It Is He (Jai Sri Krishna)2014/10/19 21:51

 引き続き、[The Apple Years] から [Dark Horse] と [Extra Texture] を繰り返し聞いている。

 [Dark Horse] はジョージの声の調子の悪さやバランスの悪さ("Bye Bye Love", "Dark Horse")がやや気になるものの、楽曲は粒ぞろい。良い曲が多い。
 インド哲学も、宗教もまったく分からないが、"It Is He (Jai Sri Krishna)" は良い曲だと思う。マントラが繰り返され、宗教色の強い英語の歌詞も相まって難解な、とっつきにくい内容のはずが、曲がもの凄くポップなところが良い。
 テンポも良いし、ジム・ホーンらの吹くフルートが爽やかだ。



 日本語の解説では「ジョージの弾くモーグ・シンセサイザーが曲の色彩を支配している」とあるが、私とは意見が合わない。色彩で言ったら、断然フルートの方が効果的ではないだろうか。それから、曲を「支配」しているのは音色ではなく、どちらかと言えばリズム。
 特に曲の最後の方で顕著になるマンジーラの音。あの小さなシンバルをたたき合わせるような音の軽快さ。

 そして、この不思議な楽器。Wobble Board。ウォブル・ボードというらしい。検索してみると、もっぱらエクササイズ用のゴム製ボール状の物が出てくるが、このジョージの楽曲に使われた打楽器としてのウォブル・ボードは、文房具の「下敷き」のようなもの。あれをたわませて、ワンポカ・ファンフォカと音を出した経験は誰にでもあるだろう(ちなみに、下敷きというのは日本以外ではあまり馴染みのない物だそうだ)
 "It Is He" でウォブル・ボードを演奏しているのは、大御所パーカッショニストのエミル・リチャーズ。1932年生まれ。[Concert for Geogre] での超強力打楽器軍団の中でも存在感のあるあの人だ。



 YouTubeの音だと、ウォブル・ボードの音はあまりはっきりとは聞き取れない。今回のリマスターを、性能の良いヘッドホンで聴くと良いだろう。

 ウォブル・ボードというのは、オーストラリア出身ののミュージシャン,コメディアン,イラストレーター,テレビパーソナリティ…つまるところ、マルチ・タレントのロルフ・ハリスが有名にしたとのこと。英国では非常に有名なハリスが、最近逮捕されていたと知ってびっくりした。
 ともあれ、ウォブル・ボードを用いた代表曲 "Tie Me Kangaroo Down Sport"



 1960年に発表されたこの曲はオーストラリアではチャートの1位を獲得し、UKでもトップ10に入った。その後、あのジョージ・マーティンのプロデュースで再録音して、UKチャートで3位を獲得している。
 当然、ジョージにとってもお馴染みの曲だったわけで、"It Is He" を録音するときに、ジョージはこの曲のあの音が欲しいと思って、エミル・リチャーズに弾いてもらったのではないだろうか。