License to Kill2021/02/04 22:02

 1986年6月6日、ボブ・ディランは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズと共に、アムネスティ・インターナショナルのチャリティ・イベントに出演した。
 その際の、"License to Kill" が動画サイトにあがっている。



 このバージョンでは、ディランの相棒はもっぱらマイクのようだ。たびたび彼の方を見ながら、歌っている。
 原曲は訥々とした、おとなしい曲だが、ディランの叫ぶような口調と、エレクトリック・ギターサウンドの重なりで、格好良いロックに変貌した。
 惜しむらくは、エンディングで女性コーラスに "License to kill..." を繰り返させたことだろうか。ちょっと垢抜けなくて、ダサい感じがする。

 1992年の、ディラン・デビュー30周年コンサートで、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが "License to Kill" を演奏したのだが、ディランと共演したときのことが下敷き似合ったのだろう。
 そもそもこのライブの映像は、私がTP&HBのファンになりたてのころ、音大の図書館にリクエストして、入荷してもらった物である。毎日図書館に通ってTP&HBと、ジョージと、ディラン様を繰り返し見ていた。

 TP&HBが登場するときの、会場の盛り上がりが凄い。"License to Kill" を演奏しようとしたトムさんが、盛り上がりすぎて、「あれっ?」という顔をするところからして、既に最高。後ろでドナルド・ダック・ダンが笑っている。
 曲はしずしずと始まり、だんだん分厚いサウンドに、仕上がっていく。3分18秒のところで、いったん演奏を止めてに、ニヤリとするトムさん。絶品。



 マイクによるギター・ソロの格好良さも素晴らしい。目立たない佇まいで、表情もよくわからないし、大人しいギタリストなのに、そのソロはものすごい。しかも、そのテクニックを見せつけるのではなく、曲と歌を最高に引き立てる、溶け合うようなサウンドなのだ。
 4分43秒の所で、マイクがトゥルク・スイッチを切り替えるところなんて、本当に憧れない?あれに憧れない人がいるだろうか?

 ハウイのコーラスも美しいし、スタンのバタバタする感じのドラムも最高。トムさんの髪はつややかで、コンバースの靴が欲しくなる。
 何度でも見たい、まさに世紀の名演奏だった。

Twist and Shout2021/02/08 20:26

 ウィークエンド・サンシャインで、フィル・スペクター特集をしたときに、彼の「失敗作」として紹介されたのが、ザ・トップ・ノーツによる、"Twist and Shout" だった。
 バラカンさんも言ってたけど、ビートルズのバージョンを知ってしまうと…まぁ、確かに大失敗だなぁ…



 もちろん、ビートルズはこのバージョンから、名演奏を繰り出したわけではなく、アイズレー・ブラザーズのバージョンを、カバーしたのである。
 アイズレー・ブラザーズは、すべてのロックンロールを愛する人にとっての、恩人と言えるだろう。



 ビートルズに関しては、色々なライブ・バージョンが残っているが、私が一番好きなのは、アルバム [Please Please Me] に収録された、スタジオ・レコーディング・バージョンだ。
 ジョンの限界まで来た、叫び声が最高。もしかしたら、ビートルズで一番好きな「演奏」かも知れない。こういうジョンが好きで、「ジョン・レノンが好きだ」と言えるのだ。こんなに凄いロックシンガーがいるだろうか。



 ビートルズのバージョンに憧れて、様々な人がこの曲をカバーしている。
 中でも、80年代,ザ・フーのライブが格好良かった。ジョン・エントウィッスルのリードで、ライブの最後を飾ったそうだ。

Ampeg Dan Armstrong "Lucite"2021/02/12 22:34

 なんとなく YouTube を見ていたら、フェイセズの "Stay with Me" があがってきた。1971年。わぁお、格好良い!



 ロッドが振り回すマイクスタンドの他に、目についたのが、ロニーのギターだ。
 この透明なボディが印象的なギター、時々、見かける。ググってみると、1969年から2年間ほど作られた、Ampeg 社の ダン・アームストロングによる、 "Lucite" と言うらしい。Ampeg は、ギターとしては、この透明ギターしか知られていないが、ベースアンプの分野の名門だそうだ。

 楽器の外見に凝りだすと、必ずというほど、誰かが「スケルトン」や、「クリスタル」のアイディアを出してくる。もともと木製の楽器だと、プラスチックや、樹脂で作ることが出来るので、けっこう透明が作りやすいのだ。
 ピアノがスケルトンになっているモデルなどは、有名だ。
 ああいう透明な楽器を作る、持つという思いつきは、ちょっと子供っぽい夢に根付いているのではないだろうか。私は「透明な」楽器というと、安っぽい感じがして、あまりありがたく思っていない。

 そうは言っても、格好良さを追求するロックンローラーたちにとっては、透明な楽器はイカしていたのだろう。愛用者も多い。

 そうだ、トムさんやマイク先生も、"Lucite" を弾いていたぞ ―― と画像検索をするまでは良かったが(いくらでも出てくる)、動画までたどりつくのには、ちょっと時間がかかった。何度も弾いているところを見ているはずだが、いざ曲名というと、記憶が怪しい。
 ちょうど1980年頃によく使っていたはずだ。それでやっと見つけたのが、こちら。やはり1980年だった。チョコミント・シャツのトムさん。



1990年代以降には決して見ることの出来ない、若さゆえの切れ味。鋭く、熱く、突き抜けている。
 この "Lucite" の本当の持ち主が誰なのかは、よく分からない。トムさんかも知れないし、マイクかも知れない。この二人は同じギターを分け合って使っている例が多く、どっちの所有なのかよく分からない物があるのだ。
 ごく最近、マイクの家の廊下に、飾ってあったし、ノブズのライブで弾いていたような気もするので、マイクも持っているに違いない。

And Your Bird Can Sing2021/02/16 19:43

 何かの拍子に、何かがツボにはまり、笑い出してしまうと、本番なのに笑いが止まらなくなることがある。このコントのように。
 ツボにはまる富澤。笑わせにかかる伊達。



 真っ先に思い出すのは、ビートルズが [Anthology] で発表した、"And Your Bird Can Sing" の爆笑バージョンである。
 実のところ、この曲が大ボリュームの [Anthology] の中でも、一番良かった。



 そもそも、この "And Your Bird Can Sing" は名曲中の名曲なのだ。私が [Revolver] を、ビートルズで一番好きなアルバムにしている理由の一つでもある。たしか、ピーター・バラカンさんも、お気に入りの一曲だったような気がする。
 たった2分の間に、美しくて切れのある、格好良いギターリフと、ギターソロが揃っている。ジョンのリード・ヴォーカルは威勢が良くて、ポールのコーラスの付け方は天才的だ。リンゴのドラムスも最高に格好良くて、ライブで聴けたらどんなに良かっただろう。



 こんなに格好良いのに、ライブでは演奏されなかったらしい。ライブをやめる時期に近かったというのもあるが ―― ジョンによれば、「捨て曲 throwaway」だったと言う。
 確かに、[Revolver] 期のビートルズにしては、明るすぎ、軽すぎ、脳天気という感じもしないでもないが、その突き抜けた爽快さが、私は良いと思う。
 捨て曲が名曲だというのだから、げにビートルズは恐ろしい。

Rolling Thunder Revue2021/02/20 21:56

 Netflix が配信している映画,[Rolling Thunder Revue: A Bob Dylan Story by Martin Scorsese] を、Netflix に加入せずに見る方法。それは、Blu-ray ディスクを買うことである。ただし、アメリカ版なので、日本語字幕無し、パソコンでのみ再生可能だ。
 1975年夏、ボブ・ディランのライブツアー,「ローリング・サンダー・レビュー」の模様を描くドキュメンタリー ―― ということになっている。タイトルに、"A Bob Dylan Story by Martin Scorsese" 「マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説」と、但し書きが付いているところが重要だ。



 これはまた…微妙な映画だ…。

 ライブシーンは、間違いなく傑作。ブートレグ・シリーズ Vol 5. の映像を見ることが出来るのだから。白塗りのディランは、叩きつけるように歌いまくり、ツイン・ドラムスに引っ張られたバンドが、重量感抜群に迫ってくる。
 ディランの容姿も格好良い。花で飾った帽子をかぶり、ジーンズが似合っていて、笑顔が目立つ。  ジョーン・バエズとの息ぴったりのデュエットシーンも良いし、当時の最新アルバム,[Desire] の曲とともに、"Hattie Carroll" や "Hard Rain" のような古い曲を、ロック・バージョンで聴かせてくれるところも、堪能できる。
 容姿の目立つ ―― 要は美しいギタリストがいて、それがミック・ロンソンであることを初めて知った。名前は聞いたことはあるが、どういう人かは知らなかったのだ。
 ロジャー・マッグインの迫力のある見た目が、ちょっと笑えた。衣装がダサく、白塗りや、アイメイクが似合わない。でも聴かせてくれるのは、これぞマッグインと言う、繊細なギターと歌声だ。
 行く先々で加わるゲストも豪華。パティ・スミスやジョニ・ミッチェルが、若く溌剌としていたのが印象的だ。

 しかし、この素晴らしいライブシーンを堪能するだけでは、監督は満足しなかったようだ。たびたび演奏がぷっつり切れて、インタビューや、舞台裏のシーンが挿入される。
 ツアーの様子を描くのだから、そういうシーンも必要なのだろうが、私にとっては、なくても良かった。
 しかもそう言ったインタビューシーンが、いわゆる普通の「ドキュメンタリー」ではなくて、様々な仕掛けが施されている。それを示唆するように、まったく関係ない、古い映画のシーンが挟まれたりする。
 私が期待したのは、[Shine a Light] のように、コンサートを堪能するような映画なので、かなり微妙な評価にならざるを得ない。

 そのうち、日本語の字幕の入ったソフトが発売されるだろうか。そうなったら、もう一度日本語で見て、ドキュメンタリー部分の良さを認識出来るようになるかも知れない。
 私が好きなのは、ディランの「伝説」ではなく、「音楽」なのだということを、再確認した映画だった。

Mick Ronson2021/02/24 21:05

 ボブ・ディランの「ローリング・サンダー・レビュー」を見ていたら、ギタリストのミック・ロンソンが目に付いたので、彼の伝記映画である [Beside Bowie: The Mick Ronson Story](2017) を見た。
 ロンソンのことが分かりやすくまとまっていて、良かった。
 だが、前半の三分の二ほどは、デイヴィッド・ボウイの成功を描いた伝記でもある。



 これを見ていたら、ロンソンの生涯は、ニッキー・ホプキンズと重なる物があると思った。才能豊かなロック・プレイヤーが、大きな役割を担って活躍するが、それに見合うほどの報酬を得られずに苦しみ、病気で早く亡くなる。
 ロンソンの場合、卓越したギタリストであるのみならず、サウンドクリエイター,編曲家,プロデューサーとしての才能にも恵まれていたと言う点において、特筆されるべきだろう。ただ、その才能こそ音楽仲間たちに認知されておきながら、彼を絶対に離さずにおこうとする、相棒の存在を欠いた。
 ボウイとは、確かに不離の間柄で、ボウイ自身、ロンソンの重要性を分かっていたが、結局一緒に歩むことは止めてしまったのだ。惜しいことをしたのではないだろうか。

 さて、肝心のディランの話となると、映画ではボウイから離れた後の、ロンソンの「迷走」の一つという扱いだった。
 「ディランなんて全然好きじゃないのに!」―― の一言で終わり。
 好きじゃないにしては、ローリング・サンダー・レビューでの活躍は、素晴らしかったけどなぁ。

 映画を見ながら、どうもロンソンの美男子ぶりに、既視感があると思った。
 どうやら、ロッド・スチュワート、ロジャー・テイラー辺りや、金髪にしていた頃のノエル・フィールディングとかが、被るようだ。時々、トム・ペティも混じる。

 ボウイにはあまり興味をひかれないが、この曲は良い曲で好き。
 ボウイ曰く、ロンソンの肩に腕を回して、ワン・マイクで歌った色っぽい姿が、衝撃を与えたとのこと。今にすればたいしたことないが、当時はボウイの容姿も相まって、それなりのインパクトだったろう。