並ぶ中で、実は「庭の千草」という曲は、あまり馴染みがないことを白状しておく。まったく聴いたことがないわけではないが、ちゃんとは知らなかった。
 そして、「とねりこの木立」という曲は、全くの初めての曲だった。日本で有名なのだろうか。原題は "The Ash Grove" といい、Wikipedia によると、ウェイルズのトラディショナル・ソングで、さまざまな詞をつけられてきたとのこと。もっとも有名なのは、19世紀にイングランド人のジョン・オクセンフォードの詞だそうだ。
 知らない曲なので、どのバージョンをはれば良いかわからないが、素朴で美しくて、バックがそこらの教室みたいでよかったので、こちら。



 ウェイルズの曲とは言え、あまりケルトっぽい雰囲気はなく、半音の使い方がモダン・クラシックの香りを漂わしている。
 ともあれ、安井マリさんの今回のアルバムの中では、この曲が一番好き。

 アルバムは、銀座山野楽器の管楽器コーナーや、東京古楽器センターで入手可能。私と直接知り合いなら、私からも入手できるが。もっと沢山のところで、手軽に手に入ると良いのだが。
 今回の [Vol.2] のみの入手はお勧めしない。ぜひとも、[Vol.1] と一緒に聴くことを推奨する。

Hector the Hero / Laird of Drumblaire2014/08/11 21:51

 いつもお世話になっている、日本におけるトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ・ファンのコミュニティ,ハートブレイカーズ・ジャパン・パーティが、昨日新譜 [Hypnotic Eye] のリスニング・パーティを開催した。
 新旧とりどりの楽しい仲間との集いには出席するのが常だが、昨日はどうしても都合が悪く、二次会からの参加となった。

 その都合というのは、半年に一度のアイリッシュ・パブにおけるセッション。今回は、私のリクエストであり、ソロも吹く曲があったため、どうしても外せなかったのだ。

 今回の挑戦曲は、いつものようにアイリッシュ・トラッド・バンドの雄ザ・ボシー・バンドの曲。"Hector the Hero" と、"Laird of Drumblaire"。
 前半はスロー・テンポのエアーで、2分30秒くらいからダンスのセットになる。ダンスに入ってからリズムとテンポがガラリとかわるところが格好良い。



 前半の "Hector the Hero" のへクターとは、19世紀後半に活躍した実在の将軍ヘクター・マクドナルドのこと。アフリカやボーア戦争などで活躍したいわば「英雄」だったのだが、当時市民権を得ていなかった同性愛者であるとの評判が立った末に自殺した、いわば悲劇の主である。
 作曲者のジェイムズ・スコット・スキナーはフィドラーであり、マクドナルドの友人でもあったという。

 一方、後半のダンス "Laird of Drumblaire" は、「Drumblaireの地主」程度の意味だ。もともとはスコットランドのダンス、ストラスペイ Strathspey で、アイルランドのホーンパイプよりも、さらに長閑な雰囲気。8分の6拍子でお気楽に流れる。
 ボシー・バンドの演奏の優れているところは、この長閑なストラスペイをそのまま4分の4拍子の早いダンス・リールにしたところだ。4分4秒のところが、その境目だ。しかも、最後の繰り返しではストラスペイで聞かれた三連符をリールのテンポに当てはめている。
 あまりにも格好良いのでやってみたくなり、私が吹くティン・ホイッスル用にD-durにした。実のところ、この曲もフィドル向きで、指使いはホイッスル向きではなく、べらぼうに難しい。

 ともあれ、どうせ私の曲なので、一緒に演奏して下さるフィドラーさんたちには、「ゆっくりめで」とお願いしたのだが…
 実際には、この世のものとは思えない、凄まじい、吹っ飛びそうな、しまいには空でも飛びそうな超高速で演奏することになった。

 死ぬかと思った…

 しかも、雰囲気的に、最後の1回ではウルトラ超高速三連符をプレイしないわけにはいかない!という凄いことになって、曲が終わったときはもう大爆笑だった。絶対に、ボシー・バンドよりも早かった!
 録音していたのであとで聞いてみたのだが…まぁ、我ながらよく吹いていると思った。自分の演奏でそんな風にはあまり思わないものだが、今回はさすがによくついて行っていると思った。
 やはりケルティックのダンス・チューンは、格好良いテンポで格好良く演奏するからこそ、格好良いのだ。これに懲りず、また何か格好良さそうなものを見繕って吹くことにしよう。

