Walk Away Renée2014/07/03 21:47

 前回の、ディラン様ラジオこと [Theme Time Radio Hour] のテーマは、"Walking"。
 1966年レフト・バンクの "Walk Away Renée" がとても印象的だった。
 私はこの曲を、先にフォー・トップスのカバーで知っており、寡聞にしてもともとレフト・バンクの曲だとは知らなかった。いかにもモータウンの作曲チームが作りそうな良く出来た曲だと思っていたのだ。

 まずは、ディランが流したレフト・バンクのオリジナルから。



 曲は完璧というほどの素晴らしい作品でありつつ、ヴォーカルはかなり弱いという対照性が面白い。しかもコーラスもかなり怪しい。
 しかし、この不完全性がロックンロールの良さでもある。遠い存在ではない、近所の少年達のような親近感と、素晴らしい音楽の取り合わせが、ロックが人々の心を掴む要素なのだと思う。ロックが、クラシックのような完璧な技術の音楽だったら、これほど魅力的ではなかっただろう。

 このレフト・バンクの "Walk Away Renée" は、ディラン曰く「天才少年」だったマイケル・ブラウンが主な作曲者。当時、なんと17歳だったというのだから驚きだ。彼はバンドメイトの恋人だったレネに恋をして、その感情がこの曲に昇華されたのだと言う。つまり、"Layla" のティーンエイジャー版か。

 ハープシコードや、フルートなど、普通ロックでは用いられない楽器を使っているので、「バロック・ロック」なるジャンル名まで出来たらしいが、「バロック音楽」の神髄はポリフォニー(多声音楽)だと思っている私には、あまりピンとこない。フルートのメロディの下で、ハープシコードは分散和音を弾いているだけではないか。その点で言えば、ビートルズの "In My Life" のほうがよほど出来が良い。
 「バロック」かどうかはとにかく、ロックに上手く他ジャンルの楽器を用いた好例といったところだろう。

 さて、私が先に聞いていたのが、このフォー・トップスのカバー。レフト・バンクが発表した翌年、アルバム [Reach Out] に収録されている。



 さすがにヴォーカルの素晴らしさは比べようがない。コーラスはもちろん完璧だし、リード・ヴォーカルの情熱的な表現も素晴らしい。
 オーケストレーションは、ハープシコードにフルートなどという可愛らしい編成で許されるはずもなく、ぶあついストリングスに、ソロはトランペット。ゴージャスで感動的。私はこのヴァージョンを先に聞いているだけあってこちらも大好きだ。

 一方、2006年にリンダ・ロンシュタットと、アン・アヴォイが彼女たちのアルバムに "Walk Away Renée" のカバーを収録したとのことで、聞いてみたのだが、これはイマイチ。
 優しく穏やかな演奏ではあるが、悲壮感や苦しみが抜けてしまい、端正すぎて面白くない。レフト・バンクのあのヨレヨレ加減からあまりに乖離すると、この曲の良さは失われるのかも知れない。