Le Concert2017/08/19 20:42

 新幹線の移動時間の暇つぶしに、2009年のフランス映画 [Le Concert] を見た。邦題は「オーケストラ!」
 フランス映画だが、映画の前半の舞台はモスクワ、後半がパリになる。

 かつて、ボリショイ交響楽団の伝説の指揮者であったアンドレイだが、政治的な理由でその道を断たれる。しかし、ひょんな事からかつての楽団仲間と共にパリ公演を企てることになる。
 メインとなる曲目はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。この曲と、ソリストに選んだアンヌ=マリーに対して、アンドレイにはある思い入れがあった。



 気楽に見るには良い作品で、鑑賞後も爽やかな気持ちにさせる。以下はネタバレの感想。

 もちろんツッコミどころは満載。邦題は「コンチェルト!」の方が相応しいと思う。
 そもそも、オーケストラを率いる伝説の指揮者が、協奏曲にそれほど入れ込むということが、あるだろうか。どちらかと言えば協奏曲に入れ込むのはソリストの方だ。

 昔の仲間が集まって再びオーケストラを結成するまでは良いのだが、全く合同練習をしないのは、さすがに無理がある。フランス人にとってのロシア人のイメージを面白く演出しているのだろうが、クラシックの演奏家としてはプライドがなさ過ぎて、現実味もない。
 しかも、ぶっつけ本番、協奏曲の冒頭が下手でどうしようもないのに、ソリストが素晴らしく弾き始めた途端に、オーケストラも心を合わせ、急に上手くなるというのは、納得がいかない。心がけ次第で演奏が良くなるほど、音楽は甘くはい。クラシックともなればなおさらだ。
 どうせなら、まず楽団員を集める。合同練習をすると惨憺たる有様。そこにソリストが奮起を促す、団員一同練習に打ち込む ― そして本番に臨み、何か別の困難に直面するが、それを乗り越える ― という展開がほしかった。

 イマイチな展開にも関わらず、最後が感動的なのは、やはりチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のシーンが良すぎた。
 第一楽章と第三楽章を巧みに繋ぎ、12分間聴かせる。ヴァイオリニスト役の女優は、弾く演技がかなり上手い。指揮者の方はテンポと動きがややシンクロしきっていないが、盛装して背筋を伸ばし、両手をあげると、「ああ、こういう指揮者っているな」と思わせる。

 この映画を見てから、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を、イツァーク・パールマンと、アンネ=ゾフィー・ムター、そして18歳の諏訪内晶子さんなどで聴いたのだが、もしかしたら、この曲はチャイコフスキーの中でも一番くらいの名曲ではないだろうか。私はピアノ弾きだが、ピアノ協奏曲よりも良い曲かも知れない。
 何と言っても、あの第一楽章のテーマの格好良さ、美しさが抜群だ。「カルメン」の第四幕からインスパイアされたとも言われているが、もしそうだとしても、あそこまで堂々と、臆面もなく、あらん限りの力で高らかに鳴らされたら、感動しないはずがない。テーマの間に管楽器が鳴らず同音の連続など、行進曲じゃあるまいし、本気で書こうと思ったら勇気が要る。
 そして第三楽章のフィナーレの突っ走り方も格好良い。

 どの演奏をはりつけようかと迷った。
 動画と音がシンクロしていないのと、音が悪いのが難だが、やはりパールマンが良い。第一楽章を聴いて、第二楽章が退屈だったら、すっとばして 26分29秒からの第三楽章を聴いても構わない。

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