Amazing Grace / Paddington2014/06/30 21:42

 2013年10月30日の記事で紹介した、安井マリさんのアルバム [My Favorite Melodies] から、"Amazing Grace" が、YouTubeに登場した。
 これはぜひ聞いて欲しい。実に素直で、すがすがしい、素晴らしい演奏だ。この曲の演奏には、いくらか大袈裟な味付けがされがちだが、特にティン・ホイッスルの真っ直ぐな音色が、曲そのものの良さを最大限に引き出している。



 "Amazing Grace" つながりの話だが ― ニコール・キッドマンと、キース・アーバン夫妻が、オーストラリアの病院を訪れた際、一緒に "Amazing Grace" を歌ったそうだ。

Listen to Keith Urban and Nicole Kidman Sing ‘Amazing Grace’

 既にYouTubeにいくつか動画があがっている。二人のデュエットというよりは、病院にいた大勢と一緒に合唱している。2番の歌詞になるとみんな分からないのか、どうやらキッドマンがおもに歌っているようだ。アーバンのコードが怪しいのはご愛敬。

 さて。さらにニコール・キッドマンと言えば。
 今年公開される新しい映画 [Paddington] に、ニコール・キッドマンが出演するそうだ。役柄は「ミリセント」とあるが、これは何者だろうか。
 いや、キッドマンはこの際、どうでも良い。問題はこの映画。もちろん、絵本やぬいぐるみ、アニメーション、切り絵&ぬいぐるみアニメなどでお馴染み、かわいい「くまのパディントン」のお話なのだが、これがもの凄いことになっている。



 げげッ!こっ、これは…!
 こわい!こわすぎる!私たちが求めるパディントン・ベアは、これじゃない!
 あまりの事に、この画像が公開されるやいなや、数々のホラーパロディが作らる始末。それもそうだろう…
 そもそもこの映画、監督がポール・キングである時点で、何かがおかしい。ザ・マイティ・ブーシュの監督であるポールが、パディントンというのはちょっとピンとこなかったのだ。
 同時に予告編も公開されたのだが…。



 どうしよう。パディントン・ベアなのに、胸が悪くなるような…この…可愛さの微塵もないパディントン。子犬を連れても可愛くないパディントン。Made in Japan のキモカワ・キャラとは全くちがう気持ち悪さ。お金のかかるCGで、これは思い切ったなぁ…
 この映画、大丈夫だろうか。今のロンドンがいろいろ見られるのだろうけど。クリスマスに公開予定(ファミリー向け…)。日本では上映されるだろうか。

Inside Llewyn Davis2014/06/15 20:21

 コーエン兄弟監督の映画「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」[Inside Llewyn Davis] を見た。
 1961年ニューヨークはグリニッジ・ヴィレッジ。フォーク・シンガー,ルーウィン・デイヴィスの1週間を追う映画だ。

 かつては相棒マイクとレコードを出したこともあるフォーク・シンガーのルーウィンは、今ではソロ。レコードは出したが、ろくすっぽ印税も入らず、もちろん鳴かず飛ばず。仲間のよしみでガスライト・カフェで歌い、同様の仲間や理解者たちの家に泊めてもらい、寝るところをなんとか確保する毎日。
 ある日、ひょんな事からネコを連れて歩くはめとなり、あれこれあった仲間の女性フォーク・シンガーには罵倒され、お金が必要になる。レコーディングセッションで得た払いを手に、短い旅に出て、奇妙な体験をしつつ、失望を抱えてニューヨークに帰る。
 そしてまた、ガスライトで歌う夜。いつもと同じようで、どこか違う夜…




