Un Sospiro2017/04/06 20:26

 去年、ピアノでスカルラッティを弾いた後、リストの「三つの演奏会用練習曲 第3曲」を弾いていた。
 タイトルをこう書くとピンと来ないかも知れない。「ため息」という通称で良く知られている曲だ。
 「ため息」はショパンの「別れの曲」のように、日本でだけ通じる通称なのかと思ったら、どうやら "Un Sospiro" でも広く知られているようだ。ウィキペディアによると、リスト自身がつけたわけではなく、フランスの出版社がつけたらしい。特にこの「ため息」は素晴らしいネーミングだ。

 どういう訳だか、この曲が収録されているCDを持っていない。ルービンシュタインのリスト集に入っていると思い込んでいたのだが。
 YouTubeでいくらかの演奏を聴いてみたが、いずれも「ため息」というには、やや威勢の良い、賑やかな演奏が多い。冒頭に関しては、もっと密やかで、静かな演奏が好きだ。
 ここでは、チリ出身、20世紀の伝説,クラウディオ・アラウの演奏。



 ちなみに、この動画に使われているリストの肖像画は、ハンガリー,ブダペストにあるリスト記念博物館所蔵のもの。悲鳴をあげる女性に追い回される音楽家のルーツのような人なので、この肖像画もそういう雰囲気を意識しているに違いない。

 アラウの演奏は、コーダのところが、私が弾いた版とは異なる。
 
 「ため息」には、古い古い想い出がある。
 まだ私が 4, 5 歳の頃のこと。生まれて初めて、ピアノの発表会というものに出た。椅子から両足をぶらぶらさせている初心者なので、当然発表会の冒頭に弾いたと思う。
 その発表会のトリが、この「ため息」だった。あれを弾いたのは、現役音楽大学生だったのだと思う。音大生というものは、こういうものなのだ、これがピアノだという印象を強くしたと同時に、「ため息」というタイトルが記憶に焼き付いている。
 あれから数十年、私が「ため息」を弾いている。あの音大生だった人は、いま、どこでどうしているのだろうか。知る術もないが、ただ名曲「ため息」の美しいメロディだけが、今もかわらず流れている。