Inside Llewyn Davis2014/06/15 20:21

 コーエン兄弟監督の映画「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」[Inside Llewyn Davis] を見た。
 1961年ニューヨークはグリニッジ・ヴィレッジ。フォーク・シンガー,ルーウィン・デイヴィスの1週間を追う映画だ。

 かつては相棒マイクとレコードを出したこともあるフォーク・シンガーのルーウィンは、今ではソロ。レコードは出したが、ろくすっぽ印税も入らず、もちろん鳴かず飛ばず。仲間のよしみでガスライト・カフェで歌い、同様の仲間や理解者たちの家に泊めてもらい、寝るところをなんとか確保する毎日。
 ある日、ひょんな事からネコを連れて歩くはめとなり、あれこれあった仲間の女性フォーク・シンガーには罵倒され、お金が必要になる。レコーディングセッションで得た払いを手に、短い旅に出て、奇妙な体験をしつつ、失望を抱えてニューヨークに帰る。
 そしてまた、ガスライトで歌う夜。いつもと同じようで、どこか違う夜…




 元になったのは、デイヴ・ヴァン・ロンクの自伝だそうだ。「インサイド」というアルバムタイトルや、レコードジャケットの構図も同じだ。
 しかし、私にとってはやはり「ボブ・ディラン自伝」の世界。冬のグリニッジ・ヴィレッジの風景、地下鉄、流れるフォークソングの数々。ニューヨークに行きたくなる。ボブ・ディラン・ファンなら必見の映画だ。
 化け物のようなジャズマンも印象的。何が何だか分からないキャラクターだが、とにかく演奏シーンはなく、単純なコード進行を馬鹿にしている。一方で、所々にクランシー・ブラザーズや、PPMを彷彿とさせるシーンやほのめかしがあるし、当然「あの人」もその内の一つ。
 それから、ネコの名前が秀逸。そういえば、同じコーエン兄弟監督の映画「オー!ブラザー」も、本作品のネコの名前が鍵になっていた。

 音楽は全編に流れるフォークソングの数々が素晴らしい。これはサウンドトラックが欲しい。主演のオスカー・アイザックを含め、ほとんどの楽曲を、演者が自ら演奏しているそうだ。
 劇中に流れるボブ・ディランの曲は、"Farewell"。[Witmark Demo]とは別バージョンだそうだ。この曲は、アイルランド民謡 "Farewell to Liverpool" と同じ曲であり、私のお気に入りでもある。



 アイルランドと言えば、ルーウィンが歌う "The Death of Queen Jane" も印象に残った。
 この曲自体は、イングランドのもの。「王妃ジェーン」とは、ヘンリー八世の3人目の王妃だったジェーン・シーモアで、彼女は王子を産んだ直後に亡くなっている。この曲はその王妃ジェーンの死と、王ヘンリーの嘆きを歌っている。
 ちなみに、ジェーンの忘れ形見である王子は後にエドワード六世として即位した。マーク・トウェインの童話「王子とこじき」のモデルにもなった人物だが、15歳で夭折し、直後に「九日女王ジェーン・グレイ」の事件が起きている。
 "The Death of Queen Jane" は、アイリッシュ・モダン・トラッドの雄,ボシー・バンドが録音している。



 ボシーの演奏は訛りなのか、言語の問題なのか、かなり歌詞が聴き取りにくく、一部違うところもあるようだ。
 こちらは、ルーウィンこと、オスカー・アイザックの演奏。