国立音楽大学 創立90周年 特別記念演奏会2016/06/14 21:28

 「こくりつ」ではない。「くにたち」音楽大学である。通称、「くにおん」
 1926年創立で、今年90周年を迎える。音大としては歴史の古い方で、私学では日本で一番古い。校名は東京都国立市にあったことに由来しているが、現在大学は立川市に移転し、高校から幼稚園までが国立市にある。
 創立90周年記念事業として、様々なコンサート、レクチャー、講義などが開催されている。そこで、6月12日にサントリーホールでの音大オーケストラと合唱による演奏会に行った。



 指揮は、準・メルクル。日本人と、ドイツ人の間に生まれた彼は、オペラ指揮者としても多く活躍しているが、NHK交響楽団との共演も多く、管弦楽の指揮でもテレビでよく見る。現在、国立音大の招聘教授だそうだ。
 オーケストラは国立音楽大学の学生が中心。一部OBや先生もいるようだが、ほとんどが学生だ。合唱は学生だけだろう。

 曲目はまず、武満徹の「セレモニアル」。オーケストラの演奏の前後に、笙の独奏が入ることが特徴。演奏は宮田まゆみ ― 先生。もともと、武満は彼女を想定して、この曲を作ったと思う。宮田まゆみ先生には、私も音大時代、雅楽でお世話になった。
 残念ながら私は武満のファンでもないし、雅楽は古典が一番良いと思っている。それでも、サントリーホールに笙の音が響くとぞくっとする。
 オーケストラ・パートは、ちょっと自信がなさげで、曲を掴み切れていない感じはする。メルクルが一生懸命引っぱっていく実感が伝わってきて、やはり学生の拙さは隠せないのだということと、良い勉強をしているということを実感する。

 二曲目はベートーヴェンの交響曲第九番「合唱つき」。
 舞台にオケと合唱が揃ったところでわき上がる拍手。思わず笑ってしまった。武満のときと、盛り上がりが違う。合唱メンバーの家族もいるだろうし、殆どの人が第九目的で来ているのだろうから。

 第一楽章は、まずおっかなびっくり。管楽器が慎重だ。確かに学生の技量なので多くは期待できないのだが、それにしても勢いがない。弦が入って、やっと曲が前に進む感じ。
 第二,第三楽章になると、だんだん滑らかに、余裕のある演奏になってきた。
 しかし、問題は第四楽章だった。第九は全曲で70分ほどかかる。体力を消耗する管楽器にとって、第四楽章がきつかったらしい。第一楽章が慎重だったのは、第四楽章のための体力温存だったのだろうか。
 二回目のテーマが始まったところで、管が大崩れを起こしてしまった。間髪を入れず合唱と独唱が立ち上がる。独唱は立派なプロなので、大崩れに惑わされない。合唱もさすがに完成度が高い。
 一度はオケも持ち直すのだが、繊細な表現で難しいトルコ行進曲のパートになると、ピンチ再び。管が息も絶え絶え。メルクルはテンポを落とさず、逆にどんどん上げていく。おそらく、テンポを緩めると、息がもたず、演奏をキープできなくなるのを防いでいるのだろう。
 技量に差のある二者が同時に同じ曲を演奏すると、もの凄いことになるのだ。
 終盤は、合唱が圧倒的な技量でホールに音楽の渦を巻き起こす。メルクルも、合唱の実力を信頼している感じが非常に強い。合唱の学生達自身も、自信をみなぎらせているのが分かる。

 同行した友人も言っていたのだが、「第九」という曲は、最後までやりきると、否応無しに感動する。あの失敗も、あのグダグダも、大崩れも、すっかり過去のことになり、幸せな気持ちだけで終わる。合唱が上手ければ、なおさらだ。
 フィナーレを迎えた瞬間の盛り上がり、大喝采、舞台に満ちる満足感。やれ俗っぽいとか。作曲者の自意識過剰だと、あれこれ言われるが、結局は否定のしようのない名曲なのだ。
 オーケストラに関しては、まだまだ成長途中。もっと体力をつけて、大きな曲を最後まで余裕をもって演奏し切る技量を身につけて欲しい。
 そんな厳しいことを言っているが、管楽器の学生達はよくやったと思う。人数も少ないし、ピアノやヴァイオリンに比べると演奏キャリアも短いだろう。そんな彼らには第九は荷が重かったと思うが、本当によくやった。

 合唱はさすがの上手さ。第九のために国立を目指す人が多いのだから、当然だろう。

 テレビで見るメルクルは笑顔が印象的だが、指揮する体全体が笑顔のようで、気持ちの良い人だった。あきらかに劣るオーケストラを鼓舞し、励まし、褒め、アドバイスを繰り返したに違いない。学生達にとっても、良い経験になっただろう。
 とても印象が良かったので、彼の指揮をほかでも見たくなった。オペラなどはどんな感じなのだろうか。

 天気の良い休日に、友人と楽しくお喋り、食事、素晴らしいコンサートホールで名曲の鑑賞。贅沢な一日になった。

 帰りに、のど飴をもらった。カンロと国立音大が共同開発したとのこと。音大生と、のど飴。あるある。

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