リーの完璧な戦い ― 2009/10/31 01:15
1863年5月1日、フッカーが樹海の中 ― チャンセラーズビル付近に北軍の主力を集結させた時、彼の思い描いた展開は、おおよそ次のようなものだったろう。
1.ラパハノック川東岸には、北軍のセジウィックが3万の兵とともに残っており、対岸フレデリックスバーグを拠点にしていたリーの南軍は、ここを空にすることができない。
2.しかし、北軍の主力13万はフレデリックスバーグの西チャンセラーズビルにあり、リーはただでさえ少ない兵力(6万)を分割して、チャンセラーズビルの北軍に立ち向かわねばならない。
3.両軍の南方には、北軍騎兵のストーンマンが撹乱行動を起こして、北軍が南部連合の首都リッチモンドを脅かそうとしているように見せかける。
4.リーは3.故に南に気を取られつつ、チャンセラーズビルの北軍に攻撃をしかけるが、北軍は圧倒的な数で押し返す。
5.時を同じくして、セジウィックがフレデリックスバーグを攻撃。南軍は、東西双方から挟み撃ちに遭う。
6.リッチモンド方面も気がかりな南軍は、一気に崩れて退却する。
1.と2.は、ほぼフッカーの思い通りに進行した。確かに、リーはデュバル・アーリー少将に1万2000を預けてフレデリックスバーグを守らせ、自分は残りを率いてチャンセラーズビルに向かった。
しかし。3.のストーンマンに関してはかなり早いうちに南軍のスチュアートがフェイクであることを見抜いており、リーにほぼ無視されたと言って良い。しかも、見破られていることにフッカーが気付いていなかった。
リーは4.のとおりにチャンセラーズビルの北軍に攻撃を仕掛けるのだが、その方法はフッカーの想像したものではなかった。リーは、さらに兵力を分割したのである。これは天才のなせる技で、真似をしない方が良い。分割された第二軍2万5000は、ストーンウォール・ジャクソン中将に率いられて、一路チャンセラーズビルの西側に迂回を始めた。時に5月2日。
樹海の中とはいえ、ジャクソンの行軍は北軍に見つかり、小さな戦闘が起きた。しかし、リーが圧倒的に少ない兵力でもって挟撃をたくらもうなどとは、フッカーは夢にも思わなかっただろう。ジャクソンの行軍はストーンマンの撹乱作戦に釣り出され、南方リッチモンドに向かう物だと判断されたため、ほぼ放ったらかしになった。
しかも、例によってスチュアートの騎兵が北側でバタバタと活動し、北軍の注意をそらすことに成功していた。
リーからは「迂回して西側から北軍を攻撃」程度の簡素な指示しか受けていなかったジャクソンだが、この天才的な勘を持つ現場指揮官は、実に的確な位置で東へと進路をかえた。5月2日の夕暮れを時である。
北軍の最西端に位置していた兵士たちは、突然予想外の西側から南軍が雪崩を打って襲ってきたため、瞬く間に潰走した。4000名以上は、全くの無抵抗のまま捕虜になるという凄まじさだった。
ジャクソンは日没を迎えてもなお、前進を試みようとしていた。彼は自ら偵察に出たのだが、これが運命の分かれ道になった。偵察からの帰り道、暗い森の中でジャクソンは味方からの誤射で負傷した。彼は護送され、指揮は配下のA.P.ヒル少将に引き継がれたが、そのヒルも負傷したため、スチュアートが指揮を担当することになった。
翌日5月3日、フッカーの臆病風は吹きっぱなしだった。彼はチャンセラーズビルからさらに更に兵を北東へ引かせたため、森の中の高台も放棄してしまったのだ。これはスチュアート率いる第二軍にとって、恰好の拠点となった。ここに大砲を引き上げ、ものすごい勢いでドカンドカンと「撃ちおろし」まくったのである。
この砲撃の一弾が、北軍の指令本部にまで飛んできてフッカーが負傷。指揮不能に陥った。何を思ったか、フッカーは指揮権の移譲を拒否した。これは指揮系統の麻痺と言うべきもので、フッカーはただ「撤退」しか指示できなかったに等しい。
フッカーの思惑その5.にあったように、フレデリックスバーグ方面の残留軍にも動きはあった。北軍のセジウィックは当初の予定通り攻撃を開始したのだ。
しかし、これも連絡不十分のためか、指揮系統混乱のためか、あまり成果があがらぬままセジウィックが兵を引いてしまったのである。
結局、5月4日には北軍のほぼすべてが、ラパハノック川東岸へ引きあげ、チャンセラーズビルの戦いは終わった。約6万の南軍に対し、倍以上の13万を擁した北軍が、死傷者1万7000を出して負けるという、かなり酷い結末だった。そのため、この戦いは「リーの完璧な戦い」と称されるようになる。
しかし、南軍も1万3000の損害を出している。南軍は勝ちはするものの、消耗は激しかった。さらにこのチャンセラーズビルでリーが、そして南部連合国が失った一人の将官の存在もまた、大きなものだった。
1.ラパハノック川東岸には、北軍のセジウィックが3万の兵とともに残っており、対岸フレデリックスバーグを拠点にしていたリーの南軍は、ここを空にすることができない。
2.しかし、北軍の主力13万はフレデリックスバーグの西チャンセラーズビルにあり、リーはただでさえ少ない兵力(6万)を分割して、チャンセラーズビルの北軍に立ち向かわねばならない。
3.両軍の南方には、北軍騎兵のストーンマンが撹乱行動を起こして、北軍が南部連合の首都リッチモンドを脅かそうとしているように見せかける。
4.リーは3.故に南に気を取られつつ、チャンセラーズビルの北軍に攻撃をしかけるが、北軍は圧倒的な数で押し返す。
5.時を同じくして、セジウィックがフレデリックスバーグを攻撃。南軍は、東西双方から挟み撃ちに遭う。
6.リッチモンド方面も気がかりな南軍は、一気に崩れて退却する。
1.と2.は、ほぼフッカーの思い通りに進行した。確かに、リーはデュバル・アーリー少将に1万2000を預けてフレデリックスバーグを守らせ、自分は残りを率いてチャンセラーズビルに向かった。
しかし。3.のストーンマンに関してはかなり早いうちに南軍のスチュアートがフェイクであることを見抜いており、リーにほぼ無視されたと言って良い。しかも、見破られていることにフッカーが気付いていなかった。
リーは4.のとおりにチャンセラーズビルの北軍に攻撃を仕掛けるのだが、その方法はフッカーの想像したものではなかった。リーは、さらに兵力を分割したのである。これは天才のなせる技で、真似をしない方が良い。分割された第二軍2万5000は、ストーンウォール・ジャクソン中将に率いられて、一路チャンセラーズビルの西側に迂回を始めた。時に5月2日。
樹海の中とはいえ、ジャクソンの行軍は北軍に見つかり、小さな戦闘が起きた。しかし、リーが圧倒的に少ない兵力でもって挟撃をたくらもうなどとは、フッカーは夢にも思わなかっただろう。ジャクソンの行軍はストーンマンの撹乱作戦に釣り出され、南方リッチモンドに向かう物だと判断されたため、ほぼ放ったらかしになった。
しかも、例によってスチュアートの騎兵が北側でバタバタと活動し、北軍の注意をそらすことに成功していた。
リーからは「迂回して西側から北軍を攻撃」程度の簡素な指示しか受けていなかったジャクソンだが、この天才的な勘を持つ現場指揮官は、実に的確な位置で東へと進路をかえた。5月2日の夕暮れを時である。
北軍の最西端に位置していた兵士たちは、突然予想外の西側から南軍が雪崩を打って襲ってきたため、瞬く間に潰走した。4000名以上は、全くの無抵抗のまま捕虜になるという凄まじさだった。
ジャクソンは日没を迎えてもなお、前進を試みようとしていた。彼は自ら偵察に出たのだが、これが運命の分かれ道になった。偵察からの帰り道、暗い森の中でジャクソンは味方からの誤射で負傷した。彼は護送され、指揮は配下のA.P.ヒル少将に引き継がれたが、そのヒルも負傷したため、スチュアートが指揮を担当することになった。
翌日5月3日、フッカーの臆病風は吹きっぱなしだった。彼はチャンセラーズビルからさらに更に兵を北東へ引かせたため、森の中の高台も放棄してしまったのだ。これはスチュアート率いる第二軍にとって、恰好の拠点となった。ここに大砲を引き上げ、ものすごい勢いでドカンドカンと「撃ちおろし」まくったのである。
この砲撃の一弾が、北軍の指令本部にまで飛んできてフッカーが負傷。指揮不能に陥った。何を思ったか、フッカーは指揮権の移譲を拒否した。これは指揮系統の麻痺と言うべきもので、フッカーはただ「撤退」しか指示できなかったに等しい。
フッカーの思惑その5.にあったように、フレデリックスバーグ方面の残留軍にも動きはあった。北軍のセジウィックは当初の予定通り攻撃を開始したのだ。
しかし、これも連絡不十分のためか、指揮系統混乱のためか、あまり成果があがらぬままセジウィックが兵を引いてしまったのである。
結局、5月4日には北軍のほぼすべてが、ラパハノック川東岸へ引きあげ、チャンセラーズビルの戦いは終わった。約6万の南軍に対し、倍以上の13万を擁した北軍が、死傷者1万7000を出して負けるという、かなり酷い結末だった。そのため、この戦いは「リーの完璧な戦い」と称されるようになる。
しかし、南軍も1万3000の損害を出している。南軍は勝ちはするものの、消耗は激しかった。さらにこのチャンセラーズビルでリーが、そして南部連合国が失った一人の将官の存在もまた、大きなものだった。
コメント
_ dema ― 2009/10/31 23:17
_ NI ぶち ― 2009/11/01 23:25
>demaさん
南北戦争関係の絵とかでは、けっこうリス・ウサギが飛び出して…というシーンが描かれていますね。
たぶん、実際はもっと木の生い茂った場所だったのでしょう。でもロケでは撮影困難。かと言って、CGも嫌…!というところでしょうか。
この映画、興味ありますね。うーん、日本語字幕が必要だ。それにしても実際のリーって、俳優さんよりも良い男ですね。うむむ。さすがだ。
いろんな意味で、興味深い映画の情報、ありがとうございます。
南北戦争関係の絵とかでは、けっこうリス・ウサギが飛び出して…というシーンが描かれていますね。
たぶん、実際はもっと木の生い茂った場所だったのでしょう。でもロケでは撮影困難。かと言って、CGも嫌…!というところでしょうか。
この映画、興味ありますね。うーん、日本語字幕が必要だ。それにしても実際のリーって、俳優さんよりも良い男ですね。うむむ。さすがだ。
いろんな意味で、興味深い映画の情報、ありがとうございます。
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参照 たぶん、映画Gods and Generalsからだと思います。
ジャクソン軍のすさまじい進撃の様子がリアルです。
ナポレオン時代の戦いとくらべると、見た目ダサイです。
でも、これが南北戦争ですね。まじめに作ってあります。
本には、「うさぎやリスが飛び出してきて、北軍兵士は初めて南軍の襲撃に気づいた」とありましたが、それほどいきなりではないですね。