Mudcrutch Live 20162017/01/19 22:16

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのファンクラブ,Highway Companions Club の豪華プレゼント第二弾が届いた。2016年,マッドクラッチ・ツアーから、トムさんの選曲による16曲をおさめたライブ・アルバムのダウンロードだ。
 16曲なんて、なんて豪華な!マッドクラッチの2枚のアルバムからはもちろん、名曲のカバーもある。さっそくダウンロードしてリピートしている。



 こんな、引き裂かれそうなアルバムはない。まさに、心が引き裂かれそうになるアルバムだ。

 音楽を聴いていて、こんな感想を持つことは、ほとんど経験がなかった。
 心が引き裂かれるというのは、「良い」という感想と、「悪い」という感想がせめぎ合って、どうしようもないということである。

 良いというは、素晴らしい曲を、素晴らしく演奏し、私を感動させる、そういう力が音楽に宿っていると言うこと。
 「悪い」というのは ― ここは言葉を選ぶのが難しい。もの凄く無遠慮に、鋭く、直裁に言えば、演奏が下手だということ。もう少し言葉を選べば、演奏の評価に対する価値感,センスが合わない。

 ここでいちど、マッドクラッチというバンドが何者であるかを、振り返っておこう。
 元々は、1970年代初頭に、トム・ペティと友達のトム・レドンが組んだバンド。このトムトム・コンビはかなり仲が良かったらしい。レドンは、イーグルスのバーニー・レドン(リードンとも表記する)の弟。
 そのマッドクラッチに、ドラマーのランドル・マーシュとギターのマイク・キャンベルが加わった。後にレドンが脱退し、ベンモント・テンチが加入する。
 他にも数人のメンバーが在籍したことがあるマッドクラッチだが、LAに出てレコード会社と契約,録音も行ったものの、上手くきっかけがつかめず、解散。マッドクラッチ・メンバーのうち、トム・ペティとマイク・キャンベル,ベンモント・テンチが、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを結成して、大成功したというわけ。
 2006年にデビュー30周年企画でハートブレイカーズのドキュメンタリー映画が制作された際、トム・レドンとランドル・マーシュがインタビューに登場。これがきっかけとなり、トム,マイク,ベンモント,レドン,マーシュの5人で「第二期マッドクラッチ」が再結成され、2枚のアルバムを発表し、ツアーを行うに至る。

 さて、以上を踏まえて。
 ライブで演奏される曲はどれも最高。トム・ペティのヴォーカルも、いつものとおり素敵。マーシュも1曲でリード・ヴォーカルを務めるが、これもなかなか上手いし、自作の曲もかなり良い。レドンとマイク,ベンモントのヴォーカルは素人の域を出ず、まぁ、ご愛敬というところか。バーの常連のおじさんがステージにあがった感じ。コーラスは、サポート・メンバーのハーブ・ピーターソンもいるので、けっこう上手く行っている。
 バンド演奏のほうも、だいたいOKなのだ。トムさんのベースに問題はないと思うし、マイクとベンモントは、当然素晴らしい。レドンのギターに難も無いし、ピーターソンのサポートも相まって、うまくまとまっている。

 しかし。しかしなのだ。
 ランドル・マーシュのドラムだけが、どうしても受け入れがたい。
 普通に刻んでいるうちは良い。しかし、やたらとフィルイン(「おかず」とも言う)が入り、それがどれも気に入らない。バタバタして、収まりが悪く、締まりがない。悪目立ちが過ぎて、イライラする。"The wrong thing to do" などはあまりのメチャクチャぶりに、発狂しそうになった。
 感性ではなく、理性で判断すれば、マーシュもそれなりのドラマーであるはずなので、これは、たぶん音楽的価値感の違いでしかないのだろう。彼のドラミングが気に入らないと言うことは、スタジオ録音アルバムの時から、ずっと思っていたのだ。
 とにかく、スタン・リンチやスティーヴ・フェローニの時は、心地よく聴いていたのに、このバンドのドラムとはどうしても合わない。

 "Scare Easy" や、"Hope" など、マッドクラッチのオリジナル曲はどれも素晴らしいし、"Lover of the Bayou" や "Knockin' on heaven's door" のカバーなど、涙が出るほど感動的。なのに、どうしても駄目なドラムのフィルインがついて回る。
 まさに心は引き裂かれ、どうしようもない気持ちになる。胸が一杯になりながら、身もだえするほど、気持ちが悪い。

 普通のバンドなら、「ドラマーをかえろ!」ということになるのだろうが、マッドクラッチは結成の経緯からして、それはあり得ない。これはそういうバンドなのだと諦めて、良さのほうに耳と心を傾ければ、何度も聞けるアルバムなのだ。実際、何度も聴いている。
 ヘッドホンから聴いているから、ストレスなのであって、ライブ会場で興奮しながら聴いていれば、きっと幸せなままなのではないだろうか。とにかく、ヴィルトゥオーソとそうでない人のバンドは、存在しているだけでも大した物で、それがなかなか興味深い存在でもある。

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