夜川を下る2010/09/25 21:08

 北軍のグラントが、落そうと躍起になっているヴィックスバーグを地図上で確認すると、以下のようになる。
 (それにしても、アメリカの地名は同じような名前ばかりが散らばっている…)



 大まかに言えば、テネシー州の州大都市メンフィスと、ミシシッピー川河口ニューオーリンズの中間にある、ミシシッピ―川沿いの要衝が、ヴィックスバーグである。
 ニューオーリンズや、モービルと言ったメキシコ湾沿いの主な港は、デイヴィッド・ガラファット("Damn the torpedoes !" の記事参照)らの北軍海軍によって押さえられているし、メンフィスもすでに北軍の手に落ちている。しかしその中間のヴィックスバーグが南軍の支配下にある以上、ミシシッピーを制圧したことにはならなかった。

 ヴィックスバーグは天然の要塞のようなものだった。ミシシッピー川東岸に位置するのだが、川側は切り立った崖になっている。周囲はバイユーと呼ばれる低湿地が点在する。グラントは、まずは町の東側から攻めようとした。しかし、それが南軍の騎兵の働きや、しっかりした防御姿勢で抵抗する南軍相手に成果を上げられなかったのが、1863年初頭までの状況である。
 次にグラントは、町の西側から攻撃をしようと試みた。しかし、地形的には地図もないバイユーの存在に、さらに悩まされることになった。伝染病の蔓延や、悪条件下での長い野営が士気にも影響する。グラントは常に地図制作のために探索を出したり、湾曲するミシシッピー川間に運がを掘削するなどして、士気の維持に心を砕いた。

 春になることには、粘り強いグラントもさすがに、西側からのヴィックスバーグ攻撃に見切りをつけた。やはり彼は、当初の考え通り、東から攻めることにしたのである。あまりのんびりしていると、もう一つの西部戦線であるマーフリーズボロ方面から、南軍の援軍が来てしまう。
 では、43000もの北軍兵士を、どうやってヴィックスバーグの東側に展開するか。まず、北のメンフィス方面に一度兵士を戻して、川を東側へ渡るという方法。安全だが、一見「後退」とも取れるため、北部連邦マスコミや、リンカーンの心証などを考慮に入れると、グラントには好ましくなかった。
 そこでグラントが取った作戦は、「南下して渡河する」というものだった。前述したように、メンフィスは北軍支配下であり、北軍海軍の一部はヴィックスバーグより北側のミシシッピー川に展開していた。
 グラントはこの海軍艦隊を、夜の闇に乗じて、ヴィックスバーグの眼下を通過させ、さらに南側に移動させようとした。その移動先には、川の西側を陸路南下した兵士たちが待っており、ここで彼らを軍艦で大量に渡河させようという作戦である。単純で迅速な作戦だが、ヴィックスバーグからの一斉放火を海軍がまともに浴びれば、大損害以外の何物も得ないという、危険性も持っていた。しかし、そこはグラントという将軍向きの男のこと。やる価値はあるとして、決断は下された。
 グラントは陸路での兵士の南下を気付かれないよう、シャーマンの部隊を、ヴィックスバーグ北方で活動させるなど、下準備もほどこした。そして4月にはこの作戦は実行に移された。北軍陸軍兵士たちは、ミシシッピー側西岸を南下し、ヴィクスバーグより30kmほど南のハード・タイムスで北軍艦隊を待った。

 一方、デイヴィッド・ポーター率いる北軍海軍は、1863年4月16日の夜、一斉にミシシッピー川を下り始めた。さすがに「鞭声粛々」という訳には行かない。ヴィックスバーグの南軍見つかり、砲撃を受けたが、北軍艦隊はそれほど大きな損害を受けることなく、ヴィックスバーグを通過することに成功した。
 ヴィックスバーグの南軍は、大きなチャンスを逃したことになる。夜の軍艦による移動という危険を犯すはずがないと思ったのか、そもそも川側は断崖絶壁であるため、まともな攻撃があるとは思わず、砲の配置が手薄だったのか。それとも、この艦隊の移動の本当の意図(北軍兵士の南での渡河)には全く気付かなかったのか…

 グラントの計画では、ハード・タイムズで渡河しようと考えていたのだが、東岸にある北軍の砦,グランド・ガルフが存外強固な拠点だったため、ここでの渡河を諦め、さらに15kmほど南下したブルーインズバーグで、渡河に成功した。時に、5月1日。
 それまで、ヴィックスバーグを攻めあぐね、あちこちの方向から突っついたり、撃退されたりし続けた北軍は、東側から回り込み、ヴィックスバーグを包囲した。戦況は籠城戦という局面を迎えた。

コメント

_ dema ― 2010/10/11 23:03

こんにちは
時間的流れから行くと、マフリーズボローの戦いは省略になりますか?

ところで、bayouといえば、オールマンブラザースバンドのramblin manに、

They're always having a good time down on the bayou
Lord, them Delta women think the world of me

っていう一節があったなって思い出しました。ただ、この歌詞はちょっと深い意味があるかな?
実際どんな感じだったんだろうなって思います。
そういえば、僕の住んでる関東平野,下総国も、昔はかなり湿地帯だったみたいだし。

_ NI ぶち ― 2010/10/12 22:45

>demaさん
こ、こ、こ、こんにちは!マーフリーズボロ?マママママーフリーズボロですね!はい、ただいま!(ドスン!バタン!)えええ…っと…あれ?んーと、マーフリーズボロボロ?(す、ストーンズリバー?!)お正月?!少々お待ちを!…

 はい!(ふぃ~ッ(汗))去年(去年か!)の5月に記事にしておりました!「テンチ家の兄弟(その7)」です!
我ながら、なーんにも覚えていません!ヒドイなぁ…私もしょーもないですなぁ。いやなに、まだ南北戦争かじり始めたばかりですから。なんか地名が全部同じに思えるのです(笑)。
 去年の5月か!それは古いなぁ。テンチ家の兄弟の名前を忘れかけてますよ。

Ramblin manにそんなイカした詞が!けっこう好きな曲なんですけど、サウンドに気を取られて、詞に気を留めていませんでした。
私が住んでいる方は、関東の中でも丘陵の方です。あ、でもオフィスは低い土地で、昔は溜池があったんです。地震があったら、水につかるかも…。

_ dema ― 2010/10/12 23:34

失礼しました。見落としてました。
しっかり記事になってましたね。
それにしても、前の記事に興味深いものがたくさんありますね。
そのうち、とんでもなく前の記事にコメント入れさせてもらいますのでよろしく。

_ NI ぶち ― 2010/10/13 23:09

>demaさん
どんどん昔の記事にもコメント下さいませ♪
そもそも、どうしてこの音楽ブログで南北戦争記事が連載されているのか…!?きっかけがアレですからね(笑)。バンドに一人、お坊ちゃまが居るってのもおつなものです♪

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