 元になったのは、デイヴ・ヴァン・ロンクの自伝だそうだ。「インサイド」というアルバムタイトルや、レコードジャケットの構図も同じだ。
 しかし、私にとってはやはり「ボブ・ディラン自伝」の世界。冬のグリニッジ・ヴィレッジの風景、地下鉄、流れるフォークソングの数々。ニューヨークに行きたくなる。ボブ・ディラン・ファンなら必見の映画だ。
 化け物のようなジャズマンも印象的。何が何だか分からないキャラクターだが、とにかく演奏シーンはなく、単純なコード進行を馬鹿にしている。一方で、所々にクランシー・ブラザーズや、PPMを彷彿とさせるシーンやほのめかしがあるし、当然「あの人」もその内の一つ。
 それから、ネコの名前が秀逸。そういえば、同じコーエン兄弟監督の映画「オー!ブラザー」も、本作品のネコの名前が鍵になっていた。

 音楽は全編に流れるフォークソングの数々が素晴らしい。これはサウンドトラックが欲しい。主演のオスカー・アイザックを含め、ほとんどの楽曲を、演者が自ら演奏しているそうだ。
 劇中に流れるボブ・ディランの曲は、"Farewell"。[Witmark Demo]とは別バージョンだそうだ。この曲は、アイルランド民謡 "Farewell to Liverpool" と同じ曲であり、私のお気に入りでもある。



 アイルランドと言えば、ルーウィンが歌う "The Death of Queen Jane" も印象に残った。
 この曲自体は、イングランドのもの。「王妃ジェーン」とは、ヘンリー八世の3人目の王妃だったジェーン・シーモアで、彼女は王子を産んだ直後に亡くなっている。この曲はその王妃ジェーンの死と、王ヘンリーの嘆きを歌っている。
 ちなみに、ジェーンの忘れ形見である王子は後にエドワード六世として即位した。マーク・トウェインの童話「王子とこじき」のモデルにもなった人物だが、15歳で夭折し、直後に「九日女王ジェーン・グレイ」の事件が起きている。
 "The Death of Queen Jane" は、アイリッシュ・モダン・トラッドの雄,ボシー・バンドが録音している。



 ボシーの演奏は訛りなのか、言語の問題なのか、かなり歌詞が聴き取りにくく、一部違うところもあるようだ。
 こちらは、ルーウィンこと、オスカー・アイザックの演奏。

Saint Patrick's Day2014/03/17 21:19

 3月17日は聖パトリックの祝日である。

 聖パトリキウスは4世紀末から5世紀にかけて生きた人で、アイルランドにキリスト教を広めたということになっている。当然、アイルランドの守護聖人であり、英語名であるセント・パトリックの方が一般的だろう。
 セント・パトリックは、キリスト教の三位一体を説くために、シャムロック(三つ葉のクローバー,カタバミの一種)を手にしたと言い、このシャムロックはセント・パトリックの、そしてアイルランドの象徴となり、ひいては緑が象徴の色となった。

 セント・パトリックの命日である3月17日はセント・パトリック・デーとして盛大に祝われる。本場アイルランドではもちろんだが、多くのアイルランド系移民が住むアメリカで大規模化,大衆化した。
 特にニューヨークは5番街の真ん中に荘厳なセント・パトリック大聖堂が鎮座するだけあって、盛大らしい。もはやアイルランド系ではなくとも、カソリックではなくとも、はてはキリスト教徒でなくとも、楽しく祝う日になっている。日本でもパレードが行われるくらいだ。

 この日、人々は緑色のものを身につける。服、帽子、派手なサングラス、なんでも良いらしい。しまいには川や噴水の色が緑色になる。
 もちろん、ギネスを飲みまくる。
 こちらは、ギネスのCM。お酒なので、もちろん大人がハイテンションになるのが可愛い。



 "Saint Patrick's Day" という伝統的な曲もある。
 ジグで、セット・ダンスを伴う。ダンスにしてはややゆったり目のテンポ。

 フラッシュ・モブも含めて、YouTubeには様々な "Saint Patrick's Day" の様子がアップされているが、ここではなにやら妙な味わいのあるものを紹介。



 ハープを弾いているのは、Fiachra Ó Corragáin という、コークを中心に活躍しているプロのお兄さん(なんと読むのか分からない)。
 なんだか究極の「道ばた」っぽさが良い。意味深に置かれた鉄板の愛想の無さがさらに良い。そして何の感慨もなく現れて、何の感慨もなくステップを踏むダンサーがさらにシュール。

 セント・パトリック・デーといえば、10年前のこんな記事を思い出した。ロニー・ウッドが医者に、タバコをすぐにでも止めないとヤバイと言われたのだが…

2004年3月15日 BARKS ストーンズのロニー・ウッド、医者から…

 この記事、日本で出たのが3月15日である。なのに、ロニーは「聖パトリック・デーの17日に止めるつもりだ。」などと悠長なことを言っている。

 今すぐにやめろ!

