催馬楽2009/10/16 23:38

 前の記事で、ディランの"Amen"の歌い方について、「一番似ているものを探すと、声明とか、催馬楽だろうか」と、書いた。わかりやすい例えではなかったかも知れない。

 声明は、「しょうみょう」と読む。仏教の世界で、仏典などを節をつけて歌う楽曲のことで、ほぼお坊さんが歌う物だと思って良い。その代表的なものが、天台声明と真言声明。その名でわかる通り、最澄・空海の時代から伝わるものだというのだから古い。
 断わっておくが、浄土真宗本願寺派の「仏讃歌」とはまったくの別物である。
 よく、雅楽を伴って演奏されることがある。私は演奏会で数度聞いたことがあるが、自分でやったことはない。基本的に、男性の単旋律だからこそ成立する音楽だろう。

 一方、催馬楽は「さいばら」と読む。無頼派の漫画家とは関係ない。
 平安時代、宮廷で歌われた歌謡の一種で、雅楽の一ジャンルと位置付けられている。その名前からも雰囲気は伝わるが、もとは民間に流行した労働歌のようなものらしい。これが雅な宮廷貴族たちのあいだで、盛んに唄われた。
 雅楽の楽器,三管(笙・篳篥・龍笛)はソリストのみで、さらに箏と琵琶がつく。そして、笏(聖徳太子や、おじゃる丸が持っている、あの木の板)を半分にしたような打楽器、笏拍子をパチーンと打ち鳴らして、歌をリードするようになっている。
 もちろん歌はユニゾンで、雅な詞をのんびりと引き伸ばしながら、典雅に唱和するのである。それが、ディラン様に似ているな…というのが、前回の感想なのだ。

 私は、音大時代に雅楽の授業で一曲だけ、催馬楽を歌った。代表的な催馬楽のひとつ、「更衣(ころもがえ)」だった。私は異常な音痴で歌が苦手なため、ひたすら笛を吹いていたかったのだが、何せ管はそれぞれ一人だけなので、いつまでも吹いているわけにもいかない。
 当然節回しも難しく、苦労した覚えがあるが、それでも楽しい思い出のひとつだ。