All Things Must Pass (2020 Mix)2020/12/02 19:49

 ジョージのアルバム [All Things Must Pass] の50周年を記念して、タイトル曲 "All Things Must Pass" のリミックスバージョンが発表された。
 ジョージのヴォーカルが強調された印象だ。



 ダニーによると、「2021年に予定している数々のプロジェクトのほんのさわりに過ぎない」とのこと。
 大量の音源があって、それを整理中のようだ。まぁ、ダニーもライブ活動ができないだろうし、良い時間の使い方ではないだろうか。
 それにしても、来年どんな凄い物が出てくるのだろう…ドキドキだ。さすがにこれは一番大きな箱を買うだろう。

 この曲にはいろいろなカバー・バージョンがあり、ビリー・プレストンのカバーなどは特に有名だ。
 しかし、私にとって最高のカバーは、やはり [Concert for George] でのポール。注目ポイントは、後ろで熱唱しているクラプトンでもあるのだが。
 この曲は最初、ビートルズのセッションにジョージが持ち込んだのだが、当時はまともに扱ってもらえなかった。その現象からして、既にビートルズは限界だったのだと言うことが、よく分かる。
 ともあれ、当時はその価値を分かっていなかったポールが、30年後に素晴らしく情感豊かに歌い上げたバージョンは、凄く感動的だった。
 バンドメンバーもまさに「心を込めて演奏する」のお手本のよう。ジム・ケルトナーなんて、本当に魂のパフォーマンスと言えるだろう。
 そもそも、これだけの人数(ドラムスだけでも3人!)で演奏して、これだけのクオリティを保ったのだから、バンドマスターのクラプトンの仕事も、素晴らしかった。そしてジェフ・リンをはじめとする技術者たちも最高だった。

 すべてははうつろいゆく ―― でもこの曲の素晴らしさは変わらない。

The Dirty Knobs at Troubadour2020/12/06 21:33

 11月20日、LAのトゥルバトゥールで、ダーティ・ノブズのライブが行われ、動画配信された。
 YouTube ではもう見られなくなっているが、ノブズの公式ホームページでは鑑賞することが出来る。1時間ほどのコンパクトなコンサートなので、ぜひとも楽しんで欲しい。



 観客こそいないが、バンドの演奏を心から楽しむマイク。曲目は主に新譜の [Wrecless Abandon] から。よく分かるのは、アルバムがライブ演奏に近い録音だったということだ。
 印象的だったのは、やはり "Wreckliss Abandon" ―― 格好良いリッケンバッカーを目一杯鳴り響かせて、熱量の高いロックンロールを堪能させてくれる。

 何曲かカバー曲もあるのだが、ハートブレイカーズの曲が "Refegee" と "Between Two Worlds" だったことは、少し驚きだった。"You Wreck Me" あたりが来ると思っていたので。
 ("You Wreck Me" がハートブレイカーズの曲か?という問題もあるが…私はハートブレイカーズの曲だと認識している)

 特に "Between Tow Worlds" はハートブレイカーズ現役時代でも、演奏機会の多い曲ではなかったと思う。歌い方がトムさんそっくりだ。
 マイクによってハートブレイカーズの隠れた名曲が演奏されるのも、なかなか面白い。

 私たちはいま、疫病の厄災に地球規模で直面している。これまでの歴史でも何度か起ったことである。多くの人がベストを尽くしてはいるが、犠牲になることも多い。音楽活動者の収入や、トゥルバドゥールのようなライブハウスの経営も、それらのうちに数えられる。
 私たちは安全に生きているからこそ、音楽を楽しむという贅沢ができる。優先順位をつけて、いまは耐えなければならない。それでもこうして、ネットを通じてライブ演奏が楽しめる。技術の進化に感謝するべきだろう。
 「雅楽鑑賞は生に限る」という結論に達した、伶楽舎の演奏会配信とは、対照的な印象を持つ結果となった。ロックという爆音音楽の強みだろうか。

Something Could Happen2020/12/10 19:48

 トム・ペティの [Wildflowers & All the Rest] から、"Something Could Happen" の新しい公式ビデオが発表された。
 けっこう手の込んだ作りである。



 面白いし、可愛いビデオ。そこかしこに、トムさんの生前のビデオの断片,オマージュが挟まっている。
 良いんだけど ―― こういうものを見ると、トムさん本人の不在がすごく重く感じる。別にこういう動画は無くても構わないから、もっとトム・ペティ本人が見たいという気持ちになる。

 さて、この曲の特色の一つは、スタンがドラムスを叩いていること。
 でも正直言って、スタン向きの曲かといわれると、そうでもないだろう。こういうメロウで穏やかな曲調よりも、元気で弾けるような曲のほうが、スタン向き。

 もう一つ特徴的なのは、ベンモントが弾く「タック・ピアノ」だ。
 ジョン・ケージの作品に、「プリペアド・ピアノ」を用いる物がある。これはピアノの弦と弦の間に何か物を挟んで、音色,音程を変える試みだ。音大時代、学校のピアノにこれをやって、怒られていた連中もいる。
 一方、タック・ピアノは、弦の打点に画鋲か釘を打ち、音色を変えた物で、「プリペアド・ピアノ」のような偶然性を求めた物ではない。チェンバロの音色や、ホンキートンク・ピアノを模しているそうだ。

 タック・ピアノのことを調べて、やっと分かったことがある。
 よく、ミュージシャンたち(たとえば、ハートブレイカーズのメンバーなど)がインタビューなどを受けていると、背後に前面パネルが外され、弦がむき出しになったアップライト・ピアノがあったりする。常々、どうしてあんなことをするのだろうかと、不思議だった。蓋を外すと、共鳴の加減が変わるし、異物が入ったりして、ピアノに良くないと思う。
 どうやら、タック・ピアノにするために、開いているらしい。パネルをいったん外したら、戻すのも一苦労なので、そのままにしているのだろう。
 クラシック出身の私にとって、ピアノは、大事に大事に、蓋の上にカバーまでして守る物だと思っていたが、ジャンルによっては、その点、無頓着だったりするようだ。それでこの曲のような素敵なサウンドが手に入るのなら、それも一つ良い手法だ。

F1 ゆく年くる年2020/12/14 20:04

 異例ずくめだった、今年の F1 シーズンが終わった。
 3月、オーストラリアのドタキャンから始まって、紆余曲折の末、17戦。ドライバー、メカニック、チーム関係者、主催者側、メディアなどなど、すべての F1 にかかわった皆さん、お疲れ様。この大変な状況で、17戦も開催してくれたことに感謝。
 日本の実況陣も、今シーズンの感慨にふけって、「ゆく年くる年みたいになっちゃった」とか言っている。
 私はキミとセブがイチャイチャするのを見るのも好きだが、実はテレビの実況連中が楽しくワチャワチャするのを聴くのも好きだ。特に川井ちゃんと右京さんの掛け合いはいいよね…!

「『うそつき』って言ってるの、右京さんだけですからね!」
「なんで半分笑いながら言うの…」
「あと5周です!」

 森脇さんや、浜島さんもお疲れ様。健康に気をつけて、来年も楽しく実況してほしい。

 ワールド・チャンピオン争いこそ、早々に決まってしまったが、F1はやっぱり魅力的。一戦たりとも、見逃せない。
 先週のサクヒールなんて、大混乱ぶりに川井ちゃんが「すいませんねぇ、こんな夜遅くにガタガタ騒いで…」と我に返る一幕も。
 わかる…。
 F1って時差が大きいことが多いから、寝静まった時間帯にガタガタ大騒ぎせざるを得ないのよ…!

 今年の F1 を振り返って、バーレーンでのグロージャンの事故に、触れないわけにはいかないだろう。
 本当にショッキングで、今の F1 でこんな事が起きるだなんて、本当に信じられなかった。グロージャンがヘルメットを取ったところが放映されたとき、心底ほっとした。
 川井ちゃんに言わせれば、コース上でのあれほどの炎上事故は、イモラのベルガー以来だという。私はまだ見ていない頃だが、たしか兄が見ていたと思う。給油をしていた頃は、ガレージで火がでることもあったが…今回の「爆発」は、本当に凄まじかった。
 これまでの F1 における安全のための取り組みが、有益なことだったことを、あんな形ではあるが、証明してみせた。これからもその歩みをとめることなく、いってほしい。

 セバスチャン・ベッテルが好きすぎて辛いので、ほかにも若いドライバーが好きになるといいなぁ、と思っていた今年のレース。どうやら、私はランドー・ノリスが好きらしい。かなり応援している。
 セブもそうなんだけど、まず笑顔がいい。私はけっこう、そういう第一印象を重視することがある。可愛い笑顔で、ヘルメットのデザインをアレコレ変えるってところもセブに似てる。
 来年はマクラーレンにリカルドも来るから(彼も好き)、笑顔が良いコンビになりそう。楽しみだ。

 キミ・ライコネンは相変わらずのマイペースで、なぜかチームメイトよりも前でフィニッシュする。予選はぜんぜんダメなのに。やっぱり長いレースには経験って大事なんだなと思わせる。
 私を含めたキミ・ファンにとって最高だったのは、やはりポルトガルのオープニングラップだろう。グラフィックの6位にキミが表示されたときは、本当に興奮して、夜中だというのに「ライコネンっ!!」と叫んでいた。
 タイヤがソフトだったということもあるが、同じソフト勢も3台抜いている。わずかに濡れた路面で、経験と技術が最高に発揮された瞬間だった。



 セバスチャン。本当に辛いシーズンを、最後まで走ってくれてありがとう。途中で抜けてもおかしくないくらいの状況だった。でも、セブは責任感があって、優しいから、ちゃんと走って、ちゃんと辛い思いをしてしまうのだ。
 フェラーリの6年間には、悔しさばかりが残るだろう。しかし、2017,2018年シーズンは、立派にチャンピオン争いをしたことや、去年の鈴鹿でポールを取ったことを、忘れないで欲しい。彼がトップ・ドライバーの一人であることは、私が信じて疑わない。
 来年は心機一転。新たなチーム、新たなエンジンだ。いきなりチャンピオンになれとは言わないけれど、ポディウムに加わることが増えることを、期待している。
 最後に、今年のセブの最高のオープニングラップ。雨のイスタンブール。去年のドイツもそうだったけど、ドライバーの腕が試されるウェットで、最高に輝いていた。

Pastoral2020/12/18 20:04

 めでたく、ベートーヴェン先生の250回目の誕生日を迎えた。
 テレビなどを見ていると、彼の凄さについて、「一つの短いモチーフを徹底的に展開し続けた」という点を強調することが多く、「メロディ・メイキングの名手ではなかった」とまで言っている番組もあった。
 そうだろうか…
 私は、音楽家として、世紀の大天才だったと思う。

 仕事をしている間に聴くCDを、入れ替えるのが面倒で、ここのところずっとベートーヴェンの交響曲ばかり聴いている。
 一番好きな交響曲だということがわかったのが、6番の「田園 Pastoral」だ。
 ロンドン・レーベルの、ウィークエンド・クラシックスというシリーズの中の1枚として、6番「田園」と、1番の入ったCDを持っている。自分で買ったわけではなく、たぶん音大時代の「CD頒布会」で入手したのだと思う。音大の学科がら、研究室にはレコード会社から、大量の試聴版が届く。先生たちも面倒なので、それらをいちいち聴くこともなく、かと言って捨てるのももったいないので、学生たちに、ただで配ってくれたのだ。



 演奏は、ウィーン・フィルで、指揮はシュミット=イッセルシュテットだから、古いなぁと思って確認したら、1969年の録音だった。いい音だ。
 実にスタンダードな演奏で、クセもなく、誰にでも好かれる演奏だろう。

 この版をあまりにも聞き倒したので、他の指揮者,オーケストラでも聴いてみたくなった。ネットで検索すると、だいたいのクラシックに詳しい人は、ブルーノ・ワルターを薦めている。あとは、カラヤンとか。
 せっかくなら、新しい、最近の録音が欲しいと思ったら、選択肢があまり多くないのだ。クラシック音楽なんて、売れないから、あまり出ない物なのか…?

 ともあれ、サイモン・ラトルと、ウィーン・フィルののバージョンが目に入ったので、これを購入。本当はウィーン・フィル以外が良かったのだが…
 ネットで注文したっきり、なかなか届かなくて、半分忘れかけていた頃に、いずこかの外国から届いた。梱包を開けてびっくり、実はベートーヴェンの交響曲9曲の全集だった。ろくに見ていなかった…
 そのような訳で、シュミット=イッセルシュテット、カラヤン、バーンスタイン、ノリントンに、ラトルが加わったという次第。

 ラトルの版は…うーん、人の評論も微妙なところだし、私の評価も微妙…よく言えば、軽やかでポップな感じ。意識して重厚感を除いている感じがする。
 巨匠たちの「名盤」と呼ばれる演奏に耳が慣れていると、それらが基準になってしまって、重厚感と貫禄がどうしても、軽やかさを圧倒してしまっているようだ。

 そもそも、「田園」の何が良いのか考えた。
 明るくて、楽しくて、爽やか。健康的な音楽で、屈折したところがない。その晴れやかさは、この曲の一番の特徴だと思う。
 それから、最近思ったのは、「田園」は、「フォーク・ロックだ」ということ。
 3番「英雄」や、5番「運命」がゴリゴリのロックンロールだとしたら、そこにフォークの風合いが加わった、フォーク・ロックの感触がする。ビートルズとディランが混ざって、バーズになる感じ。
 そういう、バランスの良い音楽が「フォーク・ロック」で、その流れでトム・ペティが好きなのだし、ウィルベリーズなんて本当に最高なんだと思う。
 私が「田園」に感じるのは、そういう良いミックスのされ方、心地よさ、絶妙さなのだと思う。

1970 with special guest George Harrison2020/12/22 20:59

 2021年2月26日、ボブ・ディランの1970年のセッション音源のアルバムが発売される。題して [1970 with special guest George Harrison] ――
   目玉は、なんと言ってもジョージとのセッションだろう。ディランのアルバムでスペシャル・ゲストの名前がタイトルに冠されるのは珍しい。



 ディラン様、ありがとう!!
 実は今年、このセッションの音源は、ヨーロッパでのみ限定発売されていた。どうしてそういう手順になったのか、よく分からない。ともあれ、ジョージとのセッション音源なんて凄い物が、世界で発売されないはずがない。

 ワクワクしすぎて、あれこれ本を出したり、動画を見たり、[Living in the Material World (film)] のボックスを引っ張り出したりしていたら、部屋がすっかり散らかってしまった。
 ジョージの年表を見ると、ジョージが最初にディランの自宅に滞在したのは、どうやら1968年11月のようだ。[White Album] の録音が終わった後、ジョージはジャッキー・ロマックスとの録音のためにアメリカの西海岸へ行くのだが、その後、東海岸に移動して、ディランと過ごしたらしい。
 ビートルズの居心地が悪い一方、自分のソロ・セッションや友人たちとのジャムを楽しみ、大好きなディランの元へ通うという期間が、1年半ほど続く。ディランとの楽しい時間は、ビートルズへの失望感と対照的だったに違いない。
 ビートルズの解散には色々要因があるが、ジョージがディランと楽しく過ごしすぎたというのも、一つにあげられるだろう。

 この記事にどの動画を貼り付けるか、いろいろ考えたのだが、やはりこの一曲にした。
 1970年5月1日、ジョージが参加した、ディランの "If Not for You" ―― 最初のブートレグ・シリーズに収録されている。



 ギターにジョージの名前がクレジットされているが、どのギターなのか、詳細は分からない。あの印象的なリード・フレーズなのか、そっと背後でリズムを刻んでいるだけなのか。いろいろ想像するのも楽しい。
 "If Not for You" の "You" は、ジョージとディラン、お互いのことだと言った人がいるが、その意見には賛成だ。

Let Me Entertain You2020/12/26 21:34

 全日本フィギュアスケート選手権?ええ、そりゃぁ見ていますとも!がっついて見ています。
 日本選手の男子で好きなのは、友野,田中,宇野。女子では坂本,三原。アイスダンスの村元・高橋組の前戦からのブラッシュアップも、素晴らしい。感動してしまった。

 選曲での白眉は、なんと言っても羽生のショート "Let Me Entertain You" だろう。最初に曲名をきいたとき、クイーンかと思ったら、ロビー・ウィリアムズだった。
 これほど派手で、大袈裟で、華やかなロックナンバーを、滑りこなせるスケーターは多くない。そこはさすがのワールド・チャンピオン,二度のオリンピック・ゴールドメダリストだ。

 私はロビー・ウィリアムという人を、名前しか知らないし、どんなグループに所属していたのかも知らなかった。
 今回、彼の動画を初めて見たのだが、その熱いステージには感心してしまった。登場の演出はかなり笑える。



 この曲、ザ・バンドの "Stage Fright" みたいなピアノのイントロが格好良く、レーナード・スキナードの "Free Bird" 後半みたいな疾走感がたまらない。エルヴィスの "A Little Less Conversation" みたいな "Come on, come on" も効果的だ。
 羽生のSPとしては、来シーズン持ち越しても良いくらいの曲ではないだろうか。完璧に演技したときの盛り上がりも凄そうだし、ライバルたちに与えるインパクトも強烈だろう。

Time to Move On2020/12/30 20:37

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ・ファンとしては、今年最大の出来事は、[Wildflowers & All the Rest] の発売だった。
 出ることがアナウンスされるまでは、「いったい、いつ出るんだろう」と思ったものだが、いざ出てしまうと、「出てしまった」という寂しさもある。

 "Time to Move On" という曲は、印象的なサウンドである一方、コード進行はものすごく単純で(G, D, A, Bm)、これといった強いリフはない。鍵になるのは、ベンモントのピアノと、マイケル・ケイマンによるオーケストレーション。それらが作り出すサウンドの上を、滑らかに鳴り響くマイクのスライド・ギター。  そして重要なのは、トムさんによる豊かな詩の世界だ。
 いまこそ、動くときだ、動き出すときだ、先に何が待ち受けるか分からないけれど ―― 
 詩人としての、トム・ペティの重要性を感じることが出来る、一曲だ。



 ライブでも何バージョンがあるが、ここでは1994年の Bridge School Benefit のライブ。ハウイがトムさんのダブルトラックの役をしているのが、すごく良い。



 演奏はともかく、トムさんは見た目がイケていない。シャツが似合っていないし、前髪に迷いがある。
 どういう訳だか、何回か出演している Bridge School Benefit では、「見た目」で失敗していることが多い。

 1986年。シャツを着るのを忘れている。



 2000年。太っているし、髪が短か過ぎる。