Knockin' on Heaven's Door2010/04/29 22:42

 私には、音楽や映画をレンタルするという習慣がない。そもそも、映画をそれほど見る方でもない。数少ない鑑賞映画は、DVDを購入してということが多い。買ってしまった以上、良い映画であってほしい。その意味で、「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」は大当たりの映画だった。

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア Knockin' on Heaven's Door

 タイトルこそ英語だが、1997年のドイツ映画。監督はトーマス・ヤーン。主演の一人である、ティル・シュヴァイガーは、監督と共同で脚本と、制作を担当している。

 ツッパって無茶ばかりするマーチンと、小市民的でお人好しのルディ。見ず知らずの二人は、それぞれ脳腫瘍と骨肉腫で余命わずかと宣告され、病院の同室に入れられる。やけになって二人でテキーラを飲むうちに、ルディは海を見たことがないと言い出す。すると、マーチンが言う。「今、天国じゃみんなが海の話をするんだぜ。でも、お前は見たことがないからのけものだ。」…
 死ぬ前に一度、海を見るために二人は病院でベンツSL230ベイビー・ブルーを盗み、走り出す。ところがこの車は、とあるギャングの車。さらに二人は、お尋ね者として警察にも追われる身に。こうして、海を目指す男二人と、ギャング、警察の逃走・追跡劇が始まる…

 登場人物二人の名前 ― マーチン・ブレストは映画「ミッドナイト・ラン」の監督から、そしてルディ・ウーリッツァーは、映画「パット・ギャレット&ビリー・ザ・キッド」(ディランが出演,主題歌 "Knockin' on Heaven's door" を提供)の脚本家から、それぞれ名前を取られている。これれらの事実からも、この映画がどんな作品かが、いくらか語れるだろう。
 基本的に、かなり良くできたコメディ。スティック・スラップであり、マヌケな味わいがあり、全てが憎めない素敵なコメディだ。特にマーチンとルディを追うギャングのコンビが面白い。とことん抜けているくせに、腹いせにやたらと銃をぶっ放す。銃と言えば、警察(ポリツァイ!)もすっとぼけていて最高。
 一番似ている映画を探すとすると、「ブルース・ブラザーズ」が良いかもしれない。使われている音楽も格好良いものばかり。「エルヴィス」が重要なファクターになるところが、なかなか上手い。さらにカーアクションも抜かりがない。



 やはり印象的なのは、マーチンとルディの関係。この二人は余命わずかという状況で出会い、それぞれに「海を見る」という以外に定めた「叶えたい望み」 ― 一方は泣ける望みで、もう一方は笑える望み ― を叶えるために大暴走を繰り広げる。
 最初はマーチンが一方的にルディを引っ張っていくのだが、やがて二人の人格はまるで融け合うように重なっていく。次第に露わになっていく、マーチンの弱さ、ルディの強さ、そして二人に共通する優しさが二人を結び、友情なんてありきたりの名前では表現できない絆となっていく。それがコメディで展開していくのだから、悲しいのやら可笑しいのやら。
 私が好きなのは、救急車のシーン。


 なんだかもう、音楽とか、絶妙な間とか、とにかく最高。

 映画の序盤でマーチンが口にした言葉を、ルディが終盤に繰り返すのだが、それもかなりグっと来た。そしてラストシーン。このラストシーンだけでも何度も繰り返して見てしまう。
 映画のタイトルにもなっているディランの "Knockin' on Heaven's Door" は、ゼーリッヒ(Selig)というドイツのバンドがカバーしている。このバンドはいわゆる「グランジ」というジャンルらしく、ルックスを含めて私の好みではない。しかし、この "Knockin' on Heaven's Door" のカバーは最高。特に、リフレインに入る前に、たっぷり5小節取るところがすばらしい。iTunesで一曲買いしたのだが、通常版よりも、映画で使われた長いバージョンが良い。ギターソロが秀逸。

 ともあれ、コメディと、ロードムービーと、格好良い音楽と、男の友情が好きな人にはお勧めの、名作映画。
 私が持っているDVDは、日本語の字幕しかついていないのだが ― 吹き替えも欲しい。それから、ドイツ語の字幕も欲しい。気になるセリフとか、実際にはどう言っているのか興味がある。
 この映画リメイクした日本映画があるそうだ。主演は長瀬智也と、福田麻由子。主人公ををイケメン青年と、美少女にしてしまった時点で、もう駄目なような気がするのだが。イイ歳した男二人がやらかすから、面白いんじゃないか…。