 あれから10年。先日のドームでも、ロニーは元気に、キースと後ろでモクモクとふかしていた。セント・パトリックのご加護だろうか。

Do You Love an Apple2014/02/10 20:39

 3月公開予定で、見たい映画がある。原題は[Philomena]「フィロミーナ」だが、「あなたを抱きしめる日まで」というダサい邦題がついている。
 内容はいたって真面目で、いわゆる「感動モノ」のようだが、スティーヴ・クーガンが制作に関わり、出演しているので、面白そうだ。
 スティーヴ・クーガンは、UKの有名なコメディ・クリエイター、コメディアン、俳優。非常に多才な人だ。コメディ・プロダクション,"ベイビー・カウ"を作り、そこからはザ・マイティ・ブーシュなどが出ている。当然、クーガンはブーシュのエグゼクティブ・プロデューサーでもある。
 映画の評判は上々だし、コメディとしても良さそう。



 実話を元にしており、原作はマーティン・シクススミスの "The Lost Child of Philomena Lee"。
 そうか、そうか、原作があるのかと思い、この本を購入して早速読み始めた。日本語訳があるかどうかは知らない。
 読んですぐに分かったことは、どうやらこの原作は映画とはまったく視点が違っており、予想したような話ではなかった。私がクーガンをたよりに求めたコメディ要素はない。
 それでも、本としては至って面白く、順調に読み進んでいる。途中からどんどん予想外の展開になってびっくりしている。そういう話だったのかと…。映画のネタバレになるので、詳しくは言えないが。
 ともあれ、半ばあたりを読んでいると、面白い下りにぶちあたった。

 1976年、アメリカはワシントンの大学コミュニティラジオ局でDJを務めている男子学生が、アイルランドに思いを馳せ、行こうかどうか考えていたある日、レコード片手にラジオ局から帰ってきて、恋人に興奮しながら言うのだ。

 「こんな不思議なことってあるかい?あんな会話をした後で…とにかく、聞いてみてくれ。アイルランドのバンドなんだ、いいかい?アイルランドだぜ!」



 「ラジオ局に行ったら、デスクにこのレコードが置いてあったんだ。ぼくは知らなかったけど、ザ・ボシー・バンドという、アイルランドのバンドだって。初めて聴いたのに、ぼくはこの曲を知っていたんだ!このレコードは発売されたばかりなのに!人にきいたら、アイルランドの古い曲だそうだ。ぼくが赤ん坊の時にこの曲をきいて、それが頭の中に残っていたに違いない!」

 ここを読んだとき、思わず息をのんだ。ザ・ボシー・バンドがここで登場するとは。
 "Do You Love an Apple" は、ボシー・バンドのデビューアルバム、[The Bothy Band] に収録されている。発表は1975年。Triana Ni Dhomhnail の声が美しい。
 登場する大学ラジオ局はワシントンにあり、レッド・ゼッペリンや、デイヴィッド・ボウイ、そのほか色々、雑多に流していたのだが、その中に発表されて間もないボシー・バンドがあるのにはたまげてしまった。
 ボシー・バンドのウィキペディアを見ても、チャートについては記載がない。彼らのアルバムは評判は良かったものの、どの程度売れたのか、アメリカでの評判はどうだったのかは分からない。
 それでもこうやって、ノンフィクション系の物語に登場する以上、音楽に詳しい学生などがボシー・バンドのデビュー・レコードを手に入れ、人に聴かせていたということは間違いなさそうだ。これは良い事を知った。

 映画 [Philomena] は私が今読んでいる原作 "The Lost Child of Philomena Lee" の筆者であるマーティン・シクススミスが、年老いたフィロミーナと出会い、彼女の息子を探す行程を物語にしており、原作とは視点がまったく異なる。
 だから、このボシー・バンドのエピソードが、映画でどう扱われるかは分からない。しかし、アイリッシュ・ミュージック・ファンとしては、どこかでうまく取り入れてくれると嬉しい。日本での公開が楽しみだ。

My Favorite Melodies / Mari Yasui2013/10/30 20:02

  アイリッシュ・フルート、ティン・ホイッスル、リコーダー奏者であり、指導者としても大活躍している安井マリさんのアルバムが発売された。

 こちら[My Favorite Melodies / Mari Yasui] に美しいジャケットと、曲目が載っている。

 このアルバムでは、アイルランド音楽の中でも、タイトルの通り奏者お気に入りの美しくスロウな、「エアー Air」と呼ばれるジャンルの楽曲を選び、ティン・ホイッスルとアイリッシュ・フルートの演奏で丁寧に聞かせてくれる。
 いわゆる「私家版」というもので、Amazon や一般のCDショップには並んでいないが、それがもったいないくらいの名盤である。特に美しく穏やかなアイリッシュを聴きたい人、笛の音が好きな人、ティン・ホイッスルやアイリッシュ・フルートの学習者にとっては、必聴と言って良い。
 演奏は、安井マリさん自身のホイッスル,フルート,バス・リコーダー,ボタン・アコーディオンのシンプルな組み合わせ。そして静かなギターがバックを支えている。大袈裟なアレンジやオーバープロデュースを排除し、ハーモニーパートも、決してメロディの美しさを埋没させない。アイリッシュ・ミュージックのメロディの美しさを際立たせている。

 私の一番のお気に入りは、一曲目 "The Lark in the Clear Air"。オーバーダビングの都合上、テンポを律儀に刻む曲が殆どのなか、この曲の最初のメロディはホイッスルのソロで、テンポをゆらしながら、たっぷりと聞かせてくれる。
 私は変にもったいぶった、大袈裟な「溜め」が好きな方では無いが、この"The Lark in the Clear Air" は、引き締まった曲調のまま、絶妙な伸びやかさを表現している。長い音をたっぷりと聞かせつつ、上昇する音階はヒバリが舞い飛ぶように駆け上がる。こればかりは指や呼吸の技術ではなく、演奏者のセンスに任される。

 アイリッシュ・ミュージックのエアを語る上で欠かせない作曲家,ターロック・オカロラン(名前の表記は様々)の曲も取り上げている。
 "Carolan's Welcome" はアイリッシュ・フルートのみの演奏だが、これが非常に絶妙。メロディのところどころが特徴的に跳ね上がる。これは、オカロランがハーパー(ハープ奏者)だったため、ハープを弾く指を自分の体に引き寄せる動きに由来しているのではないかと思う。
 とにかく、この「跳ね上がり」を表現する上で、ホイッスルだとややエッジがきつすぎることがある。そこを、フルートの柔らかい音の切れ際で表情豊かに表現している。

 一方、ティン・ホイッスルはリコーダーと構造的には同じ非常に単純な楽器で、音も比較的倍音が少ない。しかし、指やタンギングを使った、しなやかで不思議と豊かな表現力をもっており、安井マリさんの演奏はその魅力を最大限に引き出している。

 アルバムの最後は、"Amazing Grace"。これがアイリッシュ・ミュージックと分類されるか否かは微妙なところだが(アイルランド、スコットランド、イングランド、そしてアメリカの要素が指摘されている)、そこは「お気に入りのメロディ」ということなのだろう。

 少し気になるかも知れないと自分で危惧していたのは、リバーブ(残響)の具合。私はピアノでも右ペダルをあまり踏まない方で、ボワーンとした音が嫌いなのだ。
 しかし、二曲目くらいから気にならなくなり、アルバムを何度も聞いている内に全く気にしなくなった。録音媒体にしたとき ― 特に倍音の少ない真っ直ぐな音色のホイッスルの場合は、この程度のリバーブはあった方が良いらしい。リバーブをどの程度にするかは、悩みどころだそうだ。

 不満があるとしたら、もっとたくさんの曲を聴きたいということ。これに味を占めて、さらなるアルバム制作を期待したい。
 そして、なんと言っても、ダンスの曲が聴きたい。これは私がロック好きから始まってアイリッシュ・ミュージックを聞いていることに起因している。
 ダンス・ミュージックでの奏者の卓越した技術、センスの良さ、格好良さを、ぜひアルバムの形でも楽しみたい。

Mo Ghile Mear2013/07/28 21:01

 今日は年に2回恒例、アイリッシュ・パブにおけるセッションがあった。前回、私はソロで "Congress Reel" を吹いたのだが、今回は特にソロ曲もなく、気軽に参加。暗譜が怪しいところがいくらかあったが、楽しめた。

 セッションで誰もが演奏できそうな、定番になっている歌の曲がある。タイトルは "Mo Ghile Mear" なのだが、正確にはどう発音すれば良いのか分からない。カタカナでどう書くべきかも良く分からないが、一応「モギレマー」と呼ばれている。
 この曲は、ザ・チーフテンズと、スティングのコラボレーションが断然格好良い。



 この堂々たる演奏、圧倒的だ。ハーモニーの重厚さも、潔さがあって良い。私はエコーの強すぎる音が苦手だが、これには降参。
 歌詞はアイルランド土着の古い言語である、アイルランド・ゲール語。文字を見ただけではどう読めば良いかわからないし、英語の知識も全く役に立たない。イングランド,ニューカッスル出身のスティングは、頑張って覚えたのだろうか。

 歌われている内容が面白い。「わが輝かしき(雄々しき)かの人よ」と歌われているのは、チャールズ・エドワード・スチュアート。名誉革命で退位に追い込まれたイングランド・スコットランド王であるジェイムズ2世の孫にあたる。
 そもそも、スチュアート王家はスコットランドの王家だった。
 イングランドのエリザベス1世が亡くなったとき、彼女には子がなかった。一方、エリザベスの父方の叔母はスコットランド王家に嫁しており、そのひ孫がジェイムズ6世としてスコットランド国王になっていた。エリザベスの後は、このジェイムズがイングランド王としてはジェイムズ1世として、二つの王国の王を兼ねることになったのだ。
 つまり、スコットランド人であるスチュアート王家がイングランドの王になったというわけ。その後、ピューリタン革命,王政復古を経て、ジェイムズ2世(スコットランド王としてはジェイムズ7世)が即位したのだが、名誉革命で王位を追われ、娘とその夫であるメアリー2世と、ウィリアム3世のオラニエ=ナッソウ家に王位が移った。
 その後、アン王女を経て、次の王はもの凄い代を遡り、ハノーヴァー(今のドイツ)王家に移ったのだが、このハノーヴァー王家の時代に、ジェイムズ2世の孫にあたる、チャールズ・エドワード・スチュアートが、正当な王位継承者であるとして、兵をあげたのだ。
 通称、小僭称者,ザ・ヤング・プリテンダー。美男だったらしく、「麗しきプリンス・チャーリー」,ボニー・プリンス・チャーリーとも呼ばれる。

 ハノーヴァー王家はほぼ100パーセント「ドイツ人」であり、イングランドでも一部不人気であったらしい。一方、ボニー・プリンス・チャーリーはスコットランド人であり、カソリックの信者。そのスコットランド人の一部や、カソリックの支持を受けて、彼の王位を賭けた反乱は勢いを持っていたが、結局は鎮圧されている。
 このハノーヴァー王家がその後女王(ヴィクトリア)を経て、今に至るわけだ。

 "Mo Ghile Mear" は、ボニー・プリンス・チャーリーが敗北し、去っていったことを嘆く美しい曲だが、歌詞の途中で‘S Éire go léir faoi chlócaibh dubha という言葉が入る。Wikipediaに載っている対訳では、And Ireland completely under black cloaks となっており、「アイルランドは黒衣(喪服?)に覆われた」とでも解釈するべきか。
 スコットランド人であるボニー・プリンス・チャーリーに対して、当時のアイルランド人は期待をかけていたのだろうか。イングランドの支配下にあり、熱心なカソリック国であるアイルランドに、このような歌が残っていると言うことは興味深い。
 ボニー・プリンス・チャーリーに関しては "The Skye boat song" という曲もあるが、だんぜん "Mo Ghile Mear" の方が良いと思う。

 私はケルティック・ウーマンには興味がないが、彼女たちもこの曲を歌っている。YouTubeで見たが、まず歌詞が違う。何よりも、この曲をこんなにしてはいけないよ…という感じだったので、またチーフテンズとスティングを聞くことにする。