At First Sight2017/10/19 20:25

 あの日の朝、最初にトムさんのことを知らせてくれた友人が、私のために「偲ぶ会ランチ」を開いてくれた。友人はロックに興味はないが、私のよき理解者である。

 一通り、トムさんの活躍と、あの日前後のことをしゃべると、友人は言った。

 「ミュージシャンとしては幸せな人だね。バリバリの現役でツアーもしてて。翌週に自宅で眠ったまま、奥さんに発見されて、家族と長年のバンド仲間に看取られるなんて、そんなラッキーな人、ほかにいる?」

 確かにそうだ。あれほど幸せなロックンロールスター人生はないかもしれない。

 その幸運なロックンロール・スターに出会ったときのことは、良く覚えている。

 12歳でビートルズにはまった私は、数年後 ― 音大時代に突然、ジョージが一番格好良いことに気づいた。そしてジョージのソロ活動について調べ、トラヴェリング・ウィルベリーズなるバンドと、”Handle with Care” という名作ビデオがあることを知った。
 そのビデオを見るために、私は毎日 [Classic MTV] という番組を録画し始めた。80年代ごろまでのミュージックビデオばかりを流す30分番組だ。登校中に録画し、帰宅すると確認するということを繰り返しているうちに、ウィルベリーズとやらを捕まえるにちがいないという狙いだ。

 その日も録画を一通り見たが、ウィルベリーズに関しては収穫なしだった。ただ、ひとつ印象的なビデオがあった。
 ロックのライブ映像で、金髪,長髪のフロントマンが目立っていた。恐ろしくダサい服を着ている。でも格好良かった。金髪はタイプではなかったが、瞳の輝きが良かった。演奏している曲も素晴らしい。
 一目見て気づいたことが、いくつかある。
 フロントマンと、ギタリストがリッケンバッカーを使っていたこと。これはビートルズ・ファンには強烈な印象を残す。
 そして、フロントマンはソロ・アーチストではなく、これは数人のロックバンドであることも分かった。ギタリストとはとても仲が良さそうだし、ほかのメンバーも和やかな雰囲気だ。素敵なロックバンド、そういう感じだった。そして、トランペッターと、女性コーラスはバンド外の人だということも、なんとなく分かっていた。

 予備知識の全くなかった私は、一体彼らの何に魅了されたのだろうか。
 曲の良さ、アレンジの良さ、演奏の上手さ。クールで、媚びない、気の強そうな、でもちょっと多感で、意地っ張りで、可憐な。
 そういう印象だったのかも知れない。

 そのビデオのことはしばし忘れていたが、数日後だったのか、数週間後だったのか、とにかく私はウィルベリーズを捕らえることに成功した。
 とうとう見つけた、"Handle with Care" ― ものすごく興奮して、その魅力に完全にノックアウトされた。そして、ジョージが一番 ― ビートルズのみならず、全てのなかで一番格好良いということを確信した。それと当時に、ウィルベリーズの一人である金髪の青年が、「あの金髪の青年」と同一人物であることも、認識したのだった。

 そういう、トムさんとの出会いだった。彼のことを、本気で二十代だと思っていた。