When I'm Sixty-Four2017/05/13 17:10

 いつもお世話になっている日本のトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ・ファン・コミュニティ,Heartbreaker's Japan Party に教えていただいたのが、ベンモント・テンチによる愛器紹介動画。
 ライブ会場のステージ上で、使用楽器を紹介している。スタイン・ウェイの上にあんなに山積みにして良い物だろうか…



 色々な音が出せる楽器の例として、ビートルズの "When I'm Sixty-Four" のイントロを弾いている。
 "When I'm Sixty-Four" はアルバム[Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band] の収録曲。[Sgt. Pepper] とベンモント,トムさんと言えば、二人が初めて出会った時のエピソードが思い出される。カントムこと、[The conversations with Tom Petty] では、こう語っている。

Q:最初にベンモントに会った時のことを覚えていますか?

TP:ぼくがベンモントに初めて会った時、ベンモントはまだ全然子供で、12歳か13歳そこらだろう。ある日、ベンモントがリパム楽器店にやって来た。そして椅子に腰掛けると、オルガンで古いビートルズのアルバムの曲を弾き始めた。たしか、[Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band] だ。最初から最後まで弾いちゃったんだ。鮮明に覚えているよ。
 何せベンモントはオルガンをやめたとたんに、ハープシコードで "Lucy in the Sky with Diamonds" を弾き始めたんだから。ベンモントを見ようと、ひとだかりが出来ていた。まったく、凄い光景だった。

Q:ベンモントは歌っていましたか?

TP:いや、完全にインストルメンタルだった。楽器だけで全て表現していたんだ。あいつ、何でも弾きこなすからね。たとえば、ぼくらが何もなくて退屈してたりすると、「ベンいじめ」みたいな遊びを始めるんだ。ベンモントが弾けないようなものをやらせるのさ。でも、弾けないなんてのは、まれ。とにかく信じられないほどの天才音楽家だからね。
 ベンモントほどミュージシャンに出会ったことが無いよ。彼は本物の名人さ。

 とにかく、ぼくとバイト仲間はベンモントが演奏するのを見ていて、言い合った「おい、あのガキ信じられるか?」ぼくはそのえらい演奏の上手いガキの姿が、記憶に焼きついてしまった。
 でも、しばらくぼくはベンモントに会う機会がなかった。そう…まさに1970年まではね。ある晩、ぼくのルームメイトが若い男を連れてきた。その男はひげを生やして、髪も凄く長かった。それで、腕にはレコードを抱えている。あの頃は、よくレコードを持って人に会いに行ったのさ。
 ぼくは段々、その男がベンモントだって気づいてきた。そう、「ああ!あのガキ!」ってね。
 そしたら、ベンモントが言った。「そうだよ。いま、ぼくはニュー・オーリンズでバンドをやっているんだ」
ぼくは即座に誘った。「明日の夜、ライブがあるんだ。一緒にやらないか?」
「自分のファルフィーサのオルガンしかないけど」
「オーケー、十分だ。」

 この話で面白いのは、子供だったベンモントのことをトムさんも覚えていたし、ベンモントもトムさんのことを覚えていたことだ。[Runnin' down a dream](本)によると、楽器店で [Sgt. Pepper] を一通り弾いた少年に、トムさんは声を掛けて自己紹介をしたらしい(トムさんだってせいぜい15か16の少年だが)。少年は Benmont という変わった名前を名乗ったこが印象的だったという。一方、ベンモントはトムさんのことを「ブライアン・ジョーンズみたな髪型の人」と記憶していた。確かに、金髪のマッシュルームならそうだろう。

 さて、"When I'm Sixty-Four"。こういう曲を聞くと、ポールは本物の天才だったのだと実感する。ジョンやジョージとはまったく異なるタイプの才能の持ち主で、彼がロックという分野を選ばなくても、ある程度ポップスの分野で成功できたのではないだろうか。
 この曲の鍵は、2本のクラリネットと、1本のバスクラリネット。ジョージ・マーティンの手腕の見せ所だ。



 この3人のクラリネット奏者はどこの誰なのか。Wikipediaには名前しかあがっていない。
 ビートルズのレコーディングでオーケストラ楽器を使う場合、よくロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラのメンバーが呼ばれているので、彼らもそうではないかと想像している。
 そのようなわけで、ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラがモスクワで公演したときの、"When I'm Sixty-Four"。



 ついでにもうひとネタ。
 現在、ベルリン・フィルの主席指揮者はリヴァプール出身の英国人サイモン・ラトルだが、彼が2013年にコメントしているのが面白かった。2018年、自分が64歳になったら、主席指揮者をやめるというのだ。

"As a Liverpool boy, it is impossible not to think of the Beatles' question, 'Will you still need me.., when I'm 64?'"

 64歳というのは、指揮者にとってきつい年齢だろうか?ポールだって64歳をとっくに過ぎても相変わらず元気にやっているし、ベンモントも今年で64歳になる。
 ラトルは2018年にベルリン・フィルは辞めるとしても、その後も活躍するだろう。