Fallen Angels2016/05/31 22:22

 マッドクラッチの [2] と同じ日に、ボブ・ディランの新譜 [Fallen Angels] が発売された。
 前作の [Shadows in the Night] と同じく、ほぼフランク・シナトラのカバー。



 ディラン様のファンなので、これでもけっこう我慢したのだ。前作のレビューを見直すと、一生懸命に褒めようとしている。丁寧な歌い方とか、実はその前のオリジナル楽曲アルバム [Tempest] と関連しているとか。
 でも、レビュー後半になると、シナトラのオリジナルを聴いてしまい、あまりの上手さ(要するにディランが良くないということ)に愕然としていた。それでいて、別にシナトラをもっと聴きたいとも思っていない。
 今回の [Fallen Angels] の感想 ― 無駄な抵抗はやめて、率直に言うと、良くも何ともないし、興味のない音楽。一度聴けば十分で、iPodからは削除する。

 それでもディラン・ファンかと非難されそうだが、仕方がない。[Fallen Angels ] を一度聴いてから [Tempest] を聴いたのだが、なんて素晴らしいのだろう。ディランが、ディランの言葉で、ディラン自身が作った曲を「身勝手に」歌うさまが、何と格好良い事か。
 何歩か譲って、カバーを聴くにしても、せめてロックの分野であれば、好きにもなっただろう。ブルースでも、ゴスペルでも良い。でも、フランク・シナトラは好きではない。
 シナトラは素晴らしい音楽家だということを知識で知っているし、それなりにリスペクトもしている。歌もすばらしく上手い。だが、決して好きなジャンルの音楽ではない。たとえ、大好きなディランが「影響を受けた」と主張したとしても、その認識は変わらない。

 長いディランの音楽作品歴において、私にはほとんど「苦手な時期」がない。70年代末から80年代の宗教的な時期ですら、かなり好きだし、21世紀に入ってからのアルバムも好きだ。でも、さすがにフランク・シナトラのカバーは興味がない。
 後年、この二つのシナトラ・アルバムの評価が高くなるかも知れないし、今現在も、激賞されているかもしれない。ともあれ、今の私にはどうしても興味が湧かないし、聴きたい音楽ではない。

 先月のライブはとても良かったし、楽しかった。しかし、3回は見ても4回は見なかったのには、理由がある。シナトラのカバーが彼のオリジナルほどは良くないからだ。

 ディラン自身がいかにシナトラ好きだと言っても、人には得意分野というものがある。
 よく、ベテラン・ロック・ミュージシャンが、「ジャズが好きだ」などと言ってジャズを録音したりするのだが、器用にこなしているだけで、ジャズの才能があるわけでもなく、大して面白くはない。
 ポール・マッカートニーや、ビリー・ジョエルが「クラシック音楽」を作ったこともあるが、彼らがその天才性を発揮しているポップスほどの評価は、到底受けていないだろう。
 どんな天才にも、不得意分野はきっとある。ベートーヴェンだって、オペラは他の楽曲ほどには良くないし(序曲は別だが)、ショパンのオーケストレーションなんて、他の大家たちに比べるとかなり残念だ。

 ディラン様が自分が好きなことをやって、活躍しているのは大いに喜ばしい。ファンとしても嬉しい限りだ。それはそれとして。ディランが彼の得意な、自分で作詞作曲したの音楽を録音し、演奏してくれることを私は待っている。