それ行け、ベンモント!(その4)2008/08/02 23:20

承前
TP&HBがデビューするまでのベンモントに関して、知り得る事を書き連ねてみる気になった。

 ワニが犬を食うゲインズヴィルから、ビジネスが人を食うハリウッドへ。RDADでも語られているとおり、マッドクラッチは、否応無くカルチャー・ショックを受けた。マイクなどは大人しいタイプなだけに、なおさらだろう。
 ベンモントも同様で、彼の場合バンドの末っ子として戸惑う事も多かったようだ。ベンモントは自分を「エイリアンのようだった」と表現している。

 (マッドクラッチの)連中はずっとロックンロール・バンドに居て、(マッドクラッチ・)ファームに住んでいたんだ。ぼくにはそういうのが分からない。ニュー・イングランドのボーディング・スクールに居たのだから。ものすごい違いだ。ぼくの父なんて、判事ときている。(RDAD Book)

 トムの目から見ても、その戸惑いは分かったようだ。

 (ベンモントは)あのころ、かなりテンパってたな。ぼくらに家のストーブを点けさせないんだ。ちゃんとした扱い方を知らないだろうからって、ガス漏れとかするのが怖かったんだ。
 あの時、ベンモントがジーンズを1本も持ったことがないってことも思い知らされた。進学校の服をずっと着ていたんだよ。ずっとブレザーを着ていた。(RDAD Book)


 やがて、トムには娘(エイドリア)が生まれ、ベンモントはジーンズを手に入れる。マッドクラッチには未来が開けていたように思えたが、やがてその終焉が訪れた。
 マッドクラッチは行き詰まり、トムは脱退を決意。マイクに行動を共にしてくれと言うと、快諾された。ベンモントは取り残されてしまった。パパまで説得してくれたのに。

 トムはこの時のことについて、「ベンモントには本当に悪い事をした」とRDADで述べているし、出来上がった映画を見た後の感想も、「ベンモントを置き去りにしてしまったなんて、信じられない」。
 ベンモント自身の感想は、「トラックにでも轢かれたみたいな気分」。その後、トムとマイクが名だたるLAのセッション・マンと仕事をしているのを見て、「永遠に仕事を失った」(PLAYBACK)と感じるのも、無理からぬ事だろう。
 危機感を持ったベンモントが、自分を売り込むために同じくゲインズヴィルから来ていたスタン・リンチと、ロン・ブレアを仲間にしてデモ作成を企てた ― このあたりから、既に歴史はTP&HBのそれとして始まっている。

 ベンモントはデモ・セッションにマイクの助力を頼み、その相棒たるトムもハープ(ハーモニカ)か、ベンモントのボーカル指導のためか、とにかく同席することになった。トムはこの「偶然」で集まった5人でのバンド結成を思い立ち、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが誕生するのだが ―

 私はこのTP&HB誕生の経緯に考えがおよぶたびに、僅かに思うことがある。ベンモントは本当に、― 純粋に ― 自分のデモ製作を目標としていたのだろうか?
 ベンモントはトムのバンド志向を知っていたはず。しかも、マイクとトムは御神酒徳利。 ―

 画策したとまでは言わないまでも、ベンモントはこの5人がそろうセッションをきっかけに、「すごく良い事」が起きる事を期待していたかもしれない。
 更に。もし画策めいたものがあったとしたら、マイクの仄かな意志が臭わないでもない。後に脱退したロンや、さきにマッドクラッチから零れ落ちてしまったランドル・マーシュが、マイクと繋がり保っていたことを思うと、これも絶無ではないと思う。これは、飽くまでも私の想像。
 かくして、ベンモントはトムがテンチ判事に言ったように、「稀有のチャンス」をモノにして本当の成功へと歩み始め、それがトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの始まりだった。時に1976年。ゲインズヴィルの楽器店で、ベンモント少年とトムが出あってから、10年ほどが経っていた。さらに、30年以上経った今でも、一緒にロック・バンドをやっている。


 ベンモントはファースト・アルバム[Tom Petty & The Heartbreakers] の写真には髭を蓄えた姿で写っている。それまでずっと、ボウボウできたわけだが、その後すっきりしてしまい、21世紀にまたはやし始めるまで、そのままだった。
 そもそも美男子のベンモント。非常に可愛い顔をしているので、髭は「俺は男だぞ!」という主張のように見えるのだが、どういう心境で剃ってしまったのだろう。会社側の売り込み戦略だったのか、単に気分の問題だったのか。

 ファンをしていると、この手のことが無性に気になったりする。

(おわり